第6話 グッド・バイ

 鉄扉てっぴを開けると同時に、投光器の光が彼らを照らした。瞬時にコーションサインがディスプレイに映し出され、大量の敵をロックオンする。その数、457。

「457って何だよ・・・」

 あまりのことに呆気にとられ、間の抜けたことを漏らす。すると、途絶したはずの周波数から連絡が入る。チャンネルを開くと、聞き慣れた、忌々しい声が聞こえた。

「やあ、リョウ」

「父さん!?」

「今頃向こうの熱烈な歓迎を受けていることだろう」

「どういうこったよ!?」

「まあ、冥土の土産にでも教えてやろう。」

 リョウは、ここで死ぬ気などさらさらなかった。

「まだフライト・ユニットは生きてるよな!?あいつ連れて飛べるか!?」

「フライトユニット、パージ」

 父の声が聞こえるとともに、アルテリアの翼は装甲から吹き飛ばされた。機関砲の斉射が始まる。一点突破に一縷の望みをかけ、リョウたちは突撃した。切り込む彼の耳に、父が語る。

「16年前、グランド・キャニオンの只中で突如大爆発が起こった。すぐに調査隊が派遣されたが、通信途絶の上全滅。無人機の映像から判明したのは『細身の黒いMPA』がいた、ということのみ・・・。その後14年間、軌道上偵察衛星すら撃墜され、爆心地の状況は掴めず。しかし、14年が無人耐久限度、ついにそのMPAが回収された。しかも2体もだ。それがお前のアルテリアと、お隣のヴァルキュリアだ」

「何ッ!?」

 ヘビーメタルから放たれた徹甲炸裂弾が直撃する。手が地につき、非常用エネルギーフィールドが展開される。しかし、それが切れるのも時間の問題であった。

「我が国と連邦は秘密裏に、それぞれ1体を保管することに決定された。無論両国が兵器転用に躍起になったが、ヴァルキュリアはOSが未完成、アルテリアは搭乗者が適合率不足により全員死亡。そこに現れたのがリョウ、お前だ。まあ元はと言えばお前をアレに乗っけて殺そうとしてたんだが・・・。しかし向こうもヴァルキュリアの完全無人化に成功。我々はヴァルキュリアの大量破壊兵器によるパワーバランスの崩壊を危惧し、相互破壊を申し出た。——自国製でない兵器の不信感が最後まで払拭できなかったか、あるいは向こうがアルテリアを過剰に畏怖していたか——いずれにせよ、その申し出は受理され、そこにしれっとお前を混ぜ込んで抹殺しよう、となったワケだ」

「稼働テストがあんなザルかったのも、同ロットなのに所属が別々なのもそのせいか・・・!」

 エネルギーフィールドが切れる寸前、逃げ回るだけであったヴァルキュリアが彼を守り始めた。

「があッ!?・・・こん、のぉっ!」

 蔦が敵を串刺しにし、さらにそれを投げて2、3機を潰す。しかしこのままだとジリ貧になることは、その場にいた全員の共通確信であった。そしてこの負け戦に、最初に打開の方策を見出したのは極夜だった。

「リョウ、ジェネレータの全エネルギーを解放しろ!極夜お前も!」

「何とかなるんだろうな!?」

「多分!でも何もしないよりかマシだろ!」

「毎度のこと無茶苦茶言いやがって・・・!」

 2人はジェネレータをオーバードライブさせた。装甲の隙間から赤い光が漏れる。

 対消滅により発生する莫大なエネルギーが、周囲3m内に放出される。稲妻が走り、爆音と共に2人は消えた。

 次に2人が目を覚ましたのは、だだっ広い平原のど真ん中である。丸坊主の男が、物珍しそうに顔を覗き込んでいた。

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