第43話

「ここに書いてあるものをホテルの部屋に届けさせてちょうだい」

 ホテルに戻る車内でシャロンはローレンスにメモを渡した。

 ローレンスはメモを読んで意外そうにした。

「かしこまりました。ですがこんなものなにに使うんですか?」

「子供でもできるちょっとした実験よ。あなたも一緒にする?」

「いえ。自分は仕事があるんで」

「城に閉じ込めた人達から文句を聞いて回るのね」

「仰るとおりです」

 ローレンスは運転しながら肩をすくめた。

 もうかなりの時間魔法使いと軍の関係者をあの古城に閉じ込めている。不平不満は多いだろう。癖の強い者達ばかりを相手にするんだ。ローレンスも気が重そうだった。

 するとシャロンがニコリと微笑んだ。

「たまには息抜きも必要だわ。一通ぐらいなら手紙を許可してもいいわよ」

「え? しかし――」

「ただしこう付け加えてちょうだい」

 シャロンが車内を見渡しながら続けて言うとローレンスは頷いた。

「分かりました。でも大丈夫ですか?」

「したくないならしないでいいわ。これはわたしからあなたへの善意だから」

 そう言うとシャロンが座席の間に手を入れ始めた。

「鉛筆が中に入っちゃったわ」

 私は取ろうとするとシャロンは手を引っこ抜いた。その手には鉛筆が握られている。

「取れた。小さい体もたまには便利ね」

 シャロンが笑うとホテルが見えてきた。どうやら今日も終わりが近づいているようだ。

 車がホテルの前に駐まるとホテルマンがシャロンの座る後部座席のドアを開けた。

 シャロンは「メモの物。今日中に頼むわよ」と言うと車から降りた。

 私はローレンスを「忙しいのに悪いな」と気遣った。

「これも仕事だ。あるだけマシだよ。お前も大変だな」

 私は車の外で私を待つシャロンをチラリと見た。

「まあ、そう悪くもない」

「……そうか。じゃあまた明日。言われた物はフロントに預けておくよ」

「ああ」

 私が車から降りるとローレンスは静かに走り去った。

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