第11話 社会orダスト

 「一番大事な所を説明してないなんて、一体何のためにその資料取りに行ったんですか?」

 

 理恵加さんはそう言って、ため息をつく。


 「ごめんごめん〜車の運転に必死でさ〜今から説明するから〜」


 「いや、私が説明しますよ。清水先生の説明分かりにくいから。資料の確認でもしていてください」


 「...は〜い」


 教師が生徒に説明が分かりにくいって言われるの辛いだろうな。清水先生もめっちゃ落ち込んでるように見える。


 「今から一番大事なこと説明するからね」


 「うん」


 大事な説明とはなんだろうか?僕の身柄の行方と処分とかか?汗が生まれて来そうだ。


 「葵君は学校に爆弾仕掛けたって電話したじゃん?これが犯罪ってことは分かってたと思うし、みんなを助けるための電話だってことも私たちは分かってる」


 その通りだ。犯罪者になってもいい覚悟でみんなを助かるために爆弾を仕掛けたなんて電話をした。


 「さっき私がギフトを見て、葵君が予知夢のギフトを持っていることが分かったじゃん?ギフトの申請書は知ってるよね?」


 「うん」


 申請書とはギフトが発現した者が国に提出する書類だ。ギフトを仕事などで使用する際には、この申請書の提出が必要不可欠になる。クズハキも、もちろん提出している。申請書の提出をなしにギフトを使用して、それが発覚した場合は問答無用で逮捕される。


 「あー、何となく分かったかも。僕は爆弾の脅迫電話で犯罪者になって、ギフトの無断使用でも犯罪者になっちゃったって話?」


 「そう。特にギフトの無断使用は罪が重い。そこに悪意が有っても無くても関係なくね」


 悪意なんて全くない。善意しかないのに、それでも逮捕されるなんて厳しいルールだ。


 「僕は今ダブルパンチ犯罪者でかなりピンチってことだよね?」


 「うん。葵君もピンチだけど、この学校もピンチなの」


 「え?なんで」


 「この学校は一応名門校だから、学校から犯罪者が出たって報道されるの困るらしいの。でもそれ以上に星科がある学校でダストによる被害者が出るのは困るから、それを防いでくれた葵君には感謝しても仕切れない」


 「で、僕はどうなるの?」


 「それは清水先生が頑張ってましたよね!ねっ先生!」


 教卓で資料を暗い顔でとぼとぼと整理していた先生の顔に光が灯る。


 「そ〜!私の優秀な後輩に何とかしてって〜頼んだの〜そしたらね〜」


 「そしたら〜?」


 「君が〜ギフトを〜持っててかつ、星科に来てくれたら〜全部見逃すことにしてくれるって〜ことになった〜」


 なるほど。だから清水先生はギフトも持ってるなんて最高〜的なこと言っていたのか。僕の罪状が増えたことを喜んでいたわけではなかったのか。


 「流石先生!先生はこんなんでも、もとは警視庁のエリートクズハキだったからね」


 多分、優秀な後輩って僕の家に来た人だよな。清水先生のこと先輩って呼んでたし、約束守ってくださいね的なことも言っていた。


 「予知系のギフトは〜周りの人たちも助けることが出来る可能性があるから〜それを駆使して被害を抑えるように努めろ〜だってさ」


 周囲の人間も助けることが出来るか。確かに今回見た予知夢はたくさんの人が死んだ。その中の一人が僕だったから、それを捻じ曲げようとした結果、周囲の人間も助かったという形になるのか。


 「僕が星科に移れば学校の評判も保たれて、僕のやったこともなかったことになるんですね?」


 まあ僕がやったことは人助けだから、正確には無かったことになったら少し悲しい。

 

 「なるなる〜みんな幸せだよ〜」


 「でも星科って危険が付き纏いますよね?」


 元々は星科に入るためにこの学校に転校してきたがいろいろ考えてみて、こんな重大なこと自分一人で決めるわけにはいかないという結論に辿り着く。親にも相談する必要がある。


 「ん〜当然安全ではないよ〜みんなの安全のために働いているからね〜」


 そうだ。安全なわけがないんだ。夢で見たはずだろ。星科の生徒はダストに殺されていた。僕が夢を疑わずに、学校にいつも通り来ていたら、みんな死んでた。人間を殺すダストと戦うことになるんだ。安全なんてあるはずない。


 「考える時間が欲しいです。こんなこと一人で勝手に決めれないし、親と会って相談もしたいです」


 僕がそう言うと、先生が弱々しい声を上げる。


 「それが〜申し訳ないんだけど〜今日までに決めろ〜って言われてるらしくて〜」


 マジかよ。こんな判断を一日で?ここで断れば僕は前科がついて終わり。そして学校の評判も下がる。学校の評判が下がったら、ここに通っている生徒にも少なからず影響が出る。死ぬようなことはなくても、何かこれからの生活で不利になるようなことが。そんなことになったら、僕がやったことは台無しになる。


 逮捕されたら親にも多大な迷惑と恥をかかせることになる。犯罪者になって迷惑を掛けるくらいなら、星科に入ってクズハキ見習いになって、心配を掛ける方がまだマシ...なはず...だ。


 「分かりました。星科に移ります。そうすればみんな幸せになれるんですよね?」


 そう答えると清水先生は嬉しさを隠し切れない表情で再度尋ねてくる。


 「本当に〜?本当にいいの〜?」


 「はい。もう決めました」


 「やった〜ありがとう〜!」


 清水先生は両手で僕の右手を強く握って感謝した。


 「さっきは安全ではないって〜言ったけど〜大丈夫だよ〜危険もそんなに多くはないから〜運動場でワンパクに遊ぶ小学生の擦り傷以上の怪我はしないから〜ね?」


 清水先生がそう言うと、理恵加さんも続く。


 「私も絆創膏で対処できない程の傷は負ったことないかな!」


 本当かよ?冷静に考えてこんな可愛い女の子がクズハキ見習いやってるのすごいな。


 「じゃ、これ学科変更届とギフトの申請書~とその他諸々の資料~いつ出せそう~?」


 清水先生が資料を僕の机の上に置く。置かれた資料に目を通す。


 「あ〜、これ親の印鑑いるんですか?僕1人暮らしなんですけど、流石に平日に帰るの厳しいから、土曜日に帰えって書類揃えて、来週の月曜日とかに提出でも大丈夫ですか?」


 「全然大丈夫だよ〜こちらこそわざわざごめんね〜あ、あと軽い説明とかあるから〜明日普段の登校時間にこの教室に来て〜」


 「この教室ですね!分かりました」


 「葵君~本当にありがとね~」


 腰を曲げて手を合わせる感謝する先生。


 「じゃあ、私帰りますね」


 そう言って椅子を引いて立ち上がる理恵加さん。


 「理恵加も~今日ありがね~今度何かあげる~」


 「なら美味しい食べ物でお願いします!」


 「あれ~理恵加わざわざ制服着てきたの~?」


 見ると、学校指定の制服を着ていた。紺色のブレザーにチェックのスカート。普通科の女子たちと全く同じの服装。別に学科で制服は変わらないから当然か。


 「今更ですか?そりゃ学校に来るんだから当然でしょ?」


 私服で来た僕に刺さるセリフを吐く理恵加さん。


 「真面目だな~」


 確かに真面目だ。だが、スカートの長さは真面目だろうか?膝が見えている。この学校で膝を見せている女子なんて見たことがない。


 「お疲れ様です。葵君もばいば~い」


 先生に軽く会釈をして僕に手を振ってから、理恵加さんは教室を出て行った。


 「何か分からないことあったらあの子に聞いてあげて~真面目で優しい子だから~多分すぐ仲良くなれるよ~」


 「あー、分かりました」


 こうして僕は星科に移ることになった。

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