第31話 決死の治療
「う……」
俺は目の前に広がる光景に目を疑った。
二ーんさんが……ニーナさんが! スノーディアの角に貫かれている!
ニーナさんを刺したスノーディアはまるでトロフィーでも掲げるかのように頭上にニーナさんの体を持ち上げており、赤い血がその白い毛皮と真っ白な雪原を赤く染めていく。
「ニーナさんを放せぇぇぇぇぇ!」
完全に頭が真っ白になった俺はスノーディアに向かって突進する。
スノーディアは避けようとするが、その動きはかなり鈍い。
それはスノーディアの体に何本も刺さった矢によって体力を失っていることに加え、ニーナさんが角に突き刺さっているからだろう。
スノーディアは頭をゆすってニーナさんを振り落とそうとするが、もうすでに遅い。
間合いを詰めた俺は体重を乗せた渾身の突きをスノーディアに見舞う。
肉を切り裂いた感触の後に生暖かい感触が伝わってくる。
「こいつ! よくもニーナさんを!」
すぐさまホーリーを発動すると、スノーディアはすぐに崩れ落ちた。
「ニーナさん! ニーナさん!」
俺はニーナさんの名前を叫び、ニーナさんの体を角から外そうとするが上手くいかない。
そうこうしていると、弱々しい声が聞こえてくる。
「……レク……ス……くん……」
「ニーナさん!」
「ふふ……よく……がん、ばった、ね……」
ニーナさんはそう言うと、力なく微笑んだ。
「レク……くん、さいの……あ……よ。がんば……」
そしてニーナさんの体からがくりと力が抜ける。
「だ、ダメた! ニーナさん!」
死なせない! 死なせるもんか! 落ち着け! 俺!
俺は自分の頬を思い切り叩くと、しっかり状況を確認する。
スノーディアの右の角がニーナさんの左の胸部を貫いている。さっきまで喋っていたのだから、心臓は無事なはずだ。
それとさっきから角が抜けない原因は……これか!
どうやら角の突起が、ニーナさんの背負っている矢筒の革ベルトに引っかかっていたようだ。そしてどうやらこの革ベルトのおかげで突起が体に刺さらずに済んだのだろう。もし革ベルトに引っかかっていなければ、ニーナさんは一撃で殺されていたに違いない。
俺はまず、矢筒の革ベルトを取り外した。
そして慎重に体を角から取り外していく。
腕の力だけではニーナさんの体を持ち上げられないので自分の体を下に入れ、足の筋肉を使ってこの角度で……!
ニーナさんの体が持ち上がった!
そのままゆっくり、ゆっくりニーナさんの体を角から引き抜いた。
するとニーナさんの体重がすべて俺にのしかかり、俺はそのまま転んでしまった。幸いなことに下は柔らかい新雪だったため、痛みは特に感じない。
だがニーナさんは無事ではない。突き刺さっていた角が抜けたことで大量に出血し始めている。
「ニーナさん! 死なないでください!」
俺は傷口に手を当て、ヒールを発動する。
「ぐ……これは……」
テオのときとは比べ物にならない量の魔力がごっそりと持っていかれ……やがてヒールの発動が止まってしまった。
ちょっと待て! ニーナさんの傷はまだ塞がっていないじゃないか!
慌ててもう一度発動しようとしたのだが……意識すればいつも感じられた魔力が感じられない。
「え?」
これは、もしかしてMP切れというやつか?
「くそっ!」
なんてことだ。まだニーナさんは大量に出血している。このままじゃ……いや、冷静になれ! こういうときこそ冷静になるんだ!
もう一度自分の頬を叩くと、何か手はないかと必死に頭を巡らせる。
止血は……無理だ。包帯程度じゃどうしようもない。縫合手術なんてできないし、やはりどうにかして魔法を発動する必要がある。
だがMPは枯渇している。
……いや? 待てよ? ブラウエルデ・クロニクルではHPをMPのかわりに消費できたはずだ。
HPをすべて使い切らなければ死ぬことはないし、最大HPが減るなんて仕様もなかった。
そうだ! これだ!
だが一体どうやって?
……HPは、要するに生命力ということだろう。生命力……ん? さっきスノーディアの吹雪でドットダメージを受けたとき、体の芯から冷えてきたような感覚があったな。
ということは、もしかして!
俺は体中の自分の体温をいつも魔力を感じている場所に集めるように念じてみた。すると手足の先から冷えてきて、その代わりに体の中心に暖かい魔力が満ちてきたのを感じる。
やはり! 行ける!
俺はもう一度ニーナさんの傷口に手を当て、すぐさまヒールを発動した。すると徐々にニーナさんの傷口が治っていき、それと同時に自分の体がどんどんと冷えていく。
う……これは……。
俺の視界はそのままブラックアウトするのだった。
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次回更新は通常どおり、2023/12/17 (日) 18:00 を予定しております。
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