第145話 魔の森の奥地

 あれから二週間近くの時間をかけて徹底的に魔の森のモンスターを掃討し、廃集落付近までの安全を確保した。そこで俺たちはベースキャンプを廃集落に移し、今はさらにその奥地へと活動範囲を移している。


 やはり魔の森の奥地だけあって、今までに見たことがないほど強力なモンスターとかなりの頻度で出くわすようになっている。


 スノーディアはもちろんのこと、シルバーウルフやエルダーディア、さらにはギガンティックベアまでいるのだ。


 エルダーディアというのは風魔法を操る巨大なヘラジカのようなモンスターで、ギガンティックベアは巨大なクマのモンスターだ。


 エルダーディアもギガンティックベアもその巨体から想像できるとおりとてもタフで、力が強いうえに素早さも兼ね備えている。


 だからブラウエルデ・クロニクルでもかなり強力な部類のモンスターだったのだが、モンスター特攻である光属性魔法の使い手が二人に増えたこともあり、今のところは大して苦戦せずに倒せている。


 ちょうど今もギガンティックベアを倒し、解体を済ませたところだ。


「お! 今回は光の欠片が出てきたな。キアーラさん、どうぞ」

「いいの?」

「もちろんです。キアーラさんとテオの魔力を上げて、実戦で使えるようになってもらうのが一番ですから」

「わかったわ。ありがとう」


 キアーラさんは出てきた光の欠片を使った。


 と、こんな感じで出てきた炎の欠片と風の欠片が出てきた場合はテオが、光の欠片が出てきた場合はキアーラさんに、水の欠片が出てきた場合は半々でキアーラさんとマッシモさんが、いかずちの欠片の場合は俺が、そして魔石が出てきた場合は半々でマッシモさんと俺が貰っている。


 ちなみに魔石や欠片で魔力を強化できることをマッシモさんは知っていた。さらに王宮魔術師の一部も知っているそうだが、それを公表する者は誰もいないとのことだ。


 というのも、そもそも魔石や各属性の欠片は宝石として高額で取引されており、さらに研究材料としても需要があることが知られている。


 そこに一度使ったら消える消耗品としての高い需要があるということが知られれば、魔石の値段がさらに高騰して思うように手に入らなくなることなど想像に難くない。


 と、ここでテオが斜め上を指さしながら声を上げる。


「おい、またダーククロウが来てるぞ」


 なるほど。たしかに高い木の上に一羽のダーククロウが止まっており、こちらをじっと見ている。


「またダーククロウ? あれって多分、偵察か監視でしょう? 絶対そのうち仲間を呼んで襲ってくると思うけれど……」

「いや、いいです。何もしてこないはずですから」

「え? なんでそんんことが分かるの?」

「うーん、多分ですけど、大丈夫だと思います」

「……リーダーがそう言うならわかったわ。もうしばらく様子を見てみましょう」


 キアーラさんはやや納得がいっていない様子だが、俺の指示には素直に従ってくれる。


 ありがたい。あのダーククロウが監視というのは間違いないだろうが……。


「よし。今日はこのくらいにしてベースキャンプに戻ろう。ピエトロ、フェルモ、持ちきれるか?」

「大丈夫です!」

「問題ありません!」


 二人は大量の毛皮や角などを背負っているが、元気にそう答えてくれた。ちなみにクレートとバルドにはこれまでに回収した素材の売却と荷物持ちの応援を呼ぶためオスピタレトに行ってもらっている。


「分かった。きつくなったらすぐに言ってくれ」

「ありがとうございます!」


 こうして俺たちは廃集落へと戻るのだった。


◆◇◆


 それからさらに二週間ほどが経過した。俺たちはさらに森の奥深くまでやってきたのだが、そこで何やら怪しげな場所を発見した。


 森の中の開けた場所に円形の黒い石畳が敷かれており、その中心には高さ一メートルほどの小さな黒い祭壇が、石畳の外周には高さ三メートルほどの黒い石柱が建てられている。


 まず祭壇だが、ここにはボーリングの球ほどはあろうかという巨大な黒い宝石が捧げられている。見たところ、闇の欠片のように見える。


 続いて石柱のほうだが、これは祭壇を中心に五芒星の頂点の位置に建てられている。柱のちょうど中ほどには石灯籠のような空洞があり、その中にテニスボールほどの大きさの黒い宝石が納められている。おそらくこちらも闇の欠片だと思う。


 また、石畳だが、ここにはびっしりとよく分からない魔法陣のような模様が描かれている。


 そして最後に、祭壇の真上五メートルくらいの場所に、長さ一メートルほどの巨大な次元の裂け目が存在している。


「むむ? これは!」


 それを見た当然のようにマッシモさんは目をキラキラと輝かせながら近づこうとしたが、俺はそれを力ずくで止めた。


「レクス卿! 何をするのじゃ!」

「待ってください。祭壇の上を見てください」

「む? むむむ? なんじゃあれは? もしや……」

「そうです。あれが次元の裂け目です。しかも、今まで見たことないほど巨大な奴です。なぜ魔界の影がいないのかが不思議なくらいですよ」


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 次回更新は通常どおり、2024/04/09 (火) 18:00 を予定しております。

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