第6話 王子と競って勝ってしまいました
そう、私は知らぬとはいえ、またしても不敬な事をやってしまったのだ。その事で固まってしまった。
私の住んで居たところで一番偉いのはご領主様だった。
私も2回くらいしかお会いしたことがない。一回目は何故か、私達の田舎に視察に来られたことがあって、遠目に見ただけだ。
二回目は今回王立学園に入る前に、この半年間のお礼を言うために拝謁したのだ。
まさしく拝謁だった。
玉座みたいな立派な椅子に偉そうに腰かけた男爵様の前に罷り越して、その横に立っている執事さんに
「ここまでいろいろとして頂いて有り難うございました」
と申し出たのだ。
それを執事さんが、
「この者が今回ご領主様のお骨折りによって、王立学園に入学することになりましたニーナ・イナリでございます。ご領主様にとてもお世話になったとお礼を申しております」
「ん、励めよ」
この時初めて私は声をかけてもらえたのだ。
「はい、頑張ります!」
私は元気よく返事したのだ。
「ん」
領主様はニコリと笑っていただけた。
後で直接返事してはいけなかったと、注意されてしまったんだけど。
そんな関係なのだ。
男爵様でも、そうなのだ。
いわんや王家なんて、星の更に向こう側。ライらの言うところの、恐らく前世のアンドロメダ星雲くらい離れている高いところにおられるはずなのだ。
本来、平民の私なんて一生涯お話どころかお目見えもできないはずなのだ。
そんな方々に、またしても失礼な事を言ってしまったのだ。
もうこれは、退学させられるのではないか?
私は呆然自失してしまったのだ。
「ちょっと、ニーナ、大丈夫なの?」
王子様達が去った後も、私は呆然として、反省の言葉が書けなかった。
「ちょっと、どうした、黒髪」
「お前、今までは第一王子殿下の目の前で豪快にいびきかいて寝ていたじゃないか」
「そうよ、いきなり、どうしたの?」
「だって、私、本当は地味で大人しい性格で……」
「「「……」」」
皆で絶句するのはやめてほしい。
「先生、ちょっとこの子、殿下と知らずにあんなことしたのでパニクっていて、このまま連れていっても良いですか?」
「そうね。二度とこんな事はしてはダメよ」
先生もさすがに可哀相になったのか許してくれた。
呆然としていた私はライラ達によって連れ出されたのだ。
「どうしたのよ、ニーナ! あなたらしくないわよ」
ライラが突っ込んでくるんだけど。
「だって、王子様に逆らって、退学させられたら、私は行くところ無いし」
「えっ? 実家に帰れば良いんじゃ無いのか?」
「実家って言っても、もう誰も居ないし」
「お父さんとお母さんは?」
「昔、小さい時に事故で亡くなったの。育ててくれたおばあちゃんも、半年前に亡くなって」
「そうか、それは大変だったな」
私の話にさすがに皆、少しは同情してくれたみたいだ。アハティも今までの反発が嘘のように慰めてくれた。
「有難う。で、そんな時にご領主様が王立学園に来れるようにしてくれたんだけど、不敬で退学になったら、受け入れてくれるわけ無いし」
「不敬ではさすがに退学にはならないわよ」
ライラは言ってくれたが、
「でも、そんなの判らないじゃない。あの王子様、陰険そうだし」
「判った、そうなったら、家で雇って上げるから」
ライラが天使のようなことを言ってくれたのだ。
みんなが言うにライラの家のハナミ商会は王都でも有名らしいし、そこで働けるようになったら食いっぱぐれることは無いだろう。
「本当に?」
「約束するわ」
私が確認するとライラが約束してくれたのだ。
「判った、そう聞いて安心したわ」
私は現金なもので、そう聞いて急に元気になったのだ。
「じゃあ、皆、行こうか!」
そう、切り替えが肝心なのだ!
「えっ、もう大丈夫なのか?」
「うん。最悪、退学になっても行くところは決まったし、もう生徒会長にあんな事やってしまった後だから、不敬がいくら増えても一緒だもん!」
私は強引に吹っ切ったのだ。
「皆、行くわよ!」
そう言うと私は校庭に向かって駆け出したのだ。
「えっ、ちょっと、待ちなさいよ!」
「なんというか、とても単細胞だよな」
「本当に信じられない」
後ろでみんなが何か言っているが構ったものではない。
それに既に、第一王子殿下と第二王子殿下にとんでもないことをしてしまったのだ。
これ以上酷いことはないだろう。
後は公爵令嬢だろうが、侯爵令息だろうが、不敬が増えたところでもう知ったことではなかった。
次の競技は障害物競走だった。
最初は平均台で、先輩とじゃんけんして勝つと前に進めるのだ。一人で3人勝ちをしないと次に進めないらしい。
当然一番最初に駆けてきた私が先頭に立った。
「じゃんけんポン」
私は先輩の合図にグーを出す。
「くそ、負けた」
先輩は平均台から飛び降りてくれた。
次の先輩が来て、
「じゃんけんポン」
今度はちょきだ。
「負けちゃった」
その先輩も飛び降りてくれて、
「じゃんけんポン」
今度はパーを出したら勝ってしまったのだ。
「凄いなニーナは」
「やはりじゃんけんは馬鹿ほど強いっていうじゃない」
「それ、言えてる」
後ろの外野が煩いんだけど……
「ほらほら皆、行くわよ」
私は強引にまた、駆け出したのだ。
次は四輪車競技だった。
二人で漕ぐ四輪車があって、残りの三人は前と後ろに乗れるように椅子がついていた。
「じゃあ、ヨーナスとアハティよろしく」
私が言うと、
「俺たちが漕ぐのかよ!」
「仕方ないでしょ。あんた達が一番体力があるんだから」
私の言葉に二人は仕方無しに漕ぎ出す。
「そら頑張って」
「何かめちゃくちゃ重いぞ」
アハティが失礼なことを言ってくれるが、
「あんたらの体重がでしょ」
「そうよ。どう見ても私もニーナもハッリも軽いわよ」
私とライラにかかればこんなものだ。
「見てみて、皆! 前に殿下らが見えてきたわよ」
私が皆に叫んだ。
「殿下、不敬女が追ってきましたよ」
「お前らな。これ結構、重いんだけど」
殿下ともう一人体の大きい生徒が漕いでいるが、殿下はそこまで力がないみたいだ。
そして、こちらは騎士候補二人だ。体力だけはある。
ぐんぐん追いついていった。
「あと、少しよ。頑張って!」
「もう少しよ!」
私達は必死に応援するが、何か、アハティらの動きが悪い。
「殿下、頑張ってください」
「不敬女に負けたらダメです」
乗っている女たちが必至に殿下の汗を拭っている。
でも、追いついたところで何故かこちらのスピードが落ちたんだけど……
「ちょっと、二人共忖度したら駄目よ」
「何だ、忖度って」
「相手が王子殿下だって思ってまわざと負けることよ」
私が大声でいうと、
「不敬女。何を言う。これは正々堂々と勝負しているのだから、負け惜しみを言うな」
殿下が言うんだけど、私は絶対にアハティが手加減していると見たのだ。
「アハティ!」
「いや、俺は別に」
「あなた、殿下を勝たせたからって未来の近衛騎士の仕事は回って来ないわよ」
「そうよ。ニーナと一緒の班なんだからもう目をつけられているって」
何かライラの言葉がきつい。
「えっ? やはりそうなのか」
なんか、ますます、アハティのやる気がなくなっているんだけど……
ゴールが見えて来た。
「ああん、もう良いわ。アハティ、私に代わって」
「代われって、ニーナには無理だろう」
「任してよ。私は田舎育ちなんだから」
そう言うと強引にアハティの場所に私が入り込んだのだ。
「えっ、ちょっとニーナ、近いって」
慌ててアハティが私に代わってくれた。
「おい、大丈夫なのか?」
不安そうにヨーナスが聞いてくれるが、
「本当に重いわね」
そう言いながら私は思いっきりペダルを漕いだ。
「だから言っただろうが」
ブツブツアハティは言ってくれるが、
「後少しよ。ヨーナス、行くわよ」
「えっ、本当に? あれ、早くなった?」
私達の二輪車はゆっくりと加速していったのだ。
あっという間に殿下に並ぶ。
「殿下、並ばれましたよ」
あの横にいた赤髪の偉そうな女が殿下に言ってくれるが、
「駄目だ。力が続かない」
「お先に」
私は殿下に手をふるとさらに加速したのだ。
「くっそう、不敬女め」
「待てよ」
「俺たちを抜いていくのか」
何か色々言ってくれるが、私は無視したのだ。
どのみち、もう散々不敬な事はしたのだ。今更殿下に負けてあげたところで、王宮に職が見つかるはずは無かった。
そうか、殿下に失礼なことしなかったら、ひょっとして王宮で就職できたかもしれなかったの?
後でライラに聞いたらあんただけは絶対にあり得ないって失礼極まりないことを言われたんだけど……
直線で加速した私達は文句を言う殿下達を後ろに残してトップでゴールインしたのだった。
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王子様に勝ったニーナたちでした。
明朝はやっと新入生歓迎パーティーです。
果たしてニーナは第一王子殿下と踊ることになるのか?
お楽しみに!
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