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 まあこんな感じで、2回目のやり直しでも中学生活は快適とは程遠いもののまま終わることになりそうだ。こうなったのは自分で選んだ結果…自分で蒔いた種ってやつなんだが、「ふざけんなちくしょう」って思わずにはいられない。

 特に失敗したのが、喧嘩でまたのされたところだな。やっぱあれがいちばん堪えたなぁ。一対一とかなら余裕だったが、同時に三人以上となるとさすがになぁ。多人数相手にも余裕でねじ伏せたいなら、格闘技をかじる必要あるよな。格闘を習ってれば、今回割とどうにか出来たのかも。

 だとしても、今から生憎俺に格闘技を習う余裕は無い。やりたいことが色々あるし、そこにやることをさらに増やすわけにはいかない。


 そんなわけで、今いちばんやりたいこと・やり直したいこと陸上競技のお話に移ろう。


 時を遡って、2回目のやり直し人生を始めて間もない、4月上旬。3年生となり部を仕切る役柄となったわけだが、1・2年の時と比べて特段変わったことはしていない。練習開始時間になったらアップするぞと一声かけて、みんなでウォームアップをこなし、部活終了する時に何か締めの挨拶を述べて解散する。大体いつもそれだけを淡々とこなすだけ。

 いちおう、当時の短距離のブロック長は俺ということになってて、前回のやり直しも今回のやり直しもそれは変わらず、ブロック長として短距離を仕切ることに。


 短距離の部員構成にも少しふれよう。同期は俺含めて男子4人、女子2人。2年生男子は12人と多めだが実際ちゃんと来てた奴は半分以下。2年の女子が6人。で今年新しく入ってきた1年男子が10人、女子が5人。てな感じだ。

 構成員の大半が後輩となっていて、男子が1・2年ともにばか多い数。けど2年男子は辞めたのが3~4人、練習ちゃんとやらないのがほとんどと、かなり終わってた。1年男子も辞めたのが3人いたかな。それ以外はちゃんと練習には来ていた。


 当時の俺はブロック長らしいことが全然出来ていなかったと、中学卒業した後ずっと思い続けていた。今でも思っていることだ。厳しく取り締まってたというより、強く当たり散らしてたのがまずかったな。

 特に2年男子の不真面目組に対してはやばかった。あいつら練習には来てたけど全然真面目にやってなかったからな。口で何度も注意しても改善しなかったんで、ある時キレてあいつらに腹パンおみまいしたことがあったんだけど、今にして思うとまぁまずいよね。体罰じゃん完ぺきに。

 まぁ当時は顧問よりも部員がよく体罰をやってた風潮だったんで、俺もそれに影響されて拳を振るうのが軽くなってしまった。

 で結果はもちろん、あいつらに反感を大いに買うこととなり、深い溝が出来てしまったってわけ。俺に人望が無いのはこういうところがあったからかもしれない。

 他にも、馬鹿やらかした後輩たちには注意というか強く当たり散らすっていう、あまり正しくない措置をとってばかり。俺は理想の先輩・上司からかけ離れた存在だった。たぶん、同期の中で俺が一番人望が無かったと思う。


 なのでやり直したいことその一つ、部活後輩らの扱い・対応の改善だ。やることは簡単だ。不真面目な後輩どもの扱いは、無視あるいは放置!これに限る。てかそんな馬鹿どもの対応は全部顧問の先生に任せれば良いんだよ。だから頼みますよ、田中先生。

 それとこれも当たり前だが、強く当たらないこと。厳しくすることと強く当たることは違う。叱ることと怒ることが違うのと同じ。例えるなら、ブラック企業のクソ上司みたいな振る舞いをしないことだ。

 むやみに怒らず、間違ってることは間違ってる、良くないことは良くないって、淡々とした調子で注意してやるだけでいい。それでも聞かない馬鹿はもう知らん、無視か放置だ。

 あとはそうだな……むやみに後輩たちを引っ張らないことかな。普段の練習はほとんどみんな自由にやってたんだが、俺はけっこう自分の練習に後輩たちを同行させてたところがあったから、そこも無くすようにする。

 だからウォームアップが終わった後は、俺は完全に独りで動く。自分の練習にただ集中する。もう他の同期に面倒を見てもらう!特に那須(2組、投擲種目を専門)と中山(3組、走り高跳びを専門)はけっこうな人望持ちで後輩によく慕われてたから、あの二人に任せておけばOKだ。


 そう。俺は独りで動くべきだ。やり直したいことの為に。無理に後輩をまとめない、それで余計な軋轢を生ませない。仮に面倒を見るのだとしたら、それはやる気のある奴だけだ。

 だけどやっぱり最初…1年が入ってしばらくの間は、俺が率先して練習の見本くらいは務めてやっといた方が良いよな。


 というわけで4月の間、ウォームアップでやる基礎ドリルを、後輩ら(特に1年)の前でしっかりお手本を見せて、言葉で説明もしてやった。何といっても基礎の動きは大事。地味な動きでもこれをきちんとやれてなければ話にならない。

 例えば脚上げ。足を前方に出し脚全体を上げるだけの簡単な動作なのだが、ただ漫然と上げるだけで良いってもんじゃない。足を末端のつま先から動かすのではなく、もっと大きな部位…股関節などから動かすイメージをもって、脚を動かすのだ。どんな動作においても、体を動かすのは末端からではなく幹…中心部から動かすこと。これを意識するしないだけで既に大きく違ってくるのだ。


 てな説明を、各種目とも実際の動きを交えながらやってやった。うん、やり直す前と比べてきちんと言えたし、動きも丁寧にやれてる。

 とはいえ知能が中学生なりたての1年にはまだ分かってもらえず、見よう見まねの動きしかやれてなかった。まあガキのうちはまだそれくらいで構わないかもな。ていうか同期の奴らの方が俺の説明に聞き入ってた感があったな…。


 そんな感じで俺の最初で最後の丁寧な指導期間が終わってからは、一人での練習時間が増えた。なのでいちばんやりたかったトレーニングメニュー・練習方法の改善にいっそう集中することが出来た。

 練習メニューを組むにおいて、第一に自分の今の体の強度を考慮したものにすること。中学生期の体はまだ未熟なので、負荷が強過ぎるトレーニングをするのはNG。なのでウエイトトレーニングは今年は一切やらない、必要ない。筋トレは自重種目で十分だ。その筋トレも毎日やる必要は無い。


 何はともあれ、この時期は技術を磨くことに力を入れたい。まずはスプリントドリル…主にマーカーを使ってのトレーニング。マーカーの間隔は2足長、5足長、9足長があり、それぞれでやる種目も変わってくる。

 間隔が狭い2足長であれば弾む動作を中心に、動きは小さなものから。中間の5足長ではホッピング系、腿上げなどちょっと大きく弾んでみたり。9足長は大きな動作、バウンディング系、その間隔の中で腿上げ系を何回も…など。種類は全部で20~30はあり、毎日やってても飽きはこなかった。


 メインとなる走り系も、やり直し前と大きく変わった内容となった。まず一つ、毎本全力を出して走らないようにしている。短距離走だからって何でも全力出しとけば良いってものじゃない。全力でやるとフォームや接地の確認が困難になるし、何よりも疲れる。

 疲れるとどうなるかっていうと、動きが雑になってしまい、理想の走りが出来なくなる。試合でそうなるならまだしも、練習までそうだといつどこで理想の走りづくりをするのかって話。

 だから練習で走る時の出力はいつも8~9割に設定している。走ってる時の体の力感、体幹のブレ、腕振り、膝の角度、接地の箇所、あとは足の流れにも気を向けたい。それらを一本ごと分けて確認しながら走るようにしている。この頃特に重視していたのが、フォームと体の力感…余計な力が入っていないかのチェックと、足が流れないようにすることだったな。これを修正するだけでもタイムはだいぶ変わってくる。初心者は特に。



 そうして春の陸上練習は技術磨き、走りの修正に時間を費やし、適度な走り込みによる体力の向上もかかさずこなして過ごした。

 そんな中での5月下旬、やり直し人生で二度目の大阪中学選手権、その地区予選の時がきた。







*陸上用語

「足の流れ」(足が流れる)…接地した足が地面を無駄に蹴ってしまい、それによって後ろの足が身体に取り残される状態のことを指す。

考えられる原因は、後ろの足を前に引き出すパワーと接地した瞬間の地面への圧が不足している。つまりそれらに必要な筋力の不足が挙げられる。

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