第42話 新天地を求めて

 盗賊を始末した俺たちはコーザへと帰ってきた。騙されたことは腹立たしいが、依頼は成功扱いにしてもらえ、報酬もきちんともらえたのでなんとも微妙な気分だ。


 それと一つ良いことがあって、今回の働きでテオが正式に黒狼のあぎとのメンバーとして加入することになった。


 テオは訓練のときから才能の片鱗へんりんを見せていたのは大人たち全員が認めるところだったそうで、実はニーナさんがかなり前から推薦していたのだそうだ。そこに実戦で大人の盗賊の男をきっちりと殺したという実績が加わり、ケヴィンさんとグラハムさんも正式加入を認めたというわけだ。


 未だにテオとの試合は禁止されているのでよく分からないが、友達と離れずに済んだので俺としてはありがたい限りだ。


 また、俺が無力化した盗賊三人の件は当然聞かれたので、素直に【雷属性魔法】についても説明した。常識では使える魔法の属性が一つだけとなっているためかなり驚かれたが、実際にボルトを使って見せると【光属性魔法】の一種だと勘違いされ、勝手に納得していた。


 たしかにこの世界の科学水準を考えると、稲妻と手元で走るパチンという電流が同じものだと想像するのは難しいだろう。それに毎回説明するのも面倒だということもあり、【光属性魔法】の一種かも知れないということにしておいた。


 さて、そんなこんなで忙しい日々を過ごしているうちに、コーザに来て三度目の夏を迎えた。


 俺とテオは十三歳になり、共にDランク冒険者へと昇格することができた。体も大きくなり、剣もかなり上達した実感がある。だが残念ながら魔力については光の欠片の入手が限られていることもあり、満足するにはほど遠い状態だ。


 光の欠片を手に入れるためにはモンスターをホーリーで倒す必要があるのだが、まだまだ子供ということで危険なモンスターとの戦いには参加させてもらっていないのがネックになっているのだ。


 ホーンラビットのような弱いモンスターであれば前に出して貰えるのだが、ホーンラビット程度では手に入ったとしても砂粒ほどの小さな光の欠片しか手に入らない。


 とはいえ、Dランクになった今年は少しずつ前に出してもらえるとも言われている。


 果たしてどれくらい魔力を伸ばせるのだろう?


 そんな期待に胸を躍らせていたある日、グラハムさんが出張でいないというのに、突然ケヴィンさんがメンバーを集めて妙なことを言いだした。


「お前ら、明日から移動するぞ」

「え? ケヴィンさん、いきなりどうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもねぇよ。コーザ男爵が約束を守らねぇんだ」

「え? 約束ですか?」


 心当たりがないので俺は周りを見回した。


 ……どうやら分かっていないのは俺とテオだけらしい。他のメンバーたちは少し怒っているような表情をしている。


「すみません。なんのことだか分からないんですが……」

「ん? ああ、そうか。お前らはまだ入る前だったな。俺らはな。コーザに移動するときに約束したんだよ。三年この町で活動すればメンバー全員ランクを一つ上げるってな」


 なんと。そんな約束があったのか。たしかに周りの冒険者たちと比べて俺たちの手際は明らかにいいと思っていたが、まさかそんな密約を交わした上での招へいだったとは……。


「しかも男爵の命令で獲物を他の冒険者が食っていけるように譲ってやってたっていうのによ」


 ああ、なるほど。獲物を譲って早めに休暇を取っていたのはそんな理由があったのか。


「ま、そういうわけだ。次の拠点は決まってる」

「どこですか?」

「モラッツァーニ伯爵領だ」

「っ!?」


 俺はその名前を聞いて驚き、思わず息を呑んだ。他のメンバーたちも驚いたようで、ざわついているが、それも当然のことだ。


 なぜなら、モラッツァーニ伯爵領は他のどの領地よりも高い頻度で強いモンスターによる襲撃が発生しているとして有名な領地だからだ。


 しかもモラッツァーニ伯爵家はマッツィアーノ公爵家の力を借りず、自力で退けているのだ。そのためモラッツァーニ伯爵家は多くの騎士を従えており、さらに腕利き冒険者たちが集まる領地でもある。


 つまり手柄を立てるにはもってこいの場所というわけだ。しかし、裏を返せばそれは実力のない者が早々に代償を支払うことになる危険な場所だということだ。


 そしてそのモラッツァーニ伯爵領がどこにあるかというと、なんとマッツィアーノ公爵領の南隣だ。


 もちろん証拠はどこにもないが、モンスターの襲撃が多いのはマッツィアーノ公爵家がけしかけているからに違いない。このことは多くの人が思っているのだが、それを公言する者は長生きできないだろう。


「細かい条件はグラハムが詰めてくれてる。だが、メンバー全員のランクアップは必ず呑ませるつもりだ」

「リーダー、この町でもう少しやったらランクアップできるんじゃないっすか? 何もわざわざモラッツァーニにまで行かなくても……」

「いや、無理だ。俺らは昇格と期間延長についての交渉をずっとしていたが、そもそも昇格の約束などしていないとか言ってきやがった。いつの間にかギルド側の保管していた証拠も処分されてやがるしな。だからこれ以上言えば俺らは罪人にされる」

「そこまでっすか……」

「ま、しょうがないっすね」

「だろ? それに、こいつはある意味チャンスだ。坊主もテオも戦力になってきている。今ならモラッツァーニ伯爵領でもイケるはずだ」

「……そうっすね」

「たしかに、レクスもテオも大きくなったしなぁ」


 そう言ってみんなの視線が俺たちに集まる。


「任せてください」

「頑張ります」


 こうして俺たちはコーザを離れ、モラッツァーニ伯爵領の領都マルゲーラへと向かうこととなったのだった。


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 次回更新は通常どおり、2023/12/28 (木) 18:00 を予定しております

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