第131話 初依頼

 やじりにホーリーを込め終え、さらにいくつかをテスト用にと分けてもらった。そうしてようやく解放された俺は寮へと戻ってきた。すでにどっぷりと日が暮れていたのだが、寮のエントランスにはテオとキアーラさん、そして大勢の銀狼騎士団のメンバーたちの姿がある。


「レクス! お前無事だったんだな!」

「心配したわよ」

「ごめん。でも国王陛下に銀郎のあぎとを後援するって一筆もらってきた」

「はっ!? マジで? レクス、お前すげぇな!」

「いや、マッシモさんがすごいっていうか……」

「でもこれであいつらも手を出せないな」

「ああ。だと思う」


 すると、そのやり取りを聞いていた銀狼騎士団のメンバーたちが俺のところに集まってきた。


「レクス卿、冒険者になって王太子殿下をお救いするというのは本当か?」

「俺たちも仲間に入れてはくれぬか?」

「王太子殿下以外に剣を捧げるなど考えられん」


 俺を待ってくれていたメンバーたちは次々とそんなことを言ってくる。


「いいのか? もし王太子殿下をお救いできたとして、騎士に戻れるという保証はないんだぞ?」

「はっ! 構うもんか。俺は王太子殿下の剣として生きると決めてるんだ!」

「王太子殿下のためなら!」

「それに、魔竜ウルガーノ討伐であれだけの働きをしたレクス卿であれば信頼できるからな」

「みんな……」


 王太子殿下のカリスマの下に集まった者同士だが、俺も信用してもらっていたらしい。


 よく見ればここには魔竜ウルガーノ討伐隊のほぼ全員が集まっている。


「テオ、キアーラさん」

「ああ」

「いいわよ。人数が多いほうがいいでしょう?」

「わかった。それじゃあ、冒険者カードを持っていない者は登録を、持っている者は明日、手続きに行こう。俺たちはモンスターから人々を守り、そして王太子殿下を救出することを目的とした冒険者クラン、銀狼の顎の仲間だ。みんな! よろしく頼む!」

「「「おう!」」」


 こうして俺たちは銀狼騎士団のメンバーおよそ五十名を吸収し、一気に巨大なクランとなったのだった。


◆◇◆


 俺たちは早速大型の指名依頼を受注した。翌朝、国王陛下の覚書をギルドに持って行ったところ、すぐにニーナさんが依頼を繋いでくれたのだ。


 依頼主はアモルフィ侯爵、レムロスから少し南にある青く美しい海とヴェスピオレという美しい双子の山が有名な領地を治める領主だ。


 俺たちはすぐさま準備をし、アモルフィ侯爵領の領都サレルモへとやってきた。すると領主の館でアモルフィ侯爵が出迎えてくれる。


「おお! よくぞ来てくれた! 私がアモルフィ侯爵のグレゴリオだ」

「はじめまして。冒険者クラン銀狼の顎のリーダー、レクスです」

「ん? おお、そうだったそうだった。銀狼騎士団ではなく冒険者なのだったな」


 アモルフィ侯爵はそう言ったが、まったく気にしていない様子で話を続ける。


「そなたがレクス卿か。噂はかねがね聞いておるぞ。本当に若いのだなぁ。いくつかね?」

「はい。今年で十五となりました」

「十五歳か! ならばうちの娘の二つ上か。どうかね? 娘と会ってみるかね?」

「ありがとうございます。ですが、我々はモンスターから民を守るために参りましたので」

「ははは、固いな。まあ良い。それにしても、マルツィオ卿とクレメンテ卿まで参加しておるとはな」

「我々は王太子殿下に剣を捧げております故、王太子殿下であればなさるであろうことをしているまでです」


 アモルフィ侯爵に話を振られ、マルツィオ卿が短く答えた。


「うむうむ。やはり騎士とはこうでなければな。マルツィオ卿とクレメンテ卿といえば、レクス卿と共に魔竜ウルガーノを討った竜殺しドラゴンスレイヤーだったな。今回の遠征に竜殺しドラゴンスレイヤーたちはどのくらい来ておるのかね?」

「そうですね。当時のメンバーはほぼ全員、参加しています」

「なんと! では銀狼騎士団でも選りすぐりの精鋭ということか! いやはや頼もしいな」


 アモルフィ侯爵は上機嫌な様子だ。


「さあ、レクス卿、それから、あとはリーダー格の者たちも一緒に来てくれたまえ。それ以外の者は先に宿舎へと案内させよう」

「わかりました。ありがとうございます」


 俺はテオとキアーラさん、マルツィオ卿とクレメンテ卿の五名でアモルフィ侯爵の話を聞くことにし、他のメンバーたちには休んでもらう。


「こっちだ」

「はい」


 俺たちはアモルフィ侯爵に案内され、会議室にやってきた。するとそこには一人の騎士が準備を整えて待ち構えていた。


「レクス卿、彼は我が侯爵領でモンスター対策を担当する騎士ジョルジョ・カルデラーラと申す者だ」

「ジョルジョ・カルデラーラであります! 銀狼騎士団の名高き竜殺しドラゴンスレイヤーにお会いでき、光栄であります!」

「レクスです。今は騎士ではなく、冒険者をしています。こちらからテオ、キアーラ、マルツィオ・チプリアーノ、クレメンテ・ロザーティです」

「おお! あなたがたも竜殺しドラゴンスレイヤーなのですね! お会いできて光栄であります!」


 ちなみに魔竜ウルガーノ討伐のとき、俺たちはスピードを重視するため海路を利用した。


 陸路であればサレルモは本来通り道なのだが、あのときは沖合を通過しただけで立ち寄っていない。


 ではなぜジョルジョ卿が竜殺しドラゴンスレイヤーだと言っているのかというと、王太子殿下からいただいた勲章を身に着けているからだ。


 騎士を辞めたので当然銀狼騎士団の制服は返したが、勲章は個人に授与された物なので返す必要はない。そして銀狼の顎に加わってくれた元騎士たちはこの勲章を誇りに思っているので、こういった場には俺を含め、当然のように着用してきている。


「ジョルジョ卿、それは良いから早く本題に入らんか。銀狼騎士団の方々も長旅で疲れているだろう」

「はっ! これは失礼いたしました! それでご説明いたします!」


 ジョルジョ卿はアモルフィ侯爵に言われ、状況の説明を始めた。


 要約すると、アモルフィ侯爵領のヴェスピオレ山でモンスターの数がやたらと増えているので間引いてほしいということのようだ。


「なるほど。わかりました。急激に増えているんですか?」

「はっ! そのとおりであります! ここ半年ほどで急増しているのであります!」


 となると、次元の裂け目の可能性も否定できないな。


「わかりました。町に近いところから駆除しつつ、原因を探ってみましょう」

「うむ。よろしく頼むぞ」

「お任せください。アモルフィ侯爵」


 こうして俺たちはサレルモ北東の山間部に出現するモンスターの駆除を請け負ったのだった。


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 次回更新は通常どおり、2024/03/26 (火) 18:00 を予定しております。

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