次の目的地
◇
目が覚めてキャンピングカーから出た伊吹は、大きく深呼吸を始める。ひんやりした空気を鼻から肺いっぱいに取り込み、口から吐き出す。数回繰り返した後、両手を組んで上に伸びをした。鼻から吸った空気が草木の匂いがして、とても空気が澄んでいて気持ちよかった。ゆっくりキャンプ場を歩き大自然を堪能する。
生まれて初めて北海道に来たが、その北海道の旅も中間地点を超えた。すでに北海道で行う仕事は終えたと聞いたから、この後はどういう工程で本州へ渡るのだろうか。散歩のおかげですっかり目が覚めた伊吹はキャンピングカーに戻って、まだ寝ているビャクとナギを起こした。
「もう朝だぞ、起きろ。朝ごはんつくるからさ」
「もう少し、もう少し寝かせてぇー」
「うるさい、静かにしろ!」
「遅くまでタブレットを触ってたからだぞ。だから、早く寝ろって何度も言っただろうが」
そう言うと伊吹は、被っていたタオルケットを剥がす。ブルッと身震いしたビャクは剥がされたタオルケットを奪還すべく引っ張るも、普段のビャクは伊吹より力が弱いため奪い返すことが出来なかった。戦いに負けたビャクは、目をこすりながらキャンピングカーを降りて運転席へと行き、もう一眠りする。一方ナギは、運転席と助手席の間のふかふかのクッションの上で短い前脚と後脚を大の字に広げへそ天でイビキをかきながら寝ていた。その様子を見て、ため息を吐きながらベッドを片付けテーブルと椅子に組み替える。
昨日の帰りにスーパーで入手した今まで見たことがなかったコーンスープのパウチを温め始めた。パッケージに北海道限定と書いているのだが、それだけで美味しいのが確定だろうとニヤニヤする。目玉焼きとカリカリベーコン、ベビーリーフのサラダ、トーストにバターたっぷり塗って……と、朝食を準備していると前方から視線を感じた。視線の方向へ目をやると、鼻をヒクヒクさせたビャクとナギが凝視していた。さっきまで寝ていたのに、と細い目をしながら見るとバツの悪そうな顔をして、「あ、顔洗ってこようかな。ナギもいく?」と言い出した。
「そうだな、顔を洗ってこよう」
ビャクの言葉に賛同したナギが素早くビャクの肩に乗ると、運転席から降り水場へ向かった。その姿に苦笑いしながら朝食の最後の仕上げをするのだった。
◇
朝食を食べながら、気になっていたこれからの行程について質問をした。ビャクはナギを見ると、ナギが仕方が無いなぁという顔をしながら話し始めた。ルートはナギの領分らしい。
「次の目的地は秋田。だけど、せっかく北海道まで来たんだから、目的地には急ぎたいんだけど、ルートを大きく外れない範囲で細かい妖怪たちからの陳情書を片付けてく」
「あの黒いモヤ……淀みの浄化をしていくのか?」
いいや、と首を振る。
「浄化の話もあるかもしれないけど、ほとんどは雑用だな。力の弱いあやかしは、出来ることの範囲が限られる。そこで、力のあるビャクが助けるわけだ。落とし穴に落ちたから助けて欲しいとか、人間に見つかりづらい場所を探してくれとか、行方不明になった者を探して欲しいとかさ、こないだの行方不明になったあやかしなんて、人間の家に隠れてご飯を盗み食っていて出てこなかっただけだったんだけどさ」
ナギの話にそんなことでビャクを呼ぶのか、と驚いたが、あの時のコロポックルのアキがビャクに頼むんだと地脈に手紙を流してたのを思い出し、「あやかしのなんでも屋か」と呟いた。
「そうだな。なんでも屋。でも、全てを救えるわけじゃない、だから出来得る限りと伝えている。本来の目的は淀みの浄化だからな」
「そうなんだ。みんな困ってるから、ちょっとでも助けになればいいなって思ってて。本当は全国隈なく助けてあげたいんだけど」
「偉いな、ビャクは」
ワシワシと髪の毛を撫で回す。はたと気づいて手を止める。どうしたのか、と上目遣いで伊吹の顔を見るビャク。
「すまん。ビャクの方が年上なのに、気分悪くしたか?」
伊吹の言葉に一瞬キョトンとしたが、すぐに「悪くない。むしろ、伊吹の手大きくて温かくって好きだよ」と言う。
「おお、そうか……」
急に当たり前のように受け入れられ面を食らう。人差し指で眉間を掻いていると、「んっんっ!」とナギが咳払いする。
「ということでさ、ルートを外れないように依頼をこなしつつ、函館を目指すんだよ。で、津軽海峡をフェリーで青森に渡って本州に上陸するんだ。函館までは本来、旭川から高速使うと六時間らしいけど、旭川から下道で三日か四日かけて行くって感じかな」
「なるほどね。わかった。じゃあ、函館までの行く場所はナギとビャクに任せていいんだな」
「任せて。タブレットでご飯も調べることも出来るしね」
「じゃあ、食べ終わった事だし、片付けたら出発しようか。もしあれなら運転変わってもいいからな」
「ありがとー。その時はお願いするね」
伊吹は食べ終わった皿やカップを持って立ち上がった。
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