第143話 見いだされた聖女
その後、荷物持ちをしてくれているメンバーも試してみたのだが、残念ながら誰一人として上手くいかなかった。
全員俺よりも年下なのだが、どうやら四人中三人はアモルフィ侯爵のところでメイドさんを相手に童貞を捨ててしまっていたそうだ。
残る一人は童貞だったのだが、彼が失敗したのはマッシモさんによると願いが切実でないかららしい。
どうやら単に強くなりたい、騎士になりたい、といったようなレベルの願いでは足りず、自分自身の存在のすべてを懸けてでも成し遂げたいというものでなければならないらしい。
言われてみれば俺は理不尽に孤児院を破壊され、ティティを奪われて俺自身も殺されかけていたときだったし、テオはケヴィンさんたちの件でマッツィアーノに対して強い復讐心を持っている。キアーラさんのことはよく知らないが、女性の身でありながらも冒険者になり、しかもBランクにまで昇格している時点でよほどの事情があるだろうことは容易に想像できる。
まあ、テオがどうしてメイドさんを相手に童貞を捨てていなかったのかは少々気になるところではあるが……。
それはさておき、このまましばらく魔の森の調査を続けることにした。というのも、どうしても次元の裂け目が見たいと駄々をこねるマッシモさんに押しきられたのだ。
本来はさっさとレムロスに帰るべきだが、このまま魔の森にいればテオとキアーラさんの魔力アップもできる。長期的に見れば悪くはないだろう。
◆◇◆
一方その頃、レムロスのお城に一台の馬車が到着した。その馬車をなんと第二王子のマルコが直々に出迎えている。
馬車からは騎士にエスコートされ、特徴的なピンクの髪を持つ美少女が降りてきた。するとマルコがすっと彼女の前に歩み寄る。
「初めまして。私はマルコ・ディ・パクシーニと申します。美しい貴女のお名前は?」
「は、はい! リーサです。スカロ村から来ました」
「スカロ村といえば、テレゼ川の上流にある村ですね」
「えっ? ご存じなんですか?」
「もちろんです。私はいずれこの国の王となる立場ですから」
平然とそう答えたマルコにリーサは感銘を受けた様子だ。
「さあ、どうぞこちらへ」
「は、はい! 王太子様!」
リーサはすっかりマルコに好印象を抱いたようで、嬉しそうにマルコにエスコートされて歩きだすのだった。
◆◇◆
マルコはリーサを王妃の居室へと案内した。
「母上、聖女リーサをお連れしました」
「ええ、ご苦労。聖女リーサ、よくぞ来てくれました」
王妃は満面の笑みでリーサを出迎えた。しかしリーサは驚いたような表情を浮かべ、誰にも聞こえないほどの小声で
「あれ? ここって王様じゃなくて王妃様だっけ? 記憶違いだったのかな?」
「リーサ?」
その様子を見たマルコは不思議そうにリーサの名前を呼ぶ。
「え? あ、す、すみません。まさか王妃様にお会いするなんて思っていなくて……」
「そう緊張することはありません。さ、こちらにお掛けなさい」
「はい」
リーサは緊張した面持ちで王妃に勧められた椅子に腰かける。
「聖女リーサ、よくぞ来てくれました。貴女の訪問を歓迎します」
「ありがとうございます」
「それと、このことは心して聞いてください。また、外でみだりに話すことも禁じます。よろしいですね?」
「はい」
リーサはさらに表情を強張らせたものの、王妃の言葉には
「これはまだ公表していませんが、前の王太子であったルカ殿下は亡くなられました」
「……はい」
「驚かないのですね」
「はい。あ、いえ、その……さっき王太子、あ、マルコ殿下が、自分がいずれ王様になるって……」
「そうでしたか」
王妃はじろりとマルコのほうを
「聖女リーサ、我が国はルカ殿下を失ったことで危機に
「はい」
「ですから、そのショックは非常に大きいのです。それ以来、国王陛下は元気をなくしてしまいました」
王妃は深刻そうな表情でそう言うと、一呼吸置いた。
「ですが、そのようなタイミングで貴女が光の魔法に目覚めたのはきっと神の思し召しなのでしょう。聖女リーサ、どうかその力で我が国に希望の光を灯してはくれませんか?」
「はい。あたしにできることなら喜んで」
すると王妃はホッとしたような表情を浮かべた。
「その言葉を聞き、安心しました。貴女は魔法を学んだことがないとのことですので、王宮魔術師の中から教師をつけましょう。良く学び、一日も早く我が国を照らす希望の光となってください」
「はい!」
リーサは元気にそう返事をしたのだった。
◆◇◆
こうしてリーサは王妃の計らいでお城に住み込み、王宮魔術師からは魔法を、大聖堂から派遣された聖職者からは神学を学ぶこととなった。
リーサにはかなりグレードの高い部屋が与えられており、部屋の調度品も最高級のものでそろえられている。
そんなベッドにリーサは腰かけると、不安げな様子で
「おっかしいなぁ。あたし、どうしてお城に泊まってるの? 『ブラウエルデの君』でヒロインが暮らしたのって、大聖堂じゃなかったっけ?」
リーサの呟きはなおも続く。
「やっぱり、大聖堂で神様についてちゃんと勉強したいって言うべきよね?」
そしてリーサは決意したような表情となり、立ち上がる。
「うん。やっぱり大聖堂に行きたいって言おう。あたしが頑張らないと
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こいつ誰だっけ? と思われた方は第一話を読み返していただけますと幸いです。
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