少女が今立ち尽くす世界は、一面花畑。


 白、白、白、たまに白。


 全部白じゃないか。


 自分すら薄れてしまう一面の色に少女は自分を重ねる。


 地平線まで咲き誇る真っ白なお花たち。

 多種多様の混沌カオスなのに、見えるのはだけの世界だった。



 ここは心の中。


 彼女はすべての経験を、一面純白の世界で思い出していた。


 エーデルワイスに誘われて、大切な思い出をリメンバーして。


 拳に、力が余計に入る。


 少女はいつも褒められていた。


 外見だけを見られて、「綺麗だね」なんて臭いセリフを数十、数百、数千と言われ続けてきて。耳にタコができるほどに、彼女は聞き続けてきた。


 勿論、最初は嬉しかった。


 医者には病気、疾患だって言われたこの外見が、皆に褒められているからだ。嬉しいし、幸せだ。何より、元気が出て頑張ろうという気持ちになる。あの頃は私の外側を褒めてほしかった。


 でも、不思議だった。


 人間って刺激が欲しい生き物である。そんなわけで彼女はその言葉に飽きを感じたのだ。


 小さい頃はよかったけど、小学、中学、高校と年を取る最中。その喜びの丈は変わっていく。徐々に短くなっていった。


 とどのつまり、承認欲求が高まったということだ。


 内面を見てほしい。

 理解してほしい。


 より、多くの姿を見てほしい。


 なんておこがましいことだろうか、いや、おこがましい。


 もはや反語すら成り立たない。そのくらい、自分でもウザいと感じてしまうほど、彼女は承認してもらいたかった。


 そして、そんな自分の思いをと思ってしまったのだ。


 承認欲求は、つまり自己満足。

 すなわち、自慰行為だ。

 白髪の少女がマスターベーションをしている。


 なんだ? 想像しているのか? 醜い豚ども。まあ想像かんがえることは勝手だ。どうぞしていただきたい。勿論、するなら全力でね。


 自分の思いからなる自慰行為を彼女は知らぬ間に感じ、考え、行っていた。


 でも、本心だから。


 仕方ないと割り切った。


 正解だろう、当たっている。


 人間は愛を欲っする生き物だ。


 遠い昔、ルイ14世だったろうか。

 とある実験をしたそうだ。


 議題は「愛を知らずに育った赤ん坊は果たしてどう育つのか?」


 非常に分かりやすくて、単純すぎる実験。

 それを、国の王様は決行する。


 残酷だとは思わないか、私だったら凄くそう思うし何よりは顛末だ。


 結果、どうなったと思う?




 ほぼ全員、死んだんだって。


 



 生き残った子たちも何かしらの疾患を抱えたそうだ。


 故に、生き物であり、動物である、人間は「愛」がほしい。


 それも、純白のカーネーションのような「」を欲している。




 思い出すだろうか?

 ——母親の乳房を噛み締めて、飲み込んだあの愛情の込められた栄養を。


 知っているだろうか?

 ――父親が自分のために汗水垂らして働いていたことを。


 感じていただろうか?

 ——先に生まれた兄や姉の弟や妹を守ろうとするあの優しさを。


 きっと……少女も、これを読む君たちも忘れているだろう。


 でも、その経験は愛と言う形を物語って自分たちの体の一部に変わっている。


 絶対に、生きている糧になっているのだ。



 そこで、少女は戻る。


 今一度、目の前に立つ高嶺の青年を見つめる。


 大きくて、強そうで、何より怖い。


 いつも、見ていた彼の瞳が悪役のようにさえ見えてしまう。


 少女は一人、巨大な生き物に立ち向かっている様だった。

 

 

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