最低級の探索者 幻のダンジョンを制覇し無敵の人と化す
カイガ
「僕が生きている“今”」
僕は
見た目はパッとしない顔、ややボサボサの黒髪で細身の、どこにでもいるような冴えない男子高校生。自分でこんなこと言うのは気が引けるが。
そんな僕だが、実は探索者をやっている。とはいえ、その実力は国内でも下の下といっていいレベルで、とにかく弱い。
どれくらい弱いかって言うと、探索エリアのみに棲息する害獣…魔物の中で最も弱いとされてるE級の魔物の討伐すら手こずってしまうくらいに弱い。戦闘面での基礎能力値がかなり低く、スキルも全然無い。
なので未だに単独で初級者向けの森エリアや洞窟エリアの深部にすら進むことが出来ずにいる。
所属している探索者ギルドでは「最底級の探索者」だの「底辺弱者」だのと不名誉な烙印を押され、どの同業者たちからも馬鹿にされている。
僕には、友達はおろか、一緒に暮らす家族すらいない。二年前に両親を事故で亡くして以降、二人の遺産金と保険金で細々と暮らしている。
親族からは非情にも僕を引き取ることを拒否されたうえ、援助金などの仕送りすらしてくれない。なので日々の生活と将来の為にも学校に通いながらも探索者業と一般のアルバイトで生活費と学費を稼ぎ、どうにか日々を生きている。
アルバイトだけの収入だと、高校卒業までに大学に入る為の学費を用意するのは無理だ。今の時代、高卒を雇ってくれるところは全然無いだろうし、あったとしても今と変わらない賃金しかもらえないのが目に見えてる。
僕に探索者としての才能と実力がそれなりにあれば、掛け持ちなんてせずに済んだのだろうけど、現実は厳しく非情なもので、全く思い通りにならない。
将来今よりもマシな生活をする為にも、大学でも勉強してちゃんと卒業して、まともなところに就職しないといけない。
探索者としての実力も才能も無い僕が幸せな人生を送るには、そうするしかないと思うから。就職したら探索者を辞めて良いように、色々布石はうっておきたい。
だから今は、大学に行く為に、辛く苦しいだけの探索者もやっている。
戦いの才能は無いし、戦闘術の覚えも悪いし、おまけに運も無い。
それでも僕は高校生の期間だけでも、探索者を続ける。どれだけ能力が低くても将来性が無くても、今は耐え忍んで続ける。辞めるのは大学に進学してからでいい。
生前の父と母は僕にこう言ってくれた――
「今を生きなさい。生きる意味に特別なんて求めなくていい。些細なもの、しょうもないもので良い。生きる意味なんて自分でテキトーにつくるものだよ」
二人は優しかった。僕が探索者になりたいと言った時、二人は笑って背中を押してくれた。好きなようにやってみなさいって言ってくれた。周りと比べてそんな裕福な家庭ではなかったけど、僕にとって三人一緒だったあの日々は、かけがえのない財産だ。
二人が自分の親だったことが幸せだった。誇らしかった。
だから、そんな大好きだった二人の分まで、僕は今を生きるようにしている。
その今が、どれだけ辛く苦しいものでも、僕は――今―――を――――――――
「おいおい、どこのドブ臭い探索者かと思えば、万年最低級の霧雨くんじゃないかぁ~~~」
ある週の土曜日。初心者向けの探索エリアである森林にて薬草を採取していると、馬鹿にしたような声が僕の耳朶を叩いた。その声には憶えがあるし、聞きたくもないものだ。だから僕は内心でため息をついた。
「まーだこんなEランクエリアの、しかもこーんな浅い森で道草を食ってんのか?」
咲哉の前に現れるなりニヤニヤと陰湿で粘ついた笑みで話しかけてきた金髪眼鏡の男は、
国内探索者ランキング150位の上位ランカーである彼が、このような初心者向けのエリアに用があるとは思えない。目的は質の悪いことに、僕を馬鹿にしにきたのだろう。
毎度のことで、よく飽きないものだ。
「今日はそんなところで何やってんだよ」
この手の者を無視したらロクなことにならないだろうし、仕方なく話に応じておこう。暴力を振るわれようものなら、底辺弱者の僕が上位ランカーである彼に敵うはずもないし。
「今日はこの辺でE級モンスターの駆除をしてました。そして空いた時間で、薬草の採取をやっているところです」
「ハッ、今時薬草って!探索者ギルド提携の店に行けば回復ポーションをいくらでも買えるのにぃ!つーかお前、今日はいつからここに潜ってたんだよ?」
「朝からですけど…」
「ぶはっ、今は午後四時だっけ?半日以上もよくこんなところに浸れるなぁ!?もうお前、ここに引っ越したらどうよ?」
長下部はわざと大きな声で僕を馬鹿にして、仲間同士でゲラゲラ嘲笑う。この男は僕を見かけるといつもこうやって馬鹿にした言動をぶつけてくる。
しかも今日に至ってはわざわざ寄り道してまでこんなことを……。こんな路傍の石扱いされてる僕をいちいち貶す意味は何なのか。よっぽど暇なのか。いずれにしろ僕に悪意を以て接してきてるのだけは確かだ。
自分より下の人間を見下して貶して嗤うことがよっぽど好きらしい。もう何度もやられてるから毎度のことだと思ってるが、やっぱり嫌なものは嫌だ。
「採取に集中したいので、用が無いなら放っておいてくれませんか?」
思わず突き放すことを口に出してしまった。
「あ?最低級が生意気な口叩いてんじゃねーぞ?」
長下部はそれまで陰湿で粘ついた笑みを引っ込め、機嫌を損ねだす。そしてずかずかと僕に近づいて、摘み取った薬草の入ったリュックを蹴とばした。せっかく集めた薬草が地面に散らばってしまう。
長下部の嫌がらせはさらに続き、泥がついた靴で薬草を踏みにじった。仲間たちも面白がって真似した。
「やめてください!」
「うるせぇ!最低級のド底辺が、俺に口ごたえするな!」
止めようとしたら、長下部に殴りとばされた。殴られた拍子に腰のポーチから今日頑張って討伐したコボルトの耳と尻尾が出てくる。
「ハッ、半日以上もここにこもってて、狩れたのはコボルト3匹だけかよ!」
ギルドに買い取ってもらう予定のコボルトの剥ぎ取り素材に、唾を吐き捨てられる。
「おまけにお前の装備ときたら……ぷっ、何だよそのちんけな剣と盾は?お前本当に探索者業やる気あるの?」
僕が装備している剣は中古で購入した安物。盾に至っては木材から自分でつくったものだ。探索者を始めてからずっとこれらしか使っておらず、年季が入ってぼろく見える。
「お前みたいなカスが探索者やって、何の意味があんだよ?前から思ってたけどお前目障りなんだよ。さっさと引退して、街のドブさらいでもやってろよ――」
そう言って泥のついた靴で僕を踏みつけようとしたその時、
「何をやってるんですか?」
可愛らしいも凛とした女の子の声が、長下部の追撃を止めた。僕らが振り向くとピンクの色素が目立つショートボブヘアの女の子が立っていた。
彼女はたしか、
「や、やあ!詩葉ちゃんじゃないか!今日も可愛くて美しい――」
「上位ランカーで有名な長下部さんですよね。そんなあなたがお仲間を連れて、最低級の彼に何をやっていたんですか?」
牧瀬さんは非難の視線で長下部に問い詰める。
「え、と……これは………えーと」
「不当な暴力や陰湿な嫌がらせは、見ていて気持ちの良いものじゃありません。というか本当にそんな事をしていたのでしたら、この後ギルドにそういうことがありましたと、報告しますが?」
牧瀬さんのプレッシャーに長下部たちはたじろぐ。
「そ、そんなことするわけないじゃないかー!同じギルドに所属の万年底辺を這いずって苦労している後輩に、労いの言葉をかけてやっていただけさ!さて、今日は疲れてるからもう帰るとするよ!
詩葉ちゃん、そのうち俺とどこか遊びに行こうよ!何なら君の配信にも共演してみたいな~~なんて!あはははははー」
長下部は取り繕った笑顔で、仲間を連れてこの場から去って行った。
「………はぁ」
牧瀬さんはため息をつくと、泥で汚れた僕に視線を寄越してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます