43 紅玉宮の女官と白蛇の娘
「皆の者、聞いてほしい。今日より無期限で、
朝餉を終えたあと。
(ひえっ! 木蘭様が、木蘭様がっ)
朝の支度を整えるために若麗が寝室を訪れるまでの間、木蘭から『お泊まり会によって歳の離れた妃たちが親密になった様子を演出する』とは聞いていたが、抱きしめるとは聞いてない。
木蘭と
(目がぐるぐる回って、頭がくらくらします〜〜〜!)
「ふ、ふつつか者ではございますが、皆様どうぞよろしくお願いいたしますッ」
やっとの思いで挨拶を言い切り、苺苺は遠慮がちに木蘭をきゅっと抱きしめ返す。
「ふふっ。苺苺お姉様と一つ屋根の下で過ごせるなんて、妾は幸せものです」
(あああっ、木蘭様とこんなに仲良くなれるだなんて、紫淵殿下に怒られないでしょうかっ)
その紫淵が木蘭であることなど、もうすっかり忘れてしまった苺苺である。
「お待ちください、木蘭様!
筆頭女官の隣に立っていた苺苺と同じ年頃の勝気な相貌の女官が、キッと眉を吊り上げる。
「お泊まり会を延長ということでしょうか?」
「まあ、それは良いわね。紅玉宮がもっと明るくなるわ」
若麗と、先ほどの勝気な女官とは反対側に立っていた背の高い年嵩の女官は、顔を見合わせて柔和に微笑む。
「ちょっと若麗様、
「
「そうね、木蘭様がいくら姐姐と懐いていても……『白蛇の娘』だわ」
「一泊二日だけだったらまだしも、ずっとなんて」
勝気な女官、春燕の言葉を皮切りにして他の女官たちもざわざわと話出し、口々に不信感をあらわにする。
年上の妃に甘える幼妃の演技に徹していた木蘭は、総勢十五人の女官を見渡す。
なあなあな理由で煙に巻けたら御の字と考えていたが、やはり一筋縄ではいかなかったか。
そう考えながら木蘭はむっとした顔をすると、抱きついていた苺苺から離れた。
いつものお澄まし顔をして、ぱんぱんっと手を叩く。
「静粛に」
幼い、けれどどこか凛とした木蘭の声で、紅玉宮は一斉に静まり返った。
しんと静まり返った中、苺苺もつられるようにして、慌てて背筋を伸ばす。
「皆が知っての通り、妾は先日あやかしに襲われた。そのあやかしを退け、命を懸けて助け出してくれたのが白蛇妃、白苺苺だ。……若麗、そうだな?」
「はい。私もしかとこの目で拝見しました」
筆頭女官の若麗が木蘭の付き添いとして事件現場にいたことは周知の事実。その若麗の証言を聞いて、反対していた女官たちは押し黙る。
「どうして苺苺が妾を助けられたのか。それは『白蛇の娘』である彼女に、
「あやかしを……?」
「そんな異能が……?」
「『白蛇の娘』の異能の噂は本当だったのね……」
ざわめき出す女官たちに、木蘭は再び「静粛に」と言い放つ。
「過去後宮で起きた事件に、『白蛇の娘』がなんらかの関わりがあった可能性が指摘されているのは妾も知っている。だが、皆の者が恐れているのは、伝説や歴史書に描かれた物語の中の『白蛇の娘』に他ならない」
木蘭はキリリと目を細め、貴姫としての風格を見せつける。
「つまり! ここにいる白苺苺の異能は、妾たちが恐れるものではない!」
その言葉に、女官たちは困惑げにそれぞれ顔を見合わせて、「そうかも」と頷きあう。
「今後また、先日のあやかしが紅玉宮を狙わぬとも限らない。そのために苺苺には、妾をあやかしから守護する『異能の巫女』として、護衛や夜警をしてもらう。紅玉宮の皆のためにもなるだろう。……苺苺、皆に異能の説明を」
「はい。ええっと、わたくしの異能は、わたくしの血を使ってあやかしを退けるというもの……です。宦官の方々は妖術だと騒がれておりましたが、ただの退魔の術だとお考えください。ど、どうぞよしなに」
(それだけがわたくしの異能ではありませんが、すべて開示することはできませんので、どうかご容赦くださいませ……!)
頭を下げた苺苺は、ぎゅっと目を瞑ってやり過ごす。
「そういうことだ。あやかしが再び現れない確証を得るまで、苺苺には妾のそばにいてもらう。紅玉宮は白蛇妃を歓迎し、貴賓としてもてなすように。いいな?」
「――御意」
それぞれの胸中に思う気持ちはあるが、事の次第を理解した女官たちは木蘭の命令に一斉に応じると、一糸乱れずに恭しく
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