星の贈りもの

第9話 バクバクドライブ

　信号が赤になり車がゆっくりと停止する。

　「君さぁ〜ピンポンが鳴った時ビクッてなってビビったでしょ～？」

　「は、はい」

　「警察が来たかと思った～？」

　「思いました」

　「あれ警察だよ～あはは～」

　今とても笑える状況ではない僕の前で、高らかに笑う先生。でも爆弾仕掛けたって電話した僕を叱ることなく、笑ってるってことは、もしかして罪は軽い？ちょっと注意されるくらいで終わるのか？

　「え！スーツの男の人ですか？」

　「そうそう～君が学校に爆弾仕掛けたって悪戯電話するからだよ～」

　この先生の見た目と話し方に天と地ほどの差があり混乱する。歳は多分二十代後半か三十代前半くらいだろうか？凛々しい顔にキリっとした目。なのに声と話し方はフワフワしている。緊張がだんだんとふやけていく。

　「いや、あれには理由が...」

　やはり爆弾を仕掛けたという電話をしたことが原因で学校に連れていかれるようだ。さっきの男の人は警察って言ってたけど、警察署じゃなくて、学校に連れていかれる理由は何だ？

　「知ってるよ～君さ、爆弾電話するちょっと前にも電話してるよね～ダストが学校を襲うって～これも悪戯電話？」

　ルームミラーに先生の真剣そうな目が映る。

　「それは、信じてもらえないと思うんですけど、学校にダストが来てみんなが殺される夢を見たんです。妙にリアルだったんで電話しちゃったんです」

　「いや〜信じる信じる信じるよ〜実際に今日さ～学校に出たんだよね〜ダストがさ。まぁねぇ、生徒が学校にいたとしても、問題ないレベルのダストだったけどねぇ〜それでね、君のこと気になっちゃうよね？予言者かなんかか～って」

　「本当ですか！？本当に学校にダストが」

　先生の話を耳にして驚く。本当にダストが出たのか？じゃあ、あの夢は予知夢だったのか。でも、生徒がいたとしても問題ないレベルという発言には引っかかる。生徒どころか、星科の生徒まで殺されていた。それにあの視覚と聴覚を奪う素人の僕ですら分かるくらい、明らかに危険そうな人型のダストも気になる。

　「うんうん、本当に助かったよ～生徒に万が一のことがあったら学校の評判とかめっちゃ落ちちゃうからさ～」

　この学校は安全さを売りにしている一面もある。それを売りにして優秀な人材を集めている。そんな学校で生徒が殺されまくることがあったら、生徒もいないし、大問題だし、ダブルの理由で廃校に一直線だろう。そんな学校の評判を守った僕は救世主だ。もしかしたら爆弾電話も免除かも。だから警察署じゃなくて学校なんだ！

　「でね～君に会って欲しい人がいるんだ～」

　「会って欲しい人...ですか？ところで爆弾の電話とかなかったことになりませんかね？」

　「ん～私たち学校としては免除どころか感激感謝だよ～でも小賢しい警察がうるさいんだよね～」

　車が学校の敷地内に入り、駐車場に車が止まる。

　「ま～罪が免除になるとかならないとかは～君次第ってところ～」

　僕次第？何をすればいいんだ？学校の清掃とかか？

　「僕次第ですか...」

　「よ～し、到着到着〜私についてきてね～」

　「はい」

　車を降りて僕は先を行く先生の後について歩く。

　この学校には三棟の校舎がある。駐車場に一番近いグラウンド側の校舎は、実験室や音楽室、調理室などがある棟。真ん中の校舎は職員室と、一年生から三年生の教室がある。そしてグラウンドから見て一番奥の校舎は星科の棟。この棟は星科の生徒と教師、関係者しか入ることを許されていない。星科の棟と真ん中の棟を繋ぐ連絡通路があるものの、立ち入ることが出来ないようにずっと封鎖されている。住宅街の真ん中にある学校。星科の棟の裏には外からの視界を遮るように、背の高い木が壁のように列を作っている。

　一棟目の校舎を通り過ぎて、職員室のある棟が見えてくる。しかし、先生はこの棟も素通りして、星科の校舎へと向かっていく。

　「あっ、あの先生？」

　僕が声を出すと先生は足を止めて振り返る。

　「ん～どうした～？」

　「これ以上こっちに進んでも星科の棟しかありませんよ？」

　「そうだよ～だってここに用があるんだからさ～」

　先生はそう言って星科の棟に指をさす。

　「え？でも入ってもいいんですか？いつもはこっちの棟には入っちゃダメって言われてるんですけど」

　「いいよいいよ～今日は特別なのさ～これからは特別じゃなくなるといいんだけどね～」

　これからは特別じゃなくなるといい。ってどういうことだ？僕が入れるのは分かったが、先生はどうするんだ？一般の教師もこの棟には入ってはいけない決まりだ。

　「先生は？教師も入っちゃダメじゃないですか？ここは」

　「ん～？」

　先生は顎に手を当て僕の目をじっと見てから、首を上げて宙を眺める。数秒が経ってから先生が話す。

　「私がこっちの教師だって～話してなかったっけ～？」

　「...聞いてないです」

　「そっか～じゃ、改めまして星科の二年生を担当している清水と申します～これからよろしくね～になるといいな～」

　「よ、よろしくお願いします」

　この先生はさっきから何を言っているんだ？それにしても、こんな平和そうな人が星科の教師だったのか。ってことは元クズハキってことだよな？人は見かけによらないというのは本当らしい。

　「では～ちゃちゃっと入りましょう～待ってる子がいるからね～」

　「はい」

　待っている子か。さっき言っていた会って欲しい人のことか。どんな人なんだろう？説教でもされるのか？急に不安になって来た。