第4話 これから


「ケントさん、出発しましょう」

 ユメは言った。

 あれから家に戻りよく話し合った。ケントは、旅人だということが本格的に分かったので、自分がなぜこの世界に呼ばれたのか。

 自分はこれからどうしていけばいいのかを知るため、旅立つことに決まった。

 それに伴って、ユメとの関係性にもよく話し合った。

 結論からすれば、ユメも一緒に旅立つことになった。ユメを置いて行かない。一人にさせない。

 一緒に旅立って、世界を見ながら、ここに呼ばれた理由を探すことになった。

「さあ、行きますよ」ユメは言った。

 ケントはお世話になった家を見た。家と言っても、掘立小屋のようなものだった。

「ずいぶんお世話になったな」

「ここは私の生まれ育った家です」

「小さくて、落ち着く家だった」

「それって、嫌味ですか?」

 ケントはぶんぶん首をふった。

「俺は、真剣に感謝しているんだ」

「それならいいですけど」

「しばらく留守にしますけど、ちょっと待っていてい下さいね」

 二人は扉に鍵をかけると、背を向けた。

 なんか、この家に住んでいたのが遠い日の出来事のように感じた。

 それから振り返って頭を下げた。

「また帰って来る!」

 二人は、リュックを背負って歩き出した。

「これからどこへ行くんだっけ?」

「もう、ケントさん。忘れないで下さいよ」

 ケントは肩をすくめた。

「あの時、光は北東の森を指しました。だからきっと、わたしたち北東の森へ向かって行けばいいんだと思います」

「北東の森には何かあるのか?」

「いえ何もありません」ユメは首をふった。「ただ、わたしが知っているのは、本当にこの辺りだけで、遠くの事は知りません」

「そうか」ケントは頷いた。「北東に向かって行くんだな」

「そうです。でも、困りましたね」

「何が?」

「だって、遠くに行くためには、かなり歩かなければなりません」

「歩くのなら得意だ」

「でも、どれだけ歩けばいいか分からないんですよ」

「行くしかないよ」

 しばらく行くと、泣いている動物に出会った。ケントは通り過ぎようとしたが、放っておくことができず、立ち止まった。

「おい、大丈夫か?」

 ケントは話しかけた。泣いていた動物は足をケガしていた。

 ケントは背負って、動物を送り届けた。その際、母親から汽車の切符をもらった。そこには【グリーン特急!】とあった。

「見たことない切符だ!」

「私もです。はじめて見ました」

「とりあえず行ってみよう」

 地図の裏に書かれた待合所に行ってみると、そこは森の中にある洞窟の中だった。洞窟は空洞にくり抜かれており、いくつも窓があり、たくさんの人たちでごった返していた。

 人と言っても、森の動物や、あらゆる種族たちだった。

「うわ。凄いな」

「たくさんの者たちがいます」

「ほらどいて!」

 ハリモグラ族の男ににらまれてしまった。

「ごめんなさい」

 男は通り過ぎていく。

「わたし、こんな森の中に駅があるなんてしませんでした」

「僕も初めて見たよ」ケントは辺りを見渡した。「森の中だって言うのに、ずいぶんすごい建物だ。いくつも窓があるし、電話ボックスだったる。あれは何だ」

 ユメは見た。

 駅の中をカモノハシの親子が通り過ぎる。ただ、ケントが知っている世界と違っていて、カモノハシの親子は、人間の言葉を話し、立って歩いている。

「へぇ。ここの生き物たちは、会話できるのか」

「知りませんでした」

「ユメでも知らないことがあるんだな」

 ケントは幾つも列車が止まっていたが、どの列車に乗ればいいか分からなかった。

 仕方なく、二人は、駅員らしき人物を探した。

「あの」

「わたしは、ユウユウだよ」

「ああ、おばさん……」

 ユウユウは、ケントをなぐった。

「おばさんじゃないよ。お姉さんだよ」

「じゃあ、ユウユウ。僕たちこの切符の列車に乗りたいんだけど、どこ列車に乗ればいいの?」

「ほう」ユウユウは切符を見た。

「いい切符を持っているじゃないか」

「これ特別な切符なの? もらったんだ」

「よほど感謝されたんだろうね。この列車は、スペシャル特急さ! ジャングルを回りながら、ジャングルの奥地まで連れて行ってくれるよ」

「僕たち、北東の奥に行きたいんだ」

「なら、ちょうどいいね。この列車の最終目的地も北東の方だからね」

 ケントはほっとした。今までどうして進んで行けばいいか分からなかったけど、これで進む方角が分かった。この列車に乗って行けば、自分たちの旅の目的日近づくことが出来ると分かった。

「あんたたち、急がないと列車が出発しちまうよ」

 ケントは飛び上がった。

「行くよ。どこに行けばいいの?」

 ユウユウは指さした。「あの列車が見えるかい?」

 ケントは列車のある方角を見た。そこには、黒光りしたカブトムシのような列車が停車していた。

「あれ列車なの!?」

「そうさ。装甲そうこうを重金属でおおって、馬力も一万いちまん馬力さ。願えば、どこにだって連れて行ってくる、無敵の列車さ」

「そんなにすごそうには見えないけど」

「バカを言ったらいけないよ。この列車じゃなくちゃ、ジャングルの奥地には進んで行けないよ」

「どうして?」

 ケントが尋ねようとしたとき、汽笛の音が鳴り響いた。

「さっさと行きな、置いて行かれるよ」

 二人は、走り出した。

 そして、切符を切ってもらうと、列車に乗り込んだ。

 中は、外から見るよりずっと広くて、ずっと綺麗だった。

 ケントは列車の個室に入り、四人ほどが座れる客車を陣取った。他の乗ってくる客もいた為、席は早い者勝ちだった。

「ふぅ。危なかった」

「よかったですね。無事に座れて」

「うん。何日間か過ごすようだから、その間、ずっと立っているなんて考えられないよ」

「どうしよう」

 客室の外で、男の子が慌てた様子で辺りをきょろきょろしている。

「きっと、座れなくなったんだ」

 ケントは扉をあけて、他の客室を見た。すでに満タンになっている。

「座らせてあげない?」

 ケントは頷いた。その少年に手招きした。

「こっちが空いてるよ」

 少年は客室に入ると席に座った。

「はぁ。よかった。君たち、ぼくの命の恩人だよ」

 ケントは肩をすくめた。「僕はケント、それでこっちがユメだ」

「ぼくは、ただのユウだ」

「ただの?」ケントはその言葉に反応した。「ぼくもただの、ケントだよ。何の取り柄もない、ただの」

 ユウは頷いた。「なら、僕たち一緒だね。ぼく、実を言うと旅人なんだ」

 ケントは驚いた。「それ本当なの!?」

「そうさ。ぼくは、地球という星からやった来たんだ」

「僕もだ!」

 思いがけない出会いに二人は驚いた。

「君、本当に地球から来たの?」

 ケントは頷いた。「ぼくは、地球から突然やって来て、こっちにいるユメの家に居候していたんだ」

 ユウは羨ましそうに肩をすくませた。

「ぼくの場合は、外で野宿のじゅくしていたんだ」

 突然、ユウの肩に何かが登った。

「それは」ケントは尋ねた。

「森で知り合ったんだ」ユウは肩をすくめた。「たぶん。森の妖精。ぼくはバカでおっちょこちょいだから、この子が居なかったら死んでいたかも」

 ケントは森の妖精を見た。

 その妖精は拳ほどの大きさで、片方の手にかさのついた小さな葉を持っていた。

「可愛いです」

 ユメがすぐに反応した。

「この子の名前は?」

「もみじって言うんだ」

「可愛い名前」

 三人と、一人の妖精は、互いに事項紹介しながら、列車の旅を楽しみ始めた。


 

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