光と闇の間で 2023/12/02

 オレの心は光と闇の間で揺れていた。

 今、オレの目の前には、財布が落ちている。


 もちろん拾って交番に届けるべきなんだろう。

 その一方で、この中に入っている金をネコババすれば、生活は楽になる。


 自分の中の天使が言う。

―困っている人を助けるべきだ、と。


 自分の中の悪魔が言う。

―大丈夫、バレはしない、と。


 悪魔はささやく。

―これでいいものを食おうぜ、と。


 悪魔はさらに追撃をかける。

―欲しいゲームあるだろ、と。


 悪魔はこれでもかと誘惑する。

―よし、じゃあ買い物行こうぜ、と。


 さっきから悪魔の押しが強い。

 天使も困ってる人を助けるべきだ、としか言わない。

 もっと無いのかとも思うが、オレも何も思いつかない。


 自分の心は汚れているのだろうか?

 違う。

 たとえ心は汚れていても問題ではない。

 どう生きるか、どう行動するかが問題なのだ

 確か、婆ちゃんもそう言ってた。


 そうと決まれば話は早い

 オレは財布を握りしめ、近くの交番に向かう。


 意外にも悪魔は反対しなかった。

 そして悪魔はつぶやく。

―まあ、落とし主が美人かもしれないからね、と。

 期待してないといえば嘘になるが、そんな都合のいいことはない。



 交番に行って遺失物の届け出を書いていると、なんと婆ちゃんがやってきた。

「あら、その財布。おばあちゃんのものね。拾ってくてありがとう」

 そう言って婆ちゃんは、いくつかの確認の後、財布をお巡りさんから受け取る。



 一緒に家に帰ったあと、婆ちゃんは財布からお金を取り出して、オレにくれた。

「拾ってくれて、ありがとうね。はい、お小遣いあげるわ」


 オレは、渡されたそのお小遣いを、どんな感情で受け取るべきなのか?

 オレの心は光と闇の間で揺れていた。

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