第104話 仲裁
「お前たち、一体何の騒ぎだ」
俺が声を掛けると、新人たちはまるで雷に撃たれたようにビクンとなってこちらを向いた。
「ん? なんだ? おま……あれ? 騎士?」
「ああ、そうだぞ。今日入団したばかりだというのに、もう問題を起こすつもりか?」
「そ、それは……」
「大体、その態度はなんだ! 騎士に敬礼もできないのか!」
「も、申し訳ありません!」
新人たちは慌てて敬礼をする。
「よろしい。で、なんの騒ぎだ?」
「そ、それは……」
「申し訳ありません! なんでもありません!」
「親睦を深めていただけです!」
そう言い訳をしたのは卑怯だなんだと言っていた側なので、推薦組だろう。ということはこっちが試験組だろう。
「そう言っているが?」
「……じ、自分はピエトロと申します」
「フェルモと申します」
お! 試験組はちゃんと自己紹介をしてきた。推薦組よりも礼儀がしっかりしてるじゃないか。これもマリノでの地獄の訓練の成果だろうか?
「騎士レクスだ。それで?」
「はい。あいつらが、今日の試合でテオさんが卑怯なことをしたって言って馬鹿にしてたんです。それで俺た……我々は一緒に一年間頑張ってきた仲間が何も悪いことをしていないのに
「なるほど。それはピエトロたちの言い分が正しいな」
「そんな! レクス卿!」
そう言い募ってきた新人を俺はギロリと
「名乗りもせずに俺の名を呼ぶのか?」
するとようやくそのことに思い至ったのか、慌てて自己紹介を始める。
「ガンベリーニ騎士爵家が次男、トランクイッロと申します!」
「ジェッダ騎士爵家が四男、パンクラツィオと申します!」
「ああ。上の者と話すならまずは名乗れ。基本的な礼儀だ」
「「はっ!」」
二人は威勢よく返事をした。
「それで、先ほどの件だが、あれは卑怯ではない。そもそもあの試合は王太子殿下がご臨席の台覧試合だ。もしあれが卑怯であるとするならば、王太子殿下は従騎士テオの名誉を奪われたはずだ。それとも、お前たちは王太子殿下が卑怯かどうかの判断もできぬ間抜けだとでも言うつもりか?」
「ひっ。も、申し訳ありません! 我々が短慮でした!」
「どうかお許しを」
王太子殿下の名前を出したら一気に大人しくなった。やはり偉い人の名前を出すと話が早いな。
「いいか? 戦場ではルールなどない。民を守るため、自分の決めたルールに縛られるのではなく、あらゆる手を尽くすように」
「「はっ!」」
二人はそう言って敬礼をしてきた。
よしよし。なんだか先輩っぽいことを言えたし、こんなものでいいだろう。
「ではお前たちは行っていいぞ」
「「はっ」」
こうして二人はそそくさと寮の中に入っていった。
「ところでピエトロ」
「は、はい! なんでしょう!」
「テオはどこにいるか知らないか?」
「え? テオですか?」
「ああ。ちょっと話があるんだ」
「わかりました! ご案内します!」
こうして俺はピエトロたちに案内され、テオのところへと向かうのだった。
◆◇◆
従騎士の寮は騎士の寮と比べるとやはり窮屈だ。ちらりと見えた寝室の大きさは騎士のものと大差ないように見えるが、なんと二つの二段ベッドが置かれている。騎士の部屋が個室なことを考えると、かなり大きな違いがある。
それに騎士の寮にはあちこちに談話室のようなスペースがあり、メイドさんたちが花を飾ってくれるなどしているのだが、こちらはずらりと寝室が並んでいるだけだ。
大勢いる従騎士や見習いを住まわせるために必要なのだろうが、それだけ騎士になるということが狭き門なのだろう。
そんな寮の三階の一室へと俺は案内された。
「ここがテオさんのいる部屋です!」
「そうか。ありがとう」
扉をノックすると、すぐに部屋の中から「どうぞ」という返事がテオの声で聞こえてきた。俺は遠慮なく扉を開く。
「テオ!」
「え? レクス!? ……じゃなかった。レクス卿!」
テオはそう言って立ち上がり、敬礼をした。すると二人いたルームメイトも慌てて立ち上がり、敬礼をした。
おっと、ここだと落ち着いて話せないな。
「テオ、入団おめでとう。今忙しいか? 少し話したいんだが……」
するとテオは申し訳なさそうな顔になった。
「悪い……じゃなかった。申し訳ありません。十分後から研修が入っております」
「そうか。じゃあ、用件だけ。積もる話もあるし、ニーナさんと食事に行こう。今度の週末はどうだ? ニーナさんは空いているらしい」
「わかりました。ぜひ」
「ああ。それじゃあ、決まったら連絡する。またな」
そう言って俺はテオの部屋を後にした。立場上仕方ないのは分かるが、やはりテオに敬語を使われるのは妙な気分だ。
こうして俺は従騎士の寮を後にしたのだった。
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次回更新は通常どおり、2024/02/28 (水) 18:00 を予定しております。
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