夢見たものは…

伽羅

第1話 プロローグ

 華やかなパーティー会場でリリアーナは前方にいる男女に目をやった。


 仲睦まじく話をしている二人はこのパーティーの主役である王太子アロイスと婚約者のルイーズだ。


 王宮でパーティーを開くと知らされて誰もが王太子の婚約発表だと確信をしていた。


 そしてその相手が公爵令嬢であるリリアーナではなく、格下の伯爵令嬢であるルイーズだと言う事は誰の目にも明らかだった。


 通常であれば王太子の婚約者は身分の高い公爵家から選ばれるはずだった。


 実際、リリアーナは婚約者候補の筆頭に位置していたし、両親もその心積もりだった。


 その確固たる地位が揺らぎ始めたのは、貴族が通うアカデミーに入学してからだった。


 王太子であるアロイスも将来の側近や社交を深める一貫として通っていた。


 そこで彼は運命というべき出逢いを果たす事となった。


 貴族同士であるからお互いに見知ってはいたが、アカデミーで交流するうちにアロイスとルイーズは急接近していった。


 リリアーナが気付いた時には既にアロイスはルイーズだけを見るようになっていた。


 それでも変わらず婚約者候補の筆頭にいたリリアーナだったが、最終決定でアロイスはルイーズと結婚すると譲らなかった。


 王宮からの使者でその決定を知らされたリリアーナは目の前が真っ暗になった。


 なぜならリリアーナはアロイスを愛していたからだった。


 初めて会った時からアロイスを好きだったリリアーナは、彼と結婚する事を夢見ていた。


 アカデミーで他の女性と話をしているのを見ても、いずれは自分と結婚するのだからと干渉しなかった。


 正式な婚約者でもないのに、口を挟んでアロイスに嫌われたくはなかった。


 アロイスはリリアーナにもちゃんと向き合ってくれていたからだ。


 だが、後から考えてみればアロイスは誰にも優しかった。


 それでも王国の為に公爵家令嬢である自分を選んでくれると思っていたのに、彼は自らの愛を選んだ。


 アロイスの行動を「愚か」だと切り捨てる貴族と「真実の愛を貫いた」と絶賛する貴族に分かれた。


 リリアーナは唇をきつく噛み締めた後、笑顔を貼り付けてアロイス達に近付いた。


「アロイス樣、ルイーズ樣。この度はご婚約おめでとうございます」


 平静を保とうとするリリアーナに、アロイスとルイーズは満面の笑顔でそれを足蹴にする。


「リリアーナ嬢、ありがとう」


「リリアーナ樣、ありがとうございます。リリアーナ樣も早くお話が決まるとよろしいですね」


 ルイーズの余計な一言が更にリリアーナの心を抉る。


 この場にルイーズと二人きりだったならば、リリアーナは間違いなくルイーズを八つ裂きにしていただろう。


「わたくしの結婚に関しては父に任せておりますわ。きっと公爵家の為に最良の方を選んでくれますわ」


 アロイスに対する当てこすりのつもりだったが、当の本人は意に介していないようだ。


「公爵は有能だからね。きっとリリアーナ嬢にふさわしい相手を選んでくれるさ」




 そうして迎えた結婚式の日、リリアーナは自らの心を押し殺して参列した。


 欠席をして陰であれこれ噂されるのは真っ平御免だった。


 あんな格下の伯爵令嬢に負けたと思われたくはなかった。


 隣に座っている父親が冷たい目でアロイスを見るのが少々気になったが、父親もまた伯爵家に負けたのが悔しいのだろうと思っていた。


 そのうちに家の為に何処かに嫁がされるのだろうと思っていたが、何故か父親は何処との縁談も断っていた。


 気の進まない結婚を強いられるよりはマシだと思い、父親の行動はさして気にも留めていなかった。


 だが、アロイスの結婚から三年後、事態は思わぬ方向へと転がっていった。

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