第11話 王子様と一緒に何とか一曲踊ったら、その後殺到する女生徒から王子様と一緒に逃亡することになりました
会長は踊れない私を会場の真ん中まで連れて来てくれたのだ。
「あの会長、私ほとんど踊ったことないんです」
私はやっと告白できた。
「えっ、そうなのか」
会長はまじまじと私を見た。
「本番で踊ったことは無くて」
「それは俺も同じだよ」
会長も頷いてくれるんだけど、でも、絶対にレベルは違うはずだ。
「でも、ちゃんと踊れますよね」
「それは判らないよ。本番で踊ったことは無いから」
会長は言ってくれるが、ほとんど練習したことのない私に比べたら、うまく踊れるはずだ。王族なのだから子供の時から英才教育を施されているはずだし。
「でも、練習は一杯やっているでしょ」
「まあ、人並みには」
「私と全然違いますよ」
「でも、ニーナ嬢も少しは練習したんだろう」
「それはまあ」
私は曖昧に頷いた。ダンスの先生からはまだまだだとしか言われていないし。
「もうここまで来たんだ。やるしかないだろう!」
「足踏んでも許してくださいね」
「判った」
少し躊躇した後に会長は頷いてくれた。これで足踏んで不敬にはされないはずだ。
そして、会長は私の右手を持つと逆の手を腰に添えてくれたのだ。
会長の顔が近い!
ええええ! こんなに近いの!
私は真っ赤になった。
今まではダンスの先生はおじいちゃん先生だったから全然気にならなかったけれど、今回の相手は生徒会長というか、学園トップクラスのイケメンの王子殿下なのだ。
「ニーナ嬢、何故赤くなっているんだ」
「だって会長の顔が近すぎて」
「ダンスはこういうものだろう」
平然と会長は言ってくれるけれど、
「いや、でも、今までおじいちゃんだったから意識したことも無くて」
私はいっぱいいっぱいで言うと、
「俺を人形だと思って踊れ」
殿下が言ってくれたんだけど、そんなの無理!
でも、私が落ち着く間もなく、そんな時に音楽がいきなり鳴り出したのだ。
「行くよ」
会長がゆっくりと動き出した。
それに合わせて踊りだすが、いきなり会長の足を踏んでしまった。会長が顔をしかめる。
「すみません」
「良い、気にするな」
その会長の息遣いが聞こえるほどに近いんだけど……
私の頭がパニックになってしまった。
そして、また踏んでしまった。余計な事を考えると踏んでしまうのだ。
「踊りに集中して」
会長が指示してくれる。
そうだ。今は何とか踊り切らねば。
私は練習の時を思い出した。
そう言えば初めての練習の時も先生の脚を数えきれないほど踏んでしまったのだ。
次からは先生は踏まれても大丈夫な鉄板入りの安全靴履いて来てくれたんだけど……
それはそれでムカついたんだけど、会長は大丈夫だろうか?
余計な心配は横に置いて、私は必死に会長の踊りについて行こうとした。
なんとか練習を思い出して形にはなってきた。
「そう、やればできるじゃないか」
「そうですか」
褒められて喜んだ途端にまた会長の足を踏む。
会長に思いっきり顔をしかめられた。
「褒めた途端にダメだな」
「先生にも言われました。先生なんて翌週から安全靴履いて来たんですけど」
「それは一理あるかもしれない」
「会長も酷いです」
私はいつの間にか会長との踊りを楽しんでいたんだと思う。必死だったけれど。
でも、そろそろ踊りも終わりの時間だ。
もう二度と会長が私と踊ってくれることは無いだろう。
そう思うと少し寂しかった。
「会長、無理言って踊って頂いて有難うございました」
私は最後にお礼だけは言っておこうと思ったのだ。
「何言っているんだ。まだ終わってもいないぞ」
「いや、でも、終わった後は話せる時間も無いように思うので」
私は言った。終わりが近くなって、踊る人がが周りに急に増えて来て、人口密度が増えてきた気がするんだけど。
特に、女性の会長を見る視線が熱い。
「なるほど、これはまずいな」
会長はそう言うと
「ニーナ嬢、少し動くよ」
「えっ?」
会長は強引にその中から抜け出してどんどん端に移動していくんだけど。
私の頭の中は疑問符だらけになった。
それを追ってこようとするんだけど、人が多すぎてあちこちで衝突が起こってうまくいかない。
いつの間にか会場の端に私達は移動していた。
どうする気なんだろう?
私は不吉な予感がした。
そして、音楽が終わった。
「殿下!」
「何言っているのよ私が先よ」
「いえ、私こそ」
「お先に」
「ちょっと待ちなさいよ」
女生徒がみんな必死にこちらに走って来ようとしていた。
「ニーナ嬢、行くぞ」
会長は私の手を引くと脱兎のごとく駆けだしたんだけど。
「……」
私はついて行くしかなくて
「殿下!」
「お待ちください!」
「ちょっと不敬女待ちなさいよ」
女どもが追いかけてくるんだけど、
「アクセリ、後は頼んだ」
入り口にいた副会長に会長が頼んでいた。
「えっ、おまえどこ行くんだよ?」
「逃げるに決まっているだろう」
「おい、そんなのが許されるのか?」
そう叫ぶアクセリ様に会長は手を振って私を連れて逃げ出してくれたんだけど、これって絶対にまずい気がした。明日から生きていける気がしないんだけど……
もっともこの時は一緒について走るので精いっぱいだったけど……
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殿下に迫る女生徒たちの前から殿下と一緒に逃走したニーナの運命やいかに?
続きは明朝です。
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