第16話 前世の記憶

「今のは、一体……」


 自分自身、なぜそんなことができたのが訳が分からなかった。


「時の魂に刻み込まれた、紛れもない宝剣での戦いの記憶じゃ。発動してしまった以上、嫌でも徐々に思い出すことになるであろう」


 前世ではカケルという名前であったという。

 いや、あるいは、これまでに繰り返し転生してきたのかもしれない。

 人は誰しもそうであるが、もし前世というものが本当にあったとしても、その記憶を持ってはいない。


 だが、ふとした瞬間にいつか見た光景、記憶が蘇る時がある。

 そんなはずはないのに。


 俺は神職の両親を持つ。だから生まれ変わりや前世、そんなものに理解も興味もある方だ。

 だが、今までそういう生まれ変わりがあろうがなかろうが、それは本質的に問題ではないと思っていた……その記憶がないからだ。


 前世の記憶で苦しむことはないし、それを活用することもできない。

 しかし、今俺が実際に起こした行動は紛れもなく、前世の記憶に基づいたものだ。そう直感できる。


「ヒミコ様と行動を共にし、日の光を結晶化し、数十種類の武器へとその姿を変化させ、数多の邪悪な敵を屠ってきた英雄。それがカケル様、あなたです」


 俺が 、英雄?

 日の光を結晶化?

 にわかには信じられないことだし、今はもう消えてしまっているが、確かに俺は槍を手にしていた。


 生まれ変わる前の自分は、こうやって戦いに明け暮れる日を送っていたかもしれないのだ。


「念のため周囲を警戒したが、今度こそ邪悪な気配は消えた。おそらくわらわの光術で山犬の肉体が滅びる前に、魔物の類いが近くのイノシシに取り憑いたのじゃろう。山犬にもイノシシにも気の毒なことをが、そうしなければ我々が危なかった。カケル、いや、武流、もう一人の妾、日向子が動揺しておる。後は任せたぞ」


 ヒミコはそう言うと、静かに目を閉じた。

 次の瞬間、ガクンとその体が崩れ落ちそうになる。

 慌てて俺は、彼女のその体を抱きしめて倒れることを防いだ。

 すると、彼女の方からも俺に抱きついてきた。


「……武流、私もう色々限界かも……」


 その涙声は、日向子のそれに戻っていた。

 そして両隣の、おそらく空良、陽菜さんに戻った二人も泣いていた。


「大丈夫だ、日向子、俺が付いている。俺が守る。空良、陽菜さんのことも」

「……うん、約束だよ……」


 日向子はそう言うと、再び俺に強く抱きついて、しばらく泣き続けたのだった。

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