第6話

 ノブの袂から縄が出てきた。


「いつも持ち歩いているの?」

「檻を抜け出すのに必要でな」


 ノブは悪びれなく笑うと、その縄を私の腰に回す。


「どうするの?」

「儂と帰蝶を繋ぐ」


 意味をはかりかね首を傾げる私に、ノブは背中に乗れという。

 言われるがままに従ってしまうのは、染み付いた癖のようなもの。


 ノブの背中に乗ると、ノブは私の腰に回した紐で、私とノブを固定した。


「帰蝶は目を閉じていた方がいいだろう」


 目を閉じて額をノブの背中に預ける。


「しっかり儂に掴まっておけ! よしっ」


 ノブの身体は屈強だった。柔らかさなど皆無で、肉が引き締まっている。

 目を閉じてしまったため、ノブが何をしているのか見ることは叶わないが、ノブはどうやら崖肌を伝いおりているようだった。


 しばらくして、どん、と振動が伝わる。


「下に付いたぞ。目を開けてみるか?」


 そっと目を開ける。目蓋の隙間に差し込む下界の光はおだやかで、爽やかな香りが鼻をくすぐる。


 縄を解かれ、ノブの背からおりる。


「魔物がおるか?」


 首を横に振る。


「もし魔物がおれば、儂が叩き切ってやるから安心せい」

「それは頼もしいわね」

「少し歩くが森を抜けよう」


 木々が鬱蒼と繁る森は薄暗い。


「怖いか?」

「ええ少し」


 大木などにはもしかすれば目や鼻や口があり、根は足のように動くかもしれない。奇妙な想像をして身体が強張る。


 ノブが固まる私の手を握る。大丈夫だと、私を安心させる微笑みに、肩の力がゆるむ。






 

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