イルシエラ・トリロジー

赤燕

黒き魔女

幕外 +灰+ 真実を知る者


 神々の御世が終わり、光と闇の眷属けんぞくがまだいた時代。

 シェランド大陸がカルヴァドⅠ世に統一される少し前の話。




 大陸に二人の魔女がいた。


 不思議な力を使う彼女たちを、人々は畏怖いふ尊敬そんけいの念をこめて魔女と呼んだ。

 銀髪白眼の心優しきセレニアを白き魔女、黒髪黒眼の聡明そうめいなルディスを黒き魔女。


 二人の魔女は容姿もさることながら、性格もまた違っていた。外向的な白き魔女セレニアは、人々を慈しむように不思議な力を施して回った。その時、儀式のために造られた祭壇は、聖なる教会として大陸各地に存在する。


 対して、内向的な黒き魔女ルディスは、人目を忍ぶようにして不思議な力を人々に教えて回った。白き魔女に比べればその数こそ劣るものの、各地に図書館を建てた。それらは黒の図書館として現在も人々に使われている。


 やり方こそ違えど、二人の魔女は人々に不思議な力による恩恵を与えた。

 その力こそが、後生に伝わる〝魔術〟である。


 悪しき闇の眷属におびえてきた人々は、彼女たちのもたらした魔術に希望を見出した。その力のおかげで、人々は闇の眷属に怯えることのない平和を手に入れたのだ。


 しかし、ある日を境に黒き魔女は変わってしまった。


 そう、白き魔女セレニアが編みだした〝みんなが幸せになれる魔術〟の儀式を阻害し、こともあろうに白き魔女を殺してしまったのだ。


 こうして、白き魔女は〝白銀の聖女〟とたたえられる一方で、黒き魔女は〝悪しき魔女〟とさげすまれ、その名を歴史に刻むことになった。




                    ジェランド暦 四五七年

                         真実を知る者


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る