5:時東はるか 11月24日15時20分 ①

「おまえさぁ、冷凍もの嫌いなの?」

「へ?」

「いや、冷凍ものというか、レトルトというか、既製品?」


 しげしげと段ボール箱を眺めていた南に問われ、時東は曖昧に首を傾げた。たぶんだけど、どれも意味一緒じゃないかな。

 自分を居間に放り込むなり風呂に消えたと思えば、出てくるなりこれである。おまけに、ろくに拭いてもいないので、毛先からぽたぽたと水滴が落ちている。いや、まぁ、家主が気にしていないなら、畳が濡れてもいいと思うけど。


「え、いや、うん……まぁ、好きではないけど、でも嫌いだから南さんに押し付けに来たわけじゃないよ?」

「ひとりのときにでも食えばいいのに。それとも、尋常じゃない数が送られてきたりするの? こういうの」

「まぁ、そんなところ、です」


 大概の場合は事務所で処理します、とも言いづらい。濁した時東を追求することなく礼を述べると、南は廊下に出て行った。もちろん、箱は抱えたままだ。

 チーンと響いた鐘の音に、なんとなく尻の据わりが悪くなる。仏壇のある家の慣習かもしれないが、供えていただけるようなものではないのだ。


「あのさ、南さん」


 仏間に恐る恐る顔を出すと、立派な仏壇が視界に入った。線香の独特の香りが鼻先をかすめていく。

 時東の声に、しっかりと正座をしていた南が振り返った。なんだ、来たのか、とばかりの、ほんの少し意外そうな顔。


「俺もちょっと、ご挨拶させてもらってもいい?」

「いいけど」


 仏前から退いた南のあとを受けて、時東も膝をついた。並んでいる遺影は四つ。

 比較的新しいと感じたのは、埃を被っていなかったからかもしれない。おそらくは、南の祖父母と両親だ。


「蝋燭だけ消しといてな」

「はーい」


 立ち去る背中に良い子の返事をし、ちんと鈴を鳴らす。南に似た、気難しそうでいて、どこか優しそうな男性と、お喋り好きそうな雰囲気の笑顔の女性。

 もう、ここは俺ひとりだから。はじめて南の家に訪れた際に、彼が言った理由がよくわかった。

 息子さんには大変お世話になっています。いつもありがたくおいしいごはんをいただいています。ついでにできれば、今後ともよろしくお願いしたいです、と。

 最後は神頼みの様相だった気もしたが、よしとして、時東はそっと蠟燭の火を手で消した。




[5:時東はるか 11月24日15時20分]

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