#2
「……どうした?本格的に頭のネジがバグっちまったのか?」
冗談を通り越して心配の域に達したのか、ジャックは目尻を下げてなんとも言い難いような表情を浮かべる。
「別にバグってなんかいないし、見ての通りちゃんとシラフだ。……なぁジャック、アリーシャに
テーブルに片肘をついた俺が低く唸るように凄むと、彼は「それは……ッ!」と声を上げた口を塞いたまま気不味そうに目を逸らす。
「やっぱり知ってたんだな」
肩身の狭そうなメニュー表をブックスタンドから抜き取った俺は、勝ち誇るみたく言葉を吐くと、ジャックは目も当てられない様子でグラスの水を一気に煽る。
「何故、その話を今更……」
「この世は不思議な回り方をしている。金は必ず金を持つ者へ、女は女の屯ろする方へ……そして、情報はソレに詳しい輩へ集まってくる──だろ?」
「ははは……ソレは僕の台詞じゃないか」
乾いた笑い声を上げた彼は冷や汗をハンカチで拭い、深く息を吸ってから溜息を零す。その様子を横目で一瞥した俺は、テーブルに置かれた呼び鈴を手に取って3回鳴らした。
「ご注文は?」
颯爽と現れた女性ウェートレスが俺に笑い掛けるも、俺は彼女と視線を合わせる事なく「ボロネーゼを2つ」と二本指を立てる。
「かしこまりました」
意に介した様子もなくウェートレスは深々と頭を下げてから踵を返す。店員の鏡とも呼べるしなやかな振る舞いで去って行く彼女の背中を見送りつつ、俺は父によく似た目付きの悪い眼差しをじっとりとジャックに向けた。
「……どうして今まで俺に黙っていた?」
「まぁ……聞かれなかったから、かな」
「それだけじゃないだろう」
誰が口止めをしていたかなんて分かり切った話を濁す往生際の悪い彼は、やれやれといった様子で「あのなぁ……」と椅子の背もたれに体を預ける。
「いいか、僕の商品は情報、つまり全てがビジネスなんだ。それをなんでも言いふらしてたら、それこそ信頼も報酬も無くなっちまうだろ」
「俺の信用よりも、父の報酬を取るって意味か?」
静かに放った俺の一言が、ジャックの時間が止めた。その言葉にどれほどの重みがあるのかを知っているのは、お天道様とあの楠ぐらいだろう。
「……悪かった。これから新しいアリーシャの情報が入った時は報告する」
観念した彼は大きく伸びをしてから体の重心を前に戻すと、ニヒルで愛想のいい笑みを浮かべる。
「でも坊ちゃん、商品をタダで渡せとは言いませんよねぇ?」
「当たり前だ!……グレイファミリー
その言葉を待ってました──と言わんばかりに、ジャックは勢いよく指をパチン……ッと鳴らす。彼の大きな響きに一瞬周りが注目するも、この店の常連はお互いの干渉を避けて何事も無かったように視線を戻した。
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