第112話 モグラ作戦(後編)

 俺はすぐさま茂みにある入口から、地下壕の中へ滑り込んだ。


 そして数秒後――


 ドオオオオオオオオオン!


 地下壕の出入り口のほうが明るく光り、それと同時にすさまじい雷鳴が聞こえてくる。


 衝撃で地下壕が少し揺れるが、それだけだ。やはり地下にいれば雷なんてどうということはない。


 俺はすぐに別の出入り口から地下壕を出ると、思い切り石を投げつけた。


「グガッ!?」


 石をぶつけられた魔竜ウルガーノは俺のほうへ頭を向け、そして再びものすごい目で睨んできた。


 俺はそのまま背を向けて森の中に走り込む。


 すると魔竜ウルガーノは飛び上がり、俺を追いかけてきた。だが翼が傷ついている影響もあるのだろう。先ほどよりも飛行スピードが落ちている。


 これなら!


 俺は第一のキルゾーンへ誘導するのではなく、より確実なキルゾーンへと誘導することにした。


 ここからだと、第三のキルゾーンが良さそうだ。


 魔竜ウルガーノが俺を見失わないように定期的に石を投げつけ、挑発しながら森の中を進む。


 そうして俺は魔竜ウルガーノを第三キルゾーンに誘導した。ここは少し開けた場所になっており、俺たちが一番自信を持っているキルゾーンでもある。


 俺はキルゾーンの真ん中でくるりと振り返り、迎え撃つように立ち止まった。すると魔竜ウルガーノは俺を見下ろす位置までやってきて大口を開ける。


 だが!


 パシン! パシン! パシン!


 左右から先ほどホーリーが込められた矢が放たれた!


 隠れていたマルツィオ隊だ。


 しかしただの矢では魔竜ウルガーノの硬い鱗を貫けないようで、簡単に弾かれてしまっている。


 だがその中の一本の矢は、俺が先ほど傷つけた翼のちょうど傷口の部分にピンポイントで命中した。


「グガァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 すさまじい声を上げ、魔竜ウルガーノの体が傾くとそのまま墜落してきた。


 チャンスと見て俺は側面に回ろうとしたが、魔竜ウルガーノはそれに反応して俺に尻尾を叩きつけてきた。


 巨大な尻尾が正面から俺に向かってくる。


「ぐっ!?」


 なんとか反応が間に合って剣で受けることで直撃は免れたものの、俺はそのまま大きく吹き飛ばされてしまう。


 数メートル吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がった。


 だが身体強化を発動していたことが奏功したのか、はたまた黒狼のあぎとで何度となく攻撃の受け方を教えてもらったおかげだろうか。


 俺は無意識のうちに後ろへと飛んで衝撃を逃がせていたようだ。


 これならば問題ない。


 俺はヒールを掛けながらすぐに立ち上がる。そして近くに落ちていた石を拾い、今度は魔竜ウルガーノの顔面に向けて投げつけた。


「グガァァァァァァァァァァ!」


 怒り狂った魔竜ウルガーノは大きく翼を羽ばたかせた。すると強い風が吹き始めるが、記録にあったような岩をも吹き飛ばす突風とはほど遠い。


 きっと翼が傷ついていることが効いているのだろう。


 どうやら魔竜ウルガーノもそのことに気付いたようで、再び雷雲を呼び寄せた。


「雷!」


 大声で叫んでみんなに危険を知らせ、俺は茂みの向こうにある地下壕へと潜り込む。


 再び稲光と雷鳴が轟き、地面が揺れた。しかも今度はそれが何度も何度も繰り返される。どうやら手当たり次第に雷を落としているらしい。


 まあ、俺たちは地下壕の中にいるのでなんともないわけだが。


 それから十分ほど待っていると外が静かになり、明るくなってきた。


 ようやく終わったらしい。


 別の出入り口から外に出てみると、なんとあたり一面の森が燃えていた。


 この状況から察するに、魔竜ウルガーノは雷を手当たり次第に落とすだけでは飽き足らず、一帯の森を完全に焼き払ったようだ。


 だが、随分と疲れているように見える。それに魔竜ウルガーノはちょうど狙いを定めた場所にいる。


 と、次の瞬間、巨大な矢が魔竜ウルガーノの背中に突き刺さった!


「グオォォォォォォォォォォォン!」


 魔竜ウルガーノはものすごい雄叫びを上げた。


 ……貫通、とまでは行かなかった。だがバリスタから放たれた巨大な矢は魔竜ウルガーノの鱗をしっかりと貫いている。


 いいぞ! これは確実にダメージを与えている!


 すると魔竜ウルガーノは翼を広げ、ゆっくりと飛び立とうとした。だがそこに再び矢が放たれ、またもや一本の矢が俺の与えた傷に直撃する。


「グゥゥゥゥゥゥゥ」


 雄叫びは少し弱々しくなっているが、それでもその巨体はゆっくりと上昇していく。


「逃がすか!」


 直感的に逃げようとしていると感じた俺は全力の身体強化を使い、一気に魔竜ウルガーノへと近寄る。そしてだらんと力なく垂れている尻尾の先を思い切り斬りつけた。


 どういうわけか硬いはずの鱗がなぜか砕け、そのまま尻尾の先を切り落とせてしまった。続いてエンチャントしたホーリーが発動する。


 魔竜ウルガーノは一瞬ガクッとバランスを崩したが、すぐに体勢を建て直すとすぐに高度を上げた。


 くっ、浅かったか。


 魔竜ウルガーノはそのままウルガーノ島のほうへよろよろと飛び去っていく。


「逃げるな! 待て!」


 そう叫ぶが、魔竜ウルガーノがそんな言葉を聞くはずもなく、すぐに矢の届かない距離へと行ってしまうのだった。


 ああ! あと一歩だったのに!


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 次回更新は通常どおり、2024/03/07 (木) 18:00 を予定しております。

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