第20話 異世界転移先に風呂があるのは基本

 都市に着くと喧騒が俺らを迎え入れた。やはり怯えるものや慌ただしく駆け回る者が目立つ。改めて絶対龍種ドラゴンという存在はこの世界の人間にとって脅威そのものであることがよく理解わかる。


 色々聞き回ったり探索とかもしてみたかったが、日暮れが近づいているし何より疲労感が強い。

 幸い入口周辺に宿らしきものがいくつかあったので、比較的外観が整ったものを選びすぐさま入ることにした。


 宿に入ると威勢の良さそうな女将さんが迎え入れてくれた。


「いらっしゃい! ……ってアンタ達うちはそこそこ高いけどお金は払えるのかい?」


 女将さんは俺らを見て怪訝な表情を浮かべた。俺らの外観年齢から支払能力に疑いを覚えたらしい。


「いくらですか?」


「銀貨三枚だね」


 今一貨幣の価値が分からないな。

 そこそこ高い宿で銀貨三枚ということは、銀貨一枚日本円にして一万円ぐらいなんだろうか。一泊三万円の宿と考えるとそこそこの価格と考えれるし。


「あ、大丈夫です」


「そうかいそうかい、なら良かった! うちは最近流行りの湯浴みもあるから堪能してくんなっ!」


「お風呂があるの!?」


 これには流石のアリスも珍しく高音を上げた。気持ちは分からなくないし俺も同じ気持ちだ。異世界ということもあり諦めていたがこれは嬉しい誤算だ。


「部屋は一部屋でいいかい?」


「あ、別々でお願いします。可能なら隣同士だとありがたいですが……」


 アリスにキモがられない不安なところである。

 まぁその?同い年の、しかも学年一の美少女と名高い同級生が隣の部屋で寝泊まりするのは些かドギマギするがこれは仕方ないことなのだ。常に世界平和を考える俺に下心など存在しない。本当だよ?


 冗談はさておきここは異世界で安全な日本じゃない。警戒するに越したことはないだろう。隣部屋なら緊急事態トラブルにもすぐさま対応出来るだろうし。


「……」


 アリスもそれが分かっているのか特に嫌がる素振りは見せなかった。ふぅ……(安堵)。


「ふぅん、てっきりそういう関係だと思ったけど……ま、あんまり余計なことは言わない方が良さそうだね。料金は倍額になるが構わないかい?」


「あ、はい」


 日本円換算にして六万円か。一般高校生の俺からしたら相当な大金だが所詮は王国から拝借したお金だ。どうでもいいかガハハハッ。


「まぁ随分と太っ腹だね。よく見ると身なりは綺麗だしもしかして貴族様のお忍びだったり……おっと余計な詮索はマナー違反だったねガハハハッ!」


 女将さんは腰に手を当てて豪快に笑った。


 各々の部屋に案内された後、とりあえず俺は風呂に入ることにした。



 ◆



「あ~いい湯だった~」


 風呂に入り終えた俺は用意された部屋着に着替えそのままベットに倒れ込んだ。


 風呂は流石に個室タイプではなく男女別に分かれた共同浴場。つまりは日本の銭湯スタイルだ。といっても宿に泊まった人間しか使用できないのでそこまで混雑しておらず、それなりに清潔感が保たれていたので快適と言えた。


『お湯に自ら浸かりに行くなんて信じられない文化ですよ』


『ねーせっかくすべすべなお肌に錆でも入ったら大変なのにねぇ~』


 いつの間にかアイテムボックスから勝手に出てフワフワ浮かぶ聖剣ちゃんと魔剣ちゃん。こいつらどんどんフリーダムになっていくな。


 人間からしたら体に良いことずくめだが彼女たちのように武器だと勝手が違うらしい。ふとメンテナンス等のことはした方がいいのかと思ったが、余程の損傷をしない限り自動修復機能があるらしく問題ないらしい。流石万能を自称するだけはある。


 その後はアリスと軽く相談し、本格的な活動は明日にして今日は早々に寝ることに決めた。



 ◆



 コンコン


 部屋の明かりを消して数刻たった頃、部屋にノックの音が鳴り響いた。アリスだろうか。案外トイレに一人でいけないとかそういう理由だったりして。そんなわけないか。


 ドアを開けるとそこには案の定ローブを纏ったアリスが立っていた。風呂に入った後なせいなのか女子特有の甘い香りが鼻腔をくすぐってくる。それに多分に水分含みしっとりとしたように見える髪も相まってかどうしても官能的に見えてしまう。


 ヤバい。俺は今とてつもなくキモい顔をしているような気がする。


「明星君……」


 彼女はなんとも艶のある声で俺の苗字を呟くと、何を思ったのか身に纏ったローブをはだけた。


 は? え、いやうん……は???


 目の前の光景があまりにも荒唐無稽に感じ、脳そのものがバグる感覚に陥った。

 なにせどういう因果か彼女はローブの下に一糸すらも纏っていなかったのだ。


 はい??? まじでどゆこと???






◆いかがだったでしょうか。


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