4-3


 「松山お前ふざけんな!?絶対不正したやろ!」

 「お前が野球部とかバスケ部とかよりもボール遠くへ投げれるわけないやろ!!」

 「握力もおかしいわ!そんな細腕で70キロも出るかボケ!」


 はいそんなわけで、この周回でも山峰と里野といった例のクソ陽キャ男子どもが、俺がテストで不正をしたと難癖つけてきやがった。予想していたとはいえ、こうも同じイベントがどの周回でも起こってくると何か不気味だな。完全にデジャヴじゃん。

 ちなみに今周回の体力テストの主な結果は、こんな感じ。


 50m走:6秒1台

 立ち幅跳び:295㎝

 握力:73kg

 ハンドボール投げ:55m

 上体起こし:52回

 20mシャトルラン:125回(授業の尺の事情により強制終了)


 当然ながら、ほぼ全ての種目が前周回の記録を更新。シャトランにいたってはまだ余力があり、130まではいけそうだった。とにかく前周回のアドバンテージのお陰で今回も好記録・ほぼ満点となった体力テスト。

 そんな俺の活躍に山峰と里野がやっかみを持ち掛け、さらには俺が不正をしていると根拠の無い非難を浴びせてきた。ここもムカつくくらいに前周回と同じ内容で、聞くに堪えない罵声を浴びせられる

 なので俺も前周回と同じように理論武装を振りかざして、二人を徹底的に論破し煽り散らし、相手からの暴力を誘ってやった。


 「んやとゴラぁ!?万引き陰キャの松山がよぉ!!」


 言われたくない侮辱を吐きながら、山峰が先に殴りかかってきた。前周回と同じように返り討ちにしてやろうと思ったのだが、面白いことを閃いたので、ここは回避に徹することにした。

 そうやってしばらく遊んでやってると体育教師が来て、この騒動はお開きとなった。当然クソ陽キャどもの怒りが収まるはずもなく、後で必ず俺をとっちめにくるはずだ。また徒党でも組んで俺を甚振るのが容易に想像できる。

 そしてその展開は俺にとっても好都合である。むしろそうなるよう仕向けたと言っていい。俺も山峰どもと同じ、いやそれ以上に消化不良を感じてるのだから。


 後日昼休み、これまでになかったパターンが展開された。


 「何でこの前のテストで不正しましたってこと、鳥羽(体育教師)にまだ言ってへんねん!?」

 「不正したこと隠蔽しとんちゃうぞ、クソ陰キャ!」

 「万引きの次はズルしたことの不正かよ!最低のクソやなお前!」


 実際に俺のテストを見ていた里野と山峰。加えて大村と尾西と横原といった不良も揃っている。他にも里野と山峰とつるんでるサッカー部、野球部、その他陽キャどもも野次馬として集まっている。

 どうやらみんなが見てるこの場で俺がテストで不正したことを認めさせるつもりらしい。俺を呼び出したのは最初の二人だけ。その後二人がしようとしてることを聞きつけた不良グループが面白そうだからと仲間に加わり、現在に至る。

 今回の主な敵は里野、山峰、大村、尾西、そして元陸上部の横原だ。


 「あ?まだ俺が体力テストでズルしたってデタラメぬかしとんのか?確たる証拠も無いくせに、人を不正者扱いしてんじゃねーよ、クズども。 

 走りだけやなくパワーも投擲も俺より劣ってるからって、腹いせにそうやって人を貶めるとか、お前らの方こそ最低のクソやろうが。俺にほぼ全種目負けたからって僻んでんじゃねーよ、クソダせー。

 あと体力テストのことと俺が過去に万引きしたこと、今関係ある?そうやっていちいち過去のこと持ちかけてくんのうざいねんカス。

 そんなに俺の体力テストの結果が疑わしいなら、自分らで確かめにこいや。そうしたくて呼び出したんやろ?かかってこいや、雑魚カスども」


 てな感じで煽り散らしたことで、まんまと乗せられた5人はブチ切れ、俺が不正を認めるまでボコり続けてやると俺を甚振りにかかった。山峰が汚い声をあげながら殴りかかってくるのを目で捉えながら、俺はこれまでのやり直し人生での喧嘩のことを脳裏に浮かべてみた。

 

 最初のやり直しは何のアドバンテージも無かったため、一対一での喧嘩にすら勝てず、ボコボコにされた。

 あの頃は単に筋力が不足していた。元より喧嘩の経験が乏しかった。あとは人の目を気にしてしまい力を発揮出来なかったことも敗因だ。

 全てにおいて不足していたことで一人のクソガキ相手にすら勝てず、屈辱の負けを喫した。自分が言われたくない罵声を浴びせられても歯を食いしばって悔しがるしかなかったあの日々は、今思い出しても憤死しそうだ。

 ああ、もの凄く腹が立ってきた……!


 「よくもやってくれたよな、クソデブが!!」


 怒りの咆哮からの加減無し腹パン。山峰が腹をおさえてうずくまる。その間に里野に狙いを切り替えて、油断してるところに膝蹴りをかましてやる。


 「お前もだよ豚里野!あん時はよくもボコボコにしてくれたな?喧嘩で負かした後俺が言われたくないことをみんなの前で叫んで、盛大に辱めてもくれたよなぁ!」

 「うう゛……、何の、ことやねんっ」

 「お前らが知る必要無いわ。とにかくまずは、最初の時の分や!!」


 山峰、里野、大村の順番でまずは最初のやり直し人生でやられた分の仕返しをやってやった。三人とも全力のグーパンやキックをくらって、かなり痛がってて悶えている。高校生の全力の暴力舐めんな。


 「さあ次は2回目の時やな……」


 俺がそう呟くと起き上がった三人が今度は一斉にかかってくる。この中でいちばん体格がゴツい里野が俺の右腕を、山峰が左腕を、そして大村が拘束されて動きを止めた俺を殴りつけた。頬に一発、熱い痛みが広がり、頭がチカっとした。


 「ってぇな……。せや、2回目の時もこうやって数にもの言わせて、俺をボコってくれたよな……?」


 初めて本格的な強くてニューゲームが始まった2回目のやり直し。この時既にどの中学男子との喧嘩は、1対1でなら勝てるようなっていた。しかし3人以上いっぺんにってのは、さすがに分が悪くダメだった。数にものを言わされ、袋にされて寄って集って甚振られて、またも屈辱の負けを喫した。


 「いいよなぁ、お前らはそうやって徒党を組めてよぉ?こっちは一緒に戦ってくれる仲間がおらんかったから、体押さえつけられてそのままボコボコよ。んでまた言われたくないことを散々言われて、クソ最低な気分を味わったんよなぁ!!」


 さらに殴りつけようとする大村の腹につま先蹴りをくらわし、全身に力を入れて両腕をブンと下げて拘束を解いて、二人の首や背中に肘を打ち下ろしてやった。


 「おい、2回目で受けた痛みと屈辱は、こんなもんちゃうぞっ」


 すぐ近くでうずくまっている里野と山峰にそれぞれ蹴りをくらわせる。膝と脛を執拗に攻撃してやり、足の自由を奪ってやった。おお、いいねぇその痛そうな声とのたうち回る様、マジそそるわ。

 なんて余韻に浸ってると大村がまた殴りかかってきて少しもらってしまった。が全然余裕で耐えて、お返しに精一杯固めたグーパンで顔面を思い切り殴りつけてやった。左目に命中したらしく目を押さえて悲痛な声を漏らす大村を、俺は笑ってやった。



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