第4話

「おい! 髪をおろせ」


 父の声だ。

 ノブが首をひねる。


「下からか?」

「父が帰ってきたのよ。ノブがいたら驚くかしら?」

「では隠れるか? 隠れるのは上手いぞ」

「おい! 寝てるのか! おい!」

「はい、今すぐにおろします」


 髪を崖下におろしながらノブを見ると、ノブは小屋の裏手に周り姿を隠した。


 髪の毛にずしりと重さが加わる。そして父はいつものように登って帰ってきた。


「お帰りなさい」

「声を掛けたらすぐに髪をおろせと何度も言ってるだろう」

「申し訳ございません」


 父が私の前を通る。臭い。酒の匂いがそうさせるのだと幼い頃に聞かされていたが、この匂いに慣れることはない。


「おい、儂は寝る。起こすなよ」

「はい」


 父は小屋に入ると音を立てて扉を閉めた。

 今日は手土産に花も肉もなかった。特段楽しみにしているわけではないが、何もないと分かると身体が重くなる。


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