第7話 おやすみ

「君、すごいね。君の演奏のおかげで、なんだか私の体の調子もよくなったみたいだ。頭痛が消えたよ」

「!!」

 私の演奏の特徴。

 精神や傷も癒すこと。


「あの、えっと……」

 どうしよう。

 私の力は、誰にも話したことがない。

 というかそもそも、自分の傷とかにしか効かないと思っていた。


 でも、もしそうじゃないのなら。

 

「もしかして、この力、秘密だった?」

 察しが良すぎるレガレス殿下は、そう尋ねてきた。

「……はい」


 今の私は、まだ、幼い。

 この力に利用されずに、うまく付き合っていく方法がまだわからなかった。


「……そっか」

 レガレス殿下は考え込むと、小指を差し出した。

「じゃあ、私も君の力を口外しない。約束だ」

「約束……」


 私のものよりも少し大きい小指に自分の小指を絡ませる。

「あぁ、約束だ」


 大きく頷いて、指が、離される。


「ところで、君の……」

 レガレス殿下が何かを言いかけたとき、誰かがレガレス殿下を呼ぶ声が聞こえた。

「……行かなくちゃ。帰り路はわかるかな?」 

 頷くと、レガレス殿下は去っていった。

 名残惜しく見送った後、大慌ての父が迎えに――。


◇◇◇



「……大丈夫か?」

 体を揺すられ、目を覚ます。

 聞き覚えのない声に驚きつつ瞼をこする。

「……は、い」

 きょろきょろとあたりを見回すと、そこは質のいい部屋だった。


「なら、いい。初めてだったのに飲みすぎたんだろう」

 美しい青年にそういわれて、先ほどまでの記憶を思い出す。

 そうだ、わたし……。


「ありがとうございます、ガロンさん。ところで、この部屋は……」

「よかった。記憶をなくすタイプじゃなかったんだな」

 確かに。酔っぱらって記憶をなくす人もいるっていうものね。


「……この部屋は、俺がとってる宿の隣室だ」

 酔っぱらって眠ってしまった私を、ここまで運んできてくれたのかしら。

 ……それはかなり恥ずかしいわ。

 あとで、酒場代と部屋代を返そう。

「それで、記憶をなくしていないということは、先ほど話した、仕事の件も、憶えているか?」

「はい、もちろんです」


 仕事の話に、姿勢を正す。


 ガロンさんが私にした提案、それは、子守りをしてほしいとのことだった。子守りと言っても、何か曲を毎日聞かせればいいらしいけれど。


「じゃあ、問題ないな。酒場代と部屋代は、前報酬みたいなものだと思ってくれていい」

「ええ!? ……でも」

 さすがに申し訳ないというか。

「そんなに気にしなくていい。そうだな、気になるというなら……」


 ガロンさんは、真剣な目をして私を見た。

「今後は見知らぬ男の前で、隙を見せすぎないこと、を注意してくれたら、こちらも十分な対価になる」

「……わかりました」


 ガロンさんには、多大なる迷惑をかけてしまったし。

 それにガロンさんじゃなければ、危ない目にあっていたことも考えられるものね。


 自分の軽率な行動を反省しつつ、頷くと、ガロンさんは、微笑んだ。


「わかってくれたなら、いい。今日は、ゆっくり休んでくれ。仕事の詳しい内容は、明日また、話す」

「はい」


 ガロンさんはすたすたと部屋を出ていこうとし、それから思い出したように振り返った。

「……おやすみ、ラファリア。良い夢を」

「! おやすみなさい、ガロンさん」


 柔らかいその表情に驚きつつ、私もガロンさんに手を振り返した。


 

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