第7話 妖精宿の探検!


「よし、今から妖精の宿の探検だ」

 ケントは壁にあった光る石を手に取った。

「それ持ち出していいの?」ユウは言った。

「もとにあった場所に戻しておけば大丈夫だよ」

「なるほどな」ユウは頷いた。

 二人は、部屋を出ると、上下左右に以前のエレベーターに乗り込んだ。最初は、エレベーターがめずらしく、何度か乗り降りを繰り返した。基本エレベーターは上下左右に動いた。

 慣れてくると、行き先が分かるようになった。

 最初は、どこに行くのか分からなく、一番高い場所まで行ってしまった。そこから見えた風景には絶景だった。湯屋は吹き抜けのようになっており、一番下に巨大な風呂あり、それから各下層ごとにお風呂があり、客室も見えた。

「おいあれ!」

 ケントは湯に入った妖精を見た。「風呂に入っているぞ」

「あの妖精サボっているんだ。わきにブラシが置いてある!」

「ホントだ。あっちには、他のお客さんがいるぞ。すごいな! 種族も、性別もどっバラバラなのに、楽しそうに風呂に入っている。風呂も幾つもある。湯気が上がって気持ちよさそうだ。あっちには、うわ。女性風呂だ!」

 ケントは顔をそむけた。ここには細かい決まりなどがない。それぞれが自由にお風呂に入って楽しんでいる。

「ここは良い場所だな」

「まるで楽園だ」

 エレベーターを降りると、中階層に立った。そこには人気はなく、静かな場所だった。

 突然、壁に入り口が出き二人を招き入れた。

「入れるぞ。入るか?」

 ケントは勇気を出してその扉をくぐった。扉の先は、闇が広がっていた。持っていた光を発する石をかざして前に進んだ。

 やがて、入り口が閉ざされ、二人は闇の中にたたずんだ。

 二人は、闇の中を彷徨った。

「僕たち、間違った場所来ちゃった気がしない?」

 ユウはおびえた声を出した。

「かもしれない」

「かもしれないだって! 君、いつからそんなに余裕な人間になったの?」ユウはガタガタ震えた。

 実際、ケントは強くなっていなかった。ただのケントのままだった。

 でも何か。何かが彼を前に進ませた。

「歩いて行こう」

 その先で老人と出会った。どことなく威厳のある、どことなく古めかしい衣服に身を包んだ、不思議な老人だった。

「あなたは?」ケントは尋ねた。

「ワシは、リベリオン」

「ぼくはケント。あなたここで何を?」

「ワシは、探求しておる。ここは、精神と、現実のはざま。普段は見られないようなものが、見られる場所なのじゃ」

「どいうことですか?」ケントは訊いた。

「こっちへおいで」リベリオンは二人をいざなった。

 そこには、泉があった。辺り一帯は暗く、いずみはどこまでも深かった。

「これは?」

 リベリオンは言う。

「未来を見通せる不思議な泉と呼ばれておる。ここで見られるのは、その者の未来みらいの断片を見ることができるのだ!」

 リベリオンは目を細めた。暗かった泉がゆっくりと映像を映した。

 何か黒い影が映った。それはゆっくりと動き出し、迫り、人物が映り込んだ。

 それは、会話をしているようだった。

 そして、広大な世界が映し出され、生命の営み、そして……崩れ、死に、風化していく様子が映し出された。

「これはなんでしょう。壮大な映像でした」

 二人は息を飲んだ。

「ワシにも分からのだ。ワシは、ときおりここに下りてきて、自分の……そして世界の行く末をみに来るのだ」

「あなたは一体何者ですか?」ケントは尋ねた。

「わたしは、何者でもない。観察者と言ったところかの」

 ケントはその言葉を繰り返した。

「ワシは思うことがある」

「何ですか?」

「どうやったら、この予言をもっと詳しく知ることが出来るのか。何か、この予言には、深い意味があるような気がしてならんのじゃ」

 ケントは泉を見た。ほとんど何も映し出されなかった。ケントはがっかりした。リベリオンが映し出しように、もっと鮮明に未来を映し出すものかと思った。だが、実際には、ほとんど何も映し出されなかった。

 しかし、最後に、何かが映し出された。それは、泉に飛び込む自分と、ユウの姿だった

 ケントは息を息を飲んだ。一番驚いたのは、リベリオンだった。

「これは一体、どいうことだ!?」リベリオンは言った。「もっと大雑把な、とらえようのない未来が映し出されるはずだ。でも、きみもの場合は違う。はっきりと泉が未来を示した!」

「驚くようなこと?」ケントは肩をすくめた。

 ユウは試してみた。だが、ほとんど何も映し出されなかった。

「もし君に勇気があるのなら、この泉に飛び込んでみる事は出来るか? それは今すぐにでもなくて構わない。これから遠い先、きっと君はここに戻って来て、それを行うはずなのじゃ」

 ケントは大きく息をすった。自分でも信じられなかった。「僕は、今行くべきだと思います」

「何じゃと!? この暗い湖に、今この瞬間飛び込むというのか」

 ケントは頷いた。「僕は、この世界の人間じゃありません。自分がなぜこの場所に呼ばれて来たのか。なぜ、ここに居るのか。そして、なぜあなたと出会ったのか。それには、全部意味があるはずです」

 ユウは言った。「君、頭でも打ったの? 僕たちは、確かに旅人と呼ばれる不思議な存在だけど、無茶をする必要ないよ」

「でも、運命が僕たちを選んだ?」

 ユウは悩んだ。「確かに。僕はずっと悩んできた。平凡で、臆病で、何者でもない自分を、変えたいと願ったさ。ここに来たのには、意味があるはずだとも考えた。でも」

 ケントは言った。

「僕と君と二人ならきっと変われる!」

 リベリオンは言った。

「もし、本当に望むのなら、そこを見てきてほしい?」

 それは、祈りのような願いだった。

 ケントは頷いた。それからゆっくりと、ユウも頷いた。

「僕たち行くよ」

 ケントは言った。

「絶対にぼくを見捨てないって約束していくれる?」

「勿論。僕は君を見捨てたりしないよ」

「僕たち友達だよな」

 ケントは力強く頷いた。

 そして、二人は、暗いいずみの底に向かって飛び込んだ。

 

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