第14話 はじめての野営
荷物を背負い、ギルドのエントランスへ向かうとそこにはすでにケヴィンさんたちが集まっていた。
「リーダー、お待たせ」
「おう! 坊主たち、忘れものはないな?」
「はい」
「ねえ、リーダー、聞いて! レクスくんったらね。持って行くものを全部紙に書いて、さらに持ったものにチェックを入れてたの。自分で考えたんだって!」
「ほぉ! それはすげぇな。忘れ物をしないのは自分だけじゃなく、仲間の命を守る基本中の基本だからな。テオ、お前も早く文字を完璧にして真似できるようにしろよ」
「……はい」
テオはやや不満げな様子で俺のほうをちらりと見たが、口答えすることなく素直に
「それから、レクスはこの二人とは初対面だろう。こいつはグラハム。俺たち黒狼の
そんなことを言っているが、ケヴィンさんからはグラハムさんに対する信頼のようなものが
「君がレクスくんだね。グラハムだ。よろしく」
「レクスです。よろしくお願いします」
グラハムさんはイケメンとイケおじを足して二で割ったような感じで、切れ者の雰囲気を
「んで、こっちはアルバーノだ。料理が趣味で、野営でも料理をするからシェフって呼ぶ奴のほうが多いな」
「よろしく、レクスくん」
「よろしくお願いします」
アルバーノさんはいかにも優男といった雰囲気だ。
「ようし! じゃあ、出発するぞ」
「「「「はい!」」」」
こうして俺たちは北の森を目指し、ギルドを出発するのだった。
◆◇◆
「ようし! そろそろ野営の準備をするぞ」
森の中を歩いていると、まだ日が高いにもかかわらずケヴィンさんはそう宣言した。
「さて、レクス。どうして俺が今、野営の準備をすることにしたかわかるか?」
「え? いえ……」
「そうか。じゃあしっかり覚えておけ。野営ってのはな。すると決めてすぐにできるもんじゃねぇ。まずは適した場所を見つける必要があるんだ。じゃあ、野営に適した場所がどんな場所か、わかるか?」
「……そうですね。飲み水がある場所、でしょうか」
「そうだな。水場が近くにあるのは重要だ。だがな。もっと大事なことがある。なんだか分かるか?」
水よりも大事なこと? それは一体なんだろう?
「それはな。危険のない場所だ」
「危険?」
「そうだ。たとえば、モンスターがうようよいるような場所で野営なんざできねぇだろ?」
「それは……はい」
「他にも、盗賊がいるような場所や、猛獣がいる場所も避けたい」
「そうですね。でも、そんなのどうやったら分かるんですか?」
「ん? ああ、そうだな。この辺にはいねぇから説明しずらいんだが……まぁ、色々と痕跡があんだよ。そんときになったら教えてやる」
「はい」
「あともう一つは、身を隠せる場所だな。巣になってない洞窟なんかがあればベストだ。雨風を
「そうですよね。そういう場所がなかったらどうすればいいんですか?」
「そうだな。そんときの状況次第だが、逆に開けた場所ですぐに襲撃に気付けるようにする場合も結構あるな」
「なるほど」
「あとは、火を使える場所だな」
「火ですか?」
「ああ。火を使えれば暖を取れるし、焼けば大抵のモンは食えるようになる。それに沸騰させりゃ水で腹を下すこともなくなるからな」
なるほど。それはたしかにそうだ。
「ようし! そんじゃお前ら、野営の準備だ」
「「「はい!」」」
こうして俺たちは野営の準備を始めるのだった。
◆◇◆
残念ながら都合のいい洞窟は見つからなかったため、少し開けた場所で野営することとなった。
ちなみにテントは張らず、地面にシート敷いて雑魚寝をするというスタイルだ。どうしてテントを張らないかというと、襲撃があったときに反応が遅れないようにするためだそうだ。
ただ、毎回そうしたほうがいいというわけではなく、テントを張ったほうがいい場合もあるそうだ。
なるほど。野営一つでも色々なノウハウがあってかなり奥が深いようだ。
野営にはたき火が欠かせないが、火おこしをし、料理の手伝いをするのも俺たち荷物持ちの仕事だ。本来なら料理も荷物持ちの仕事だそうなのだが、黒狼の顎にはシェフと呼ばれているアルバーノさんがいるため、料理についてはアルバーノさんの手伝いが仕事となる。
というわけで俺はテオと一緒に近くの小川へ行ってニンジン、玉ねぎ、ジャガイモを洗い、鍋いっぱいの水を
「戻りました」
「うん。お疲れ様。ニンジンは皮をむいて半月切りに、ジャガイモは芽を取って一口大に。玉ねぎも皮をむいてくし切りにしてくれるかい?」
「はい」
俺たちは言われたとおりに切っていく。するとその間にアルバーノさんは鍋を火にかけ、そこへ豪快に干し肉を放り込んだ。
え? そんな調理法ってありなのか? マリア先生は干し肉を水で戻すようにって言っていたのに……。
するとそんな俺の様子に気付いたアルバーノさんが声をかけてくる。
「おや? レクスくんはもしかして料理のお手伝いをしたことがあるのかな?」
「あ、はい。あります」
「干し肉は水で戻してた?」
「はい」
「うん。それは正しい調理法だね。でも野営のときはあまり時間もかけられないし、こうすれば塩を足す必要もない」
「でも、塩辛くなりすぎませんか?」
「そうしたら水を足せばいいんだよ。味は落ちるけど、塩を足すよりは荷物を減らせるだろう?」
なるほど。そういう知恵もあるのか。さすが冒険者だ。
「でも味は意外とそのままでも問題ないことが多いよ。何せみんな体を動かして、結構汗をかいているからね。塩辛いくらいでちょうどいいのさ」
「なるほど。言われてみればそうですね」
そんな会話をしつつも、アルバーノさんは俺たちが切った野菜を豪快に鍋に放り込む。
「あと、これを小さめに刻んでくれるかい?」
アルバーノさんはそう言って小さな草を差し出してきた。何やらいい香りがするが、何かのハーブだろうか?
「え? なんですか? これ」
テオが俺の疑問を代弁してくれた。
「うん。そこに生えていたんだ」
「えっ? そこに生えていた草? そんなの食べられるんですか?」
テオが中々に失礼なことを言いだした。
「あはは。まあ、知らない人はみんなそう言うね。でもこれを入れると干し肉の臭みが消えるんだ」
「えー? ホントですかぁ?」
「あ、じゃあ俺が切りますね」
俺はテオとアルバーノさんの会話に割り込み、そのハーブらしき草を細かく刻む。
「うん。ありがとう。あとは灰汁をとりながら二十分待てば完成だよ。うーん、そうだな。レクスくん、灰汁取りもやってみるかい?」
「はい」
「じゃ、頼んだよ。テオくんはまな板と包丁を洗ってきたら生ごみを埋めておいて」
「分かりました」
テオはまな板と包丁を持った。すると何を思ったのか、俺のまな板に残っていたハーブらしき草の欠片を口に含んだ。
「うえっ!? なんだこれ!?」
テオはペッペッと吐き出している。
ああ、なるほど。あのハーブらしき草、生で食べるものじゃないんだろうな。
顔をしかめるテオを、俺は生暖かい目で眺めるのだった。
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次回更新は通常どおり、2023/12/05 (火) 12:00 を予定しております。
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