第25話 デール暗躍
トテトテが俺をヘディングで打ち上げるのに飽きたことでようやく解放された。
「ひでえ目に合った」
「お疲れ様。デールもこれで少しは懲りると良いのだけど」
ユララが俺の汗を布で拭ってくれる。
「デールはいつもあんな感じなのか?」
「そうね。あたしが男の人と話してると、すぐにああやって突っかかっていくの。デールはベイカー商会の後継ぎでね。ユースラ領主の娘であるあたしと結婚すれば、ユースラと強力な結びつきが手に入る。あたしのことも一商品だと思ってるから、勝手に動くのが気に食わないんでしょうね」
いやあ、そういう感じでも無かったけどな。ユララのことが好きなのに空回ってるのだとしたら、気持ちが伝わってなくて気の毒になってくるな。
「婚約者なんだよな? さっきはちょっとデールに言い過ぎだったんじゃねえか?」
「うっ……仕方ないじゃない。デールがジンのことを悪く言うんだもの」
やっぱりそれで怒っていたのか。そんなことで婚約者と仲違いして欲しくはないが、俺のために怒ってくれたのなら叱ることもできない。
これ以上デールの恨みを買っても面倒だ。ちょうどよい機会だし、そろそろユースラを出るか。ユララにそのことを伝えようとして、変に緊張していることに気付いた。少しばかり別れが惜しいのかもな。
「明日、冒険者ギルドのルイザに挨拶したら、そのままユースラを出ようと思う」
「そう……」
ユララが沈んだ表情を見せる。明日で別れるというのに、そんな顔を見たくはない。俺は慌てて続きを言った。
「だからさ、今日の訓練は終わりにして、街で遊ぼうぜ。最後だしぱぁっとやろう」
ユララは真夏の青空のような笑顔を咲かせた。
「そう、そうねっ! それってとても素敵だわ! そうだ、最後の日ぐらい、あたしの家に泊まっていきなさいよっ。ユースラ家の屋敷にも温泉があるの!」
「うははっ。いいね」
早く行こうとユララが手を掴んで引っ張ってくる。
「まずはヂツノーペからだな。アレを食わなきゃ始まらねえ」
「ふふっ、ジン、すっかりハマったわね」
俺とユララは笑顔で街へと繰り出した。
*
ユースラの街を出てから西方面の森林の中で、デールの怒り声が響いた。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
めちゃくちゃに木剣を振り回す。魔力の込もった木剣が背の低い草木に当たって葉を散らせた。デールはストレスが溜まった時はよくこうやって発散させていた。いつもはこうしているとそのうち気が晴れるのだが、今回は全然ダメだ。魔物でも出てくれば憂さ晴らしに討伐してやるのだが。
「ユララ、どうして……ユララッ!」
一目惚れだった。あの青く透き通るような瞳に惹き込まれた。だから大商人である父に頼んで、強引な手段を使ってどうにか婚約者にして貰ったのだ。デールが商人でありながらレベルを上げているのも、ユララが勇者パーティに憧れていると知ったからだ。強くなれば、振り向いてくれるかもしれないと思った。
なのにユララはちっともデールを見ようとしない。言うことを聞こうとしない。挙句の果てに、ぽっと出の旅人と仲良く喋っている。ユララがユツドーと楽しそうに話している姿を思い出して、デールは怒り心頭で地団駄を踏んだ。
「僕が、僕が先に好きだったんだぞ!」
どうにか、どうにかしなくてはならない。ユララの前からユツドーの存在を消さなくてはならない。そうだ、いっそのこと。
「殺してやろうか……」
ポツリと呟いてから、慌てて首を振った。流石に人を殺してしまったら、父のコネがあっても揉み消すことはできない。どうしたものかと考えていると、物陰から声をかけられた。
「ギギギ、お聞きしましたよ、坊っちゃん。あっしでよけりゃあ協力しますよ」
木々の隙間に、子供のように小柄な男が立っていた。ボロのフードを被っており、仮面も被っていることもあって顔も体つきも分からない。
「誰だ?」
「あっしはギャラゴ。魔物使いでさあ」
ギャラゴの後ろから、ホワイトウルフが出てくる。ホワイトウルフはギャラゴに懐いてるかのように身体を擦りつけた。
「坊っちゃん、殺したい相手がいるんでしょ? あっしの魔物が街に入れるように手引きしてくれりゃあ、そいつを殺してやっても良いですぜ」
悪くないかもしれない、とデールは思った。デールの手下を使えば足が付く可能性があるが、魔物でユツドーを殺せば絶対にバレない。
「ギャラゴ、だったか? 報酬はいくらだ? 街に入れる手引きというのは、入街料を払えば良いのか?」
「ギギギ、一万エルニケダラーで引き受けやしょう。あとあっしはお尋ね者でしてね、正規の手段では街に入れやせん」
「払おう。街へ入れるのもどうにかなると思う。一部の貴族や商人しか知らない抜け道があるんだ」
「ギギギ、商談成立ですな」
ギャラゴが高額の報酬を要求してきたことで、デールは逆に安心できた。こういう金で動く連中は信念で動く奴よりも信用できる。デールは昏い笑みを浮かべた。
「ユララは僕の物だ。絶対に誰にも渡さないぞ」
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