今年中二病を卒業したばかりのウチの妹様が、この国の首相に選ばれちまったんだけど……一体どうりゃいい? ~お兄ちゃん。私、国を操るのは初めてだけど(自称)元魔王様だからきっと大丈夫だよね♪~

月乃兎姫

第1話 首相に選ばれてしまった妹

 中二病……それは若者を中心に広がる流行病であり、現代社会におけるネットを中心にゲーム・アニメ・ラノベなどを通じて強力なまでに拡散していった。

 またその治療薬や治療法も未だに確立されないまま、中二病を患ってしまった若者達は進学や就職という現代社会における苦行という名の現実に苦しめられ、やがては労働というこれまた現代社会におけるある意味で資本主義の原理の前にし、みんな最後には息絶えていくことしかできなくなっていた。


 それと時を同じくして、流行り始めた病がある。

 それは『中三病』というこれまた中二病に匹敵至難ばかりのやっかいな病であった。


 中三病は中二病を患った若者が少しだけ大人になり、自らを取り巻いている現実問題(進路や就職問題など)を嫌でも自覚してしまい、それに併合する体裁を得るために中二病をやや抑えた小康状態であると言えよう。

 だが、何らかのきっかけさえあれば、いつでも中二病末期へと進行してしまう恐ろしい病でもあったのだ。


 日本に住む若者達は、日々その病に罹らないことを祈りながらも、ゲームやアニメそしてラノベなどを見るのに勤しみ現代社会を生き抜こうとしていたのだった……。



 そして物語とは、いつも唐突に騒々しい騒音及び朝の目覚めから始まるものである。


 ピーンポーン♪

 ピンポンピンポーン♪


「ったく。こんな月曜日の朝っぱらから誰だよ一体……」


 週の始まりである月曜の朝からチャイムを何度も鳴らされれば、誰でも不機嫌になるだろう。

 まだ夢の住人である男は毛布を頭まで被ったまま、眠い目を擦りながらスマホの時計を見ながら、誰とも知らぬ来訪者に文句を口にする。


「ぐあ~~~っっと!! だいたい今何時なんだよ……って、まだ朝の6時前じゃねぇか!? こんな時間に訪ねてくるだなんて、築地の朝市か、頭の可笑しい奴しかいねぇよ……」


 俺はわざとらしくも頭に被っていた毛布を乱雑に剥ぎ取り、そこらに蹴り飛ばしながら目が覚めるようにと背伸びをする。


「うぐぅっ!? 肩とか腰とかバッキバキに痛てぇよぉ~」


 無理な姿勢で寝ていたためなのか、体全体が痛くなっていた。


「ふあぁ~~~っ」


 そうこのアホ面を下げながら欠伸をしているのが、この物語の主人公月野祐樹つきのゆうきであった。……まぁぶっちゃけこれが『俺』なんだけどね。


 この時はまだこれから起こるであろう出来事なんて考えてなかったから、暢気なもんだわな。


「やっぱニートとは言え、睡眠は大事だよなぁ~」


 そう俺は今若者の間で大人気且つ羨望せんぼうの眼差しで、羨ましがられる存在である『ニート』だ。

 それも『20歳・童貞・無職』と、ある意味で三拍子揃ってしまった真正の堕落者ネオニートでもある。もうここまで揃ってしまえば「あと10年はニートとして戦える! そしてリアル魔法使いになるんだから!!」などと妄言を口にしながら自分の部屋に自らの王国を建国してしまい、ニートの王様になることを本気で夢見ていた。


「はーい、今行きま~す♪」


 一階からカワイイ女の子の声が聞こえてきた。

 どうやらウチの妹様である朱莉あかりが無礼な来訪者に応対するようだ。


 まぁ両親もいない俺達なのだから、俺が出なければ当然如く朱莉先生が出るしかないのはもはや王道中の王道テンプレートかもしれない。

 もしくはこのまま出ずに居留守を使うって手もあるにはあるのだったが、朱莉の性格からしてそれは無理と言うものだろう。


 兄である俺が言うのもなんなのだが、妹の朱莉はどのコンテンツ作品出してもおかしくない、それこそメインヒロインを張れるほどの容姿を兼ね備えた美少女である。しかも妹属性という少し古めかしくも、どこか王道の属性ステータスを持ち合わせている魅惑が溢れに溢れた女の子であると言えよう。

 だがしかし、そんな唯一無地、完璧美少女の妹様である朱莉と言えども、不治の病気にまでは勝てなかった。


 その病の名は……


「きゃーっ!!」

「朱莉っ!?」


 いきなりの朱莉の悲鳴を聞きつけた俺は自らの部屋王国から飛び出した。

 先程チャイムを鳴らした輩がウチの朱莉に狼藉ろうぜきを働いたのか、それとも押し入り強盗だったのか、未だにそれは判断がつかなかった。


 けれども朱莉の兄であるこの俺が助けないわけにはいかない。

 何故ならピンチにさらされた妹とのフラグを立てる目的がまことしやかにもあったからである。


「ぐっ、ぼっ、ばべぇっ……いっててぇーっ。あ、朱莉、大丈夫かっ! お前、怪我はないかっ!?」


 俺は身を乗り出しながら玄関に居る朱莉の元へと駆け寄った。

 ま、現実にはただ階段を踏み外してしまい、二階から転がり落ちてしまっただけなのだが、俺の面目を保つため、敢えてその描写は割愛することにする。


「お、お兄ちゃん……」

「朱莉……お前。無事……なのか?」


 見れば朱莉は玄関ドアを半開きにしたまま、ただ呆然と立ち尽くしていただけだった。

 そして俺の声に反応して振り返ると、こんな言葉を口にする。


「お兄ちゃん……ワタシ、この国の首相・・・・・・に選ばれちゃったみたいだよ……」

「…………ん??? 首相に選ばれた……お前がか?」

「(コクリッ)うん」

「はぁ~~~~~っっっっ!?!?!?!?」


 ワンテンポもツーテンポも遅れに遅れ、ようやくその言葉の意味を理解した俺はご近所の迷惑を厭わずに戸惑いと理解不能さから言葉を叫んでしまう。


「あ、朱莉? それって一体どういう……そもそもこの国の首相に選ばれたって、お前、まさかまた病気が……」


 俺は今世紀最大級の混乱を見せ、再度確認するように聞き返してしまう。

 それもそのはず、いきなり訳の分からないこと。朱莉の口からこの国の首相に選ばれたなどと言われても、平凡すぎる俺の脳みそでは処理能力過剰キャリーオーバーな事態なのは言うまでもない事実であった。


「お兄ちゃん。ワタシ、国を操るのは初めてだけど(自称)元魔王様だからきっと大丈夫だよね♪」


 朱莉は他作品のメインヒロインの座を脅かさんばかりの満面の笑顔で、そう明るくセリフを口にするのであった。


 そう既にご承知のとおり、ウチの妹様である朱莉が患っている不治の病とは、なんと『中二病』だったのだ。



【カクヨムコンに応募中ですので、作品フォローや星での応援をしていただければ、幸いです。よろしくお願いします】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る