男の娘みたいな道具屋はショタコン魔女から溺愛されて大困惑です!!~最弱冒険者が五つ星(クインテット・スター)の女魔術士に拾われたら唯一無二の付与魔法剣士に成長してしまいました~
第1話① 役立たずの付与魔法剣士(エンチャンター)
第1話① 役立たずの付与魔法剣士(エンチャンター)
「サント。今回でパーティーから外れてくれ」
――またかぁ……。
リーダーのカインは顔を赤らめ、まるで直視してはいけないモンスターを見るような目で、まだ幼さの残る少女のことを睨みつけた。しかし、その視線はすぐに泳ぎ、まともに彼女の顔を見据えることが出来ないでいる。
パーティーメンバーも同様に少女から視線を逸らす。
――もう
サントがクビ宣告を受けるのは何度目だろうか? 彼は自問自答を繰り返しながら、テーブルの木目をじっと見つめていた。
彼?
そう。パーティメンバーと向かい合って座るのは、小柄な冒険者。サラサラで綺麗に切り揃えられた金髪に、幼さの残る可愛らしい顔。おおよそ冒険者とは思えない風体の少年が俯き気味に座っていた。
少女ではなく少年だった。
リーダーが何か身振り手振り大袈裟に動かしているのが視界の端に映る。しかしながら、内容は全くサントの耳に入ってこない。
「おい! 聞いているのか、サント!」
バンッ!
カインが机を叩く音がギルド中に響き、少年は慌てて顔を上げた。
大きな音に驚いて思わず涙目になるサントと、カインの視線がぶつかる。
「すっ、すまない。ちょっと感情的になり過ぎた……」
顔を赤らめたリーダーが慌てて目を背ける。
「そもそも、お前。本当に男なのか? その声、その見た目! どっからどう見ても女の子じゃないか!」
――あぁ、そこからか。
僕だって好きでこんな女の子みたいな顔をしている訳じゃないよ……。
そりゃあ、小柄で街でも可愛いと評判なのがうちの母親だし。父親も細身で綺麗な人だったらしいから、どうしようも無いでしょ?
サントは周りに聞こえないぐらいの声で独りごちる。
「それにな。サポートの付与魔法を使えるって、ギルド長に紹介されたから、無星のお前をわざわざ俺たち
カインの愚痴を聞きながら、少年はまだテーブルの木目を見つめていた。
――だって僕は道具屋だもん。はぁ、今回も報酬は貰えなさそうだね……。
「私は最初から反対だったんだよね。こんな風紀を乱す奴なんて必要なかったのさ」
これは女性魔法使いの声。
――最初から僕に敵意むき出しで、本当に男か?って麻痺の魔法を掛けて、僕の服を脱がそうとしたことは一生忘れない。
「俺なんか、コイツを見ていると、荷物落とすんじゃないか?とか、怪我すんじゃないか?とか、ハラハラドキドキして戦闘に集中できなくなるんだ」
――前衛の戦士さんに心配かけたのは申し訳無いけど、顔を赤らめて恥ずかしそうに言うのは、何かが違うんじゃないかな?
「こんな女子にしか見えない男の子なんてありえません! 淫魔が化けているのかも知れません。教会の異端審問に掛け合うべきです!」
そう言ったのは、男性メンバーにチヤホヤされなくなったから、僻んでいる女性神官だ。
――えっ、それ本気で言っているの?
「……ボソッ(でも好き)……」
――いまの誰が言ったの?
周りのテーブルでこっちの会話を盗み聞きして、ヒソヒソと話をしている声が聞こえる。サントはどんどんと肩身が狭くなっていると感じていた。
――そろそろ冒険者を辞めて、実家の道具屋に専念しようかな。
ガタン。
カインと他のパーティーメンバーたちが椅子から立ち上がる。
その音につられて少年は顔を上げた。
「サント、お前の分け前はゼロだ。文句は無いな」
そう言うと、カインたちはテーブルを離れて、ギルドの受付カウンターへと報酬を受取りに向った。
報酬を受け取り、彼らがギルドから出ていくのを横目に見送ると、サントは深くため息を付いた。
気が付くと、ギルドに併設された酒場にはいつもの喧騒が戻っている。
――家に帰えろう。
サントは立ち上がろうとして腰を浮かしたが、屈強な二人の男たちに両肩を掴まれて、強制的に椅子に引き戻されてしまった。
「道具屋! てめぇ、またクビになりやがったな。もう冒険者を引退して実家の店を継げよ!」
酒臭い息が少年の顔にかかる。
男たちはサントと同時期に冒険者になった戦士たちだ。先日、二つ星になったばかりで、同期の中では一番の出世頭だった。この街のギルド出身で、久し振りの
大男の一人が少年の綺麗な髪の毛を掴み、テーブルに押し付ける。
「サントよぅ、5年も冒険者やっていて、最低の無星から抜け出せられない奴はいないぜ! 絶望的なまでにこの仕事に向いてねえから、命を落とす前に引退しろや……」
「痛いよ、テッドさん。勘弁して……」
サントの可愛らしい顔が押し付けられて、テーブルが小さく悲鳴を上げている。
「ウチラもこの街の生まれだからよ、てめえの母ちゃんだって知らねえ顔じゃねぇ。てめえの為に言ってんだせ!」
少年は愛想笑いをしながらテッドの仕打ちに耐えていた。
――いつもの事だ。少し我慢していれば興味を失って離れてくれる。でも、テッドさんが母さんの事を口にするのは珍しいな……。
我が家は祖父の代から北の都で道具屋を営んでいた。代々、付与魔法を使って道具の価値を上げては販売をしている。
品揃えも良く、オーダーメイドで付与魔法を駆使したりするから、冒険者達からも引き合いの多い店だった。
――まぁ、母さんがお店を継いでからは女性客も増えたけど。
だが、小さな頃から冒険者たちを見続けてきたことや、曾祖父が冒険者だったと聞いていたことから、サントは実家の仕事よりも冒険者に憧れていた。
――その結果がコレ……。
テッドに髪の毛を引っ張られて少年は美しい顔を歪める。
「今どき、素早いだけの
「でっでも、カラフルポーションは役に立ったでしょ?」
「いくら一つのポーションにHP回復だの解毒だの入っていたって、効果が薄けりゃ栄養ドリンクと変わらねぇよ!」
――そんなぁ、せっかく得意の掛け合わせ魔法で作った、自信作だったのになぁ……。
美少年は残念そうにうつむく。
「ちょっと面白そうな話をしているわね……、そのカラフルポーションについて詳しく教えてもらえるかしら?」
急に話しかけられたサントたちが、声のする方向に視線を向けると、派手な赤い帽子を被った女魔術士が、悦に入った表情で不思議な立ちポーズを決めて立っていた。
――あれって、なにかの決めポーズかな? なんかヤバそうな人が絡んできたなぁ……。
机に頬を押し付けられたまま、サントは不思議そうな表情を見せた。
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