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お手頃なラブホテルの部屋の中、譲と今日もそういうことをしていく。
私には婚約者がいるのに、彼氏の譲とそういうことをしていく。
5月22日の29歳の誕生日には結婚をするのに。
その日に譲とは別れるのに。
そういう約束で付き合っているから。
私が婚約者と結婚をする日までと、そう約束をして付き合っているから。
終わってしまう。
あと少しで譲とこんな風に過ごせる日が終わってしまう。
「譲、ごめんね・・・ごめんなさい・・・。」
さっきから何度もその言葉を繰り返す。
譲とのこの時はいつもこの言葉を繰り返す。
「うん・・・。」
譲はいつも“うん”と答えるだけ。
いつも、それだけ。
愛の言葉は囁いてくれない。
何故かいつも、愛の言葉は囁いてくれない。
1度もそんな言葉を言って貰えたこともない。
この時にはキスもしてくれない。
何故か外ではよくキスをするのに、この時には1度もキスをしてくれない。
あと少し・・・
あと少しで、そんなことを悩むことも終わる。
あと少しで、譲とは何でもない関係になる。
それを考えたら泣けてきてしまって、私は両手を譲に伸ばす。
譲は真剣な顔を少し色っぽく歪めながら、私を強く抱き締めてくれる。
そんな譲を私も強く強く抱き締め返す。
そして、伝える。
「譲、好き・・・。」
「うん・・・。」
「好き・・・。」
「うん・・・。」
「大好き・・・。」
「うん・・・。」
“うん”としか答えてくれない譲に、私は今日もお願いする。
「好きって言って、お願い・・・聞きたい・・・。」
「そんなことわざわざ言わない・・・。
言わなくても分かるだろ・・・。」
「でも、聞きたい・・・そしたら、忘れないから・・・。
ずっと、忘れないから・・・。」
今日もそうお願いするのに、譲は言ってくれなかった。
言ってくれたのは1度だけ。
告白をしてきてくれた時の1度だけ。
その時のことを思い出しながら、私はまた謝る。
「ごめんなさい・・・本当に、ごめんなさい・・・。」
この汚い世界の中、1番汚いのは私。
何よりも誰よりも汚いのは、私。
「ごめんなさい・・・。」
謝り続ける私を、譲は今日も強く強く抱き締め続けてくれた。
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