第5話 多重人格
多重人格……それそのものの言葉は理解できるが、実際にそうなった人を見たことはない。
しかも三人同時で、同じような時代、妖と戦うようなシチュエーションまで同一なのだという。
ここで医師から、三人とも同じような弥生時代を舞台にしたバトルものの映画などを見たことはないのだろうか、と質問された。
その可能性は否定できないし、彼女たちは全員「巫女」のバイトを経験している。
俺の父親が神社の宮司であり、両親同士が仲が良いこともあって、よく手伝いに来てもらっていた。
彼女たち自身、「巫女」の仕事を好きだったようだし、日本古代の神話や歴史に興味を持っていた。
そういう話をして、例の「卑弥呼イベント」と落雷によるストレスが重なったのかも知れない……という話にはなったが、それにしても三人同時にとは、と医師も首をかしげていた。
また、今後もそれぞれ「もう一つの人格」が表に出てくる可能性があるという。
そのときは、両親はもちろん、彼女たちと仲が良い俺のフォローも必要になる、と釘を刺された。
そこで不安な顔をすると二人の両親に心配をかけるので、
「そのときは任せてください」
と半ば心にもないことを言ったのだが、
「さすがは日向子の許嫁だ、安心して任せられる」
と彼女の父親から言われて、慌ててその部分は
「まだそんなつもりは無いです」
とやんわり否定しておいた。
そんなやりとりがあって、彼女たちの両親、俺が一緒に再度病室に行くと、三姉妹がスマホ画面を見て不安そうな顔をしていた。
「あ、武流……どうしよう……」
今の日向子は、日向子の人格だ。
「どうしようって、何があったんだ?」
「あのイベントで雷が落ちたところの動画……ネットの『Z』に上げられていたの!」
「えっ……」
俺は絶句した。
そしてその視聴数を見ると、すでに万を超えていた。
一応、三姉妹の顔にはぼかしが掛けられていたのだが……さすがにこれはまずい。
と、そのとき、何気なく付けていたテレビのニュースでも、この話題が取り上げられた。
こちらは落雷シーンは省かれて、騒然としている会場の様子だけが放送された。
三人が病院に運ばれたものの、大きな怪我もなく意識ははっきりしている、と付け加えられたのはよかったが、滅多に起きる事故ではないので、このニュースがきっかけでさらに動画の視聴数が跳ね上がっていく。
「ふむ……少々まずいことになったのう……」
日向子が、また別人格の口調でそう語り出した。
それを初めて見た彼女の両親が、目を見開いて驚いていた。
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