#2

 父がリビングを離れ、母が自室へ戻ったのを確認してグッタリとソファに沈んだ俺は、暖炉の炎を眺める。


 パチリ……ッと爆ぜては塒を巻くソレに魅入りながら過ごすクリスマスは、本当に味気なく寒々しい。去年、一昨年、その前の年……今まで楽しく過ごしたこの日に泥を塗ってくれた今年の出来事は、きっと一生涯忘れることはないだろう。


「……大っ嫌いだ」


 モゴモゴと口の中で散った感情ごと俺を包み込むソファで寝返りをうつようにくるりと体勢を変えると、太腿辺りに違和感を感じる。


「コレは……」


 天井を仰ぎながらズボンのポケットを弄った俺は、中身を確認するように顔の前へその異物を引き摺り出す。気怠そうに俺の前へ躍り出たのは、今朝まで楽しみで仕方なかった聖日の戦利品、そして変わり果てたアリーシャを目撃するキッカケとなった疫病神。


 ──今更出てくるなんて……本当、役立たずの靴下め。


 少し膨らんでいる靴下の中に手を入れる俺は、機嫌の悪さに任せて終始悪態をつく。そうでもしないと落ち窪んだ気分に自我が飲まれ、きっと何も手に付かない。


 ぶつくさと文句を重ね、指先に引っ掛かるナニカを手繰り寄せる。研ぎ澄まされた感覚を掠るようにすり抜けた触感は、嫌と言うほど馴染みのあるものだった。


「誰がこんな事を……。許さない、絶対に許さない……ッ!!」


 はらり。


 込み上げる激情に肩を震わせて目を見開いた俺の手に握られたのは、俺の燻んだ灰色より数段明るいシルバー、暖炉の光を浴びてキラキラと輝く癖のない綺麗な髪──。


「アリーシャ、俺は誓うよ。お前を殺した糞みたいな奴らを、いや、世界を俺の手でぶち壊してやるって……例え、どんなモノを犠牲にしても……ッ」


 俺の手中で揺れる一縷の色糸に歯を食い縛りながら、沸騰点に達したドス黒い感情が口の中で収まることを知らずに飛び出す。


「メリークリスマス……そして、永遠にお休み。俺はきっと地獄に墜ちるから、アリーシャとは二度と会えないかも知れないな」


 勢いを緩める暖炉に手を翳し、ハラハラと舞う銀髪を炉の女神に焚べた俺は人知れずこの業火に誓う。


 誰の仕業であろうと、奪われた全ての結末をこの手で迎えさせてやる──と。

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