第12話
振り返ると、アランは辛そうな表情をしていた。
「お嬢様、もう十分です」
「でも」
「私なら大丈夫ですから」
私の目を見て言う彼に渋々腕をおろす。
よくよく見れば、アランの手が震えていた。
急に驚かせて申し訳なかったと今更ながら反省する。
「……怖がらせてごめんなさい」
「いえ、本来ならば私がお守りするべきなのにお手を煩わせてしまい申し訳ありません」
戦うことに集中していたのか、いつの間にか耳と尻尾を隠す魔法が解けていた。
申し訳なさそうに垂れ下がる尻尾を見てこんな時に絶対に思うべきではないが思ってしまう。
可愛いっ…!!
私が口元を抑えて悶えている隙をついて動けそうな奴らが逃げようを体を動かした。
「あっ、駄目よ逃げたら」
指を鳴らして裏道にツタを張り巡らせる。
さらに簡単に逃げられないようにツタで体を拘束した。
「骨折れてる人は痛いと思うけれど自業自得だと思って我慢していてくださいね」
呻き声すらもうるさいためツタで作った口枷も噛ませておいた。
これで少しは静かになるだろう。
「…お嬢様」
「なーに?」
アランは私を見て少し躊躇った後口を開いた。
「…もしも私がお嬢様に危害を加えたら、お嬢様は同じようになさりますか?」
彼は泣きそうな顔をしていた。
そんな顔しないで欲しい。
私はアランの頬を両手で包み、しっかりと目を合わせた。
「私は私に危害を加えようとしたから怒ったのではなく、あなたに危害を加えたから怒ったのよ」
「わ、私ですか…?」
「当たり前でしょう。私の執事に危害を加えたの。それも私が想いを寄せている執事に。許せるわけないでしょう?」
そう言って笑えば、アランの目から涙がこぼれ落ちた。
彼が泣くところなんて初めて見た。
今はまだ気づいていないふりをしておいてあげるわ。
「…紅茶ならまた買いに来ましょう?私のティーカップも見繕ってもらえるかしら」
「勿論です」
鼻をすすりながら微笑む彼の頭を撫でる。
撫でていない方の腕に尻尾を絡めてくるあたり本当に可愛いと思う。
「ちなみにあの方々はどうなさるおつもりですか?」
「うーん、国際問題になったら嫌だし秘密裏に帰してあげようかしら。獣人国との国境に置いておけばいいでしょう」
魔力の塊を生み出して大きな鳥を作る。
鳥は生まれたばかりでも私を主人と認識しており、大人しく指示を待っている。
目くらましの魔法を鳥にかけながら指示を出す。
「ツタで巻かれている者たちをシェルニアスと獣人国の国境にある森に置いてきてちょうだい。それが終わったら帰ってきて」
鳥は頷くと、大きな口を開けて奴らを次々に呑み込んでいった。
呑み込むのは運搬が楽だからだが、何度見てもすごい光景だ。
全員を呑み込み終えると、若葉色の翼を羽ばたかせて飛んで行った。
「よし、じゃあ馬車との待ち合わせ場所に向かいましょうか」
呆然としているアランの腕を引いて待ち合わせの広場へ向かった。
馬車に乗ってからアランの頬の傷は魔法で治したが、服についた汚れまでは取れない。
よく見れば所々解れており、それを見るとさらに怒りが湧いてくる。
「……アラン、他に痛いところはない?」
「いや、大丈夫ですよ!他の所は自分で治療できますから!」
「そう言うってことは痛いところがあるんでしょう?大人しく見せなさい」
馬車の中で騒ぎ合っていれば、いつの間にか家に着いていた。
扉を開けてくれたメイドはアランの服を見て驚いた声を上げる。
「アランさん!?どうしたんですかその服…もしかしてお嬢様に何かあったのでは…」
「えっと…」
「変な輩に襲われたけれどアランが守ってくれたおかげで私は無傷よ」
「リ、リディア様」
アランが困ったように口ごもったたため助け舟を出す。
彼はそれを訂正しようとしたが、尻尾を掴んで止めさせた。
声が上ずったアランをメイドは不思議そうに見たが、私たちの無事が確認できたようですぐに笑顔になったのだった。
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