第2話
アパートに帰ってからも嫌な緊張が体を支配していた。
あれって、呪いの人形なのでは?
テレビ番組やホラー映画で見るような人間を呪い殺す類のものだったら、かなりヤバイ。安易に関わってしまった過去の自分をビンタしてやりたかった。
その夜。普段はあまり飲まない酒を浴びるように飲んだあと、気絶するように布団の中へダイブ。
…………………………。
……………………。
………………。
しばらくして、無音をかき消す突然のピンポーン。
「…………」
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
「…………………」
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
普段ならこんな深夜にチャイムなど鳴らない。嫌な予感しかしない。
俺は布団をかぶり、無視することを決めた。
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
「勘弁して……ください……静かに地獄にお戻りください……」
ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
あまりにもしつこいチャイム攻撃。次第に恐怖よりもイライラが勝ってきた。
俺は飛び起きると、玄関まで走り、すぐにドアを開けた。
そこにはーーーー。
「こんな深夜にごめんね」
「んん? え…え………ダレです?」
知らない美少女が、ニコニコ笑顔で立っていた。とりあえず、あの呪いの人形でないことに胸を撫で下ろした。
「人間の姿になれるのは、深夜のこの時間だけだからさ」
「は?」
腰まである艶々した長い髪。モデルのようにスラッとしていて、顔は雑誌の表紙レベル。さっきまでとは違う緊張が襲う。
「あの……」
「先ほどは助けていただき、ありがとうございました。私は、あなたに助けてもらった呪いの人形でーーす!!」
「はぁ!?」
「……ここだと近所迷惑だから、部屋に入って良い?」
「え、いや、あの」
戸惑う俺をどかし、強引に部屋に入ってくる女。横切る瞬間、フワッと甘い良い香りがして、意識が途切れた。
「一人暮らし? 彼女さんは…………いないみたいだね。はぁ~良かったぁ……」
「あ……とりあえず、そこ座ってください」
部屋の電気をつけて、小さなテーブルの前に座ってもらった。
「キミも座ったら? ずっと立ってないでさ」
「え、はい。じゃあ……」
目の前で見た女は、今まで見てきた女とはオーラがまるで違っていた。田舎の祖父母に紹介したら、腰を抜かすレベルに輝いて見えた。
全身から漏れる大人の色気。また儚げな雰囲気もあり、普通の男なら入れ食い状態だろう。
「さっき、呪いの人形がどうとか言ってましたけど……」
「うん。私ね、昼はあの人形の姿なんだ。夜のこの時間帯、なぜか丑の刻だけ人間の姿に戻れるの」
「はぁ………丑の刻だけ…人間に………はぁ…そうなんですね………なるほど……」
「すっごい目。かなり疑ってるね~。まぁ、これに関しては信じてもらうしかないよ」
目の前のスナック菓子をチラチラ見ている。
「あ、いいですよ。勝手に食べて。今、何か飲み物用意しますね」
俺は、立ち上がると小さな冷蔵庫からリンゴジュースを一番綺麗なグラスに入れて、女の前に置いた。
「ありがと……」
なぜかうつむき加減の女は、恥ずかしそうに俺をチラチラ見ていた。
「冗談ではないんですよね……ハハ…スゴいな、都会は………。呪いの人形って、人間になれるんだ……なるほど(?)」
「あ、少し誤解があるみたいだから言っておくと私って、元は人間だからね。なぜか私の魂だけがあの人形に入って、それからはこんな八割人形、二割人間みたいな中途半端な状態なんだけど」
「え!? 元は人間? ますます頭が混乱する。何です、それ?」
「私が分かるワケないじゃん。ってか、美味しいね、このジュース。おかわりくださいな」
女から空のグラスを受け取り、再び立ち上がる。
「じゃあ、もしかして人間だった頃の記憶とかもあるんですか?」
台所から声を投げかける。
もう恐怖は消えていた。
「うん。もちろんあるよ。あ、自己紹介しとくね。私、『口美 レイア』。これから宜しく~」
「俺は、南 海人(みなみ かいと)って言います。まぁ……これからがあるのか分かりませんけど……」
………………ん?
あれ……何か…聞いたことあるな、その名前……。
口美……レイア。
「っ!!!?」
振り返ろうとした俺の前に白い女が立っていた。全く音がしなかった。幽霊のように近づき、その細い両手で優しく首を撫でられた。思わず、グラスを落としてしまった。
「あ、あ、あ」
「フフ……可愛いなぁ」
冷や汗、震えが止まらない。もしかしたら、失禁してるかも。
俺を見つめる女。
これが本当に人間の目なのか?
こんなに冷たくて、暗い目は見たことがない。
「そうだよ~。私は、全国指名手配中の凶悪犯。連続殺人鬼の口美 レイア。…………ちなみに海人ってさぁ、童貞?」
意識が途切れ途切れの状態で、女に操られるようにベッドに誘われた。
「さっき言ったでしょ~? 恩返しだって。私には、今はこれしか出来ないから……ごめんね」
優しく倒され、馬乗りになった女にキスされた。
夢と現実の狭間。
桃源郷。
とにかく、気持ちが良かった。
「……私。やっぱり、キミが好きかも」
連続殺人犯に好かれてしまった。
バッドエンドまっしぐら。すでに詰んでしまった人生。
俺を大学まで進学させてくれて、今も仕送りまでしてくれる祖父母に申し訳なさすぎて…………………でもやっぱり、エッチは超絶気持ち良くて……。
「…ゃ……もう一回しよ……」
「はぁ……はぁ…はぁ…」
ほんと、ワケが分からなかった。
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