第13話 命を懸ける決断は誰のもの?

 「やっ!今日は天気がいいね!」


 校庭のベンチに座り、お昼ご飯を食べいたタケちゃんと田中が振り返る。


 「おっ!葵!おーい!星科に移るってどういうことだよ!?羨ましい!!何したんだ!?お前!?」


 田中が口にハンバーグを含んだまま大声を出す。田中は純粋に本当に、羨ましがっているようだ。それを見たタケちゃんが話す。


 「田中、口の中のものを腹の中に入れてから話せ。それに、星科なんて全く羨ましがる要素はないぞ。死と隣り合わせのクズハキを目指している場所だぞ。何でこんなことになったんだ葵?」


 タケちゃんは相変わらず冷静だ。そして賢い。そして相変わらずブレザーが似合い過ぎている。


 「えーとね、昨日学校休みになったじゃん?」


 「あー、爆弾電話だっけ?あれ最高だよ!休みになったしさ!おかげで勉強が久しぶりにはかどった!電話してくれた奴には感謝だわ!」


 不謹慎なことに目を輝かせて感謝している田中。でも僕が今回、部外者になれていたら、学校が休みになったことを呑気に喜んでいただろう。


 「その電話したの僕なの」


 田中は口の中のハンバーグを外に放り出し、タケちゃんは飲み物を口に運ぶ手を止めた。


 「えええ!?葵がしたの!?爆弾電話!?」


 田中が空中に放り出した、ハンバーグを間一髪で掴み、それを握り潰した。


 「え...本当に?お前が?嘘...なんて言わないもんなお前。じゃあマジで...何でそんなこと?」


 タケちゃんも珍しくクールじゃない表情を浮かべている。二人をこんなに驚かせたのは久しぶりだ。何か懐かしさを感じる。


 「夢を見たんだ。学校のみんながダストに殺される。田中もね。タケちゃんはサボってたからいなかったけど。タケちゃん昨日サボる予定だったでしょ?」


 タケちゃんは少し考え込んだ後に一言だけ呟いた。


 「...予知夢か?」


 「え!?なんで分かっちゃったの?」


 「いや、勘だよ勘。でも大体分かったよ。だから爆弾電話か。そんな夢見たって、馬鹿正直に電話しても信じてもらえないもんな。なかなか賢いことするな葵」


 賢過ぎるタケちゃん。推測能力が高過ぎる。呆然としてる田中とは訳が違うな。


 「どゆこと???」


 「星科に他人のギフトを見ることが出来る子がいて、その子に見てもらったんだ。そしたら僕のギフトが予知夢ってことが分かった。僕の見た夢は現実になるところだったの。あの電話のせいで危うく逮捕されそうだったけどね」


 「その星科の子って女の子?」


 今の話の内容から最も可能性が低そうな質問が来て驚く。他にもっと気になるところがあるだろ。何で性別が気になるんだよ。


 「え?あー、うん。女の子だったよ」


 「同い年?二年生?」


 「そうだよ」


 「なら俺見たことあるかも!俺らのクラスにはいないけどさ、星科の生徒がたまにこっちの教室に授業受けに来るじゃん?そん時に隣のクラスに行ったら、その子見てさーめっちゃ可愛かったわ!ちなみに二年の星科には女の子は一人しかいないからその子で間違いなし!この情報は信じていいぜ!」


 田中の言った通り星科の生徒は普通科の教室に来て、一緒に授業を受けることがある。それにしても田中は詳しいな。他の星科の二年生の顔とか見たことがない。一応、星科の生徒になった僕より田中の方が詳しいとは。


 「いいなぁ葵!可愛い女の子と知り合いにもなれて、ピンチの状況でギフトが目覚めてみんなを救うとか!最高じゃん!ありがとな!俺たちの命の恩人!」


 昨日、学校に爆弾を仕掛けたって電話をしなかったら、田中と会話することは出来なくなっていたのか。この笑顔を見ることも、もう二度と出来なくなっていた。よかった。誰かの命の恩人になれて。


 「で、何で逮捕されずに済んで、葵が星科に入ることになったんだ?」


 黙って田中の話を聞いていたタケちゃんが聞いてくる。


 「星科に元警察の先生がいて、その人が頑張って話を付けて、僕の予知夢のギフトは今回みたいに周りの被害も抑えることが出来るから、それを駆使して星科で頑張るなら無実!みたいな感じになったから星科に入った。学校側も逮捕者が出て評判が落ちることを阻止出来て、僕も逮捕されなくて得得だよ」


 「学校側は得しかないだろうな。お前が何もしなかったら、星科がある学校にも関わらず、ダストによる被害が出まくって世間からは大批判されていた。で、学校にとっての救世主も素直な奴でこっちの言うこと聞いて星科に来てくれた」


 そうだ。学校側は得している。そして僕も得をしているはずだ。だって逮捕されずに済んで、今日もいつもと同じように学校に通うことが出来ているから。


 「でもお前はどうだ?人に褒められるべきことをしたのに、くだらないルールに乗っ取って犯罪扱いされて、危険な星科に来れば許してやるって。脅迫電話くらいじゃ死刑にはならないのに、死ぬ可能性がある星科に導かれた」


 くだらないルール。それは申請書を出さずにギフトを使用すると逮捕されることを言っているのだろう。


 「それなら大丈夫だよ。だって高校の間は特に危険な仕事はないって先生が言ってたし」


 「そんなの嘘に決まってんだろ!?お前だってニュースくらい見るだろ?星科の生徒が死んだり行方不明になったりしてるのを知ってるはずだ!?学校はお前を都合のいい奴くらいにしか思ってねえよ!学校の評判と何千人もの生徒の命を救ったお前を生贄にしてんだよ...」


 僕も田中も呆然とする。声を荒げるタケちゃんを見たのは初めてだった。そんなタケちゃんの言葉を聞いて自分の決断が揺らぎそうになる。


 「葵なら大丈夫だって!根性あるからさ!」


 張り詰めた空気を切り裂いたのは田中の声だった。百パーセント純粋な田中の笑顔を見て安心した。


 「それに元々、星科には興味があったんだ。僕が一方的に利用されている訳じゃないよ。この学校に転校して来たのも、少〜しだけ星科に入ろうかな〜って思ってたから。いい機会になったよ」


 「そうか...初めて聞いたよ。まあ消去法で命懸けの仕事選ばされたんじゃないならいい。自分で決めたことなら頑張れよ。応援してる」


 「ありがと」


 「急に怒鳴って悪かったな。俺はただ、救世主になって死ぬより、犯罪者としてでも生き延びた方が幸せになれる可能性が高いかもって思っただけだから。俺も田中も他の奴らも、事情が分かれば誰もお前を責めたり、避けたりなんてしないからさ」


 タケちゃんは立ち上がり校舎へ歩き出す。


 「田中、もう昼休み終わる。今週はトイレ掃除だから早くしろよ」


 タケちゃんは立ち上がり校舎の方へと、スタスタと歩いて行く。


 「あっ待ってよー!葵!別にお前転校する訳じゃないだろ?学科が変わるだけだ!死ぬまで俺たちは親友だ!いや、死んだとしても親友だ!またどっか遊びに行こうぜ」


 田中は弁当を急いで口に詰め込み、ダッシュでタケちゃんを追いかけていった。


 「あー!あと!星科の3年生にめっちゃ美人がいるらしいから見たら教えて!どんくらい可愛かったか!」


 わざわざ振り返り、立ち止まって伝える事がそれか。しかし、今はそんな言葉は耳に届かなかった。


 「そっか、死んだとしても親友か…」


 そういえば、田中もギフトを使っていたな。消しゴム以上の練り消し作ってたし。でも教える必要はないな。アイツに教えたらクズハキ目指す!とか本気で言いそうだしな。


 先程まで、雲ひとつなかった空が曇り始めた。


 「今日雨降るんだったけ、傘ないや。走れー!」


 雨が頭皮に触れる前に家に帰ろう。

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