破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます

時岡継美

第1話 悪役令嬢ドリス・エーレンベルク①

 いつもの朝支度。ドレッサーの前でメイドに髪をとかしてもらっていた時だった。

 頭の中に突然不思議な光景が流れ込んでくる。

 

 長方形のなにかを手に持ち、それを猫背で食い入るように見つめる黒髪の女性の後ろ姿。

 いや、知っている。

 これはスマートフォンで、この人はいまゲームをしているんだ……。


 スマートフォン? ゲーム?


 その女性が顔を上げて振り返る。

 これは――わたし!?

 

「ドリスお嬢様、どうかなさいましたか?」

 髪を結っているメイドの声で、意識を引き戻される。

 手を止めて鏡越しに心配そうな顔で見つめてくるのは、メイドのハンナだ。


 視線を鏡に映る自分の顔に戻せば、そこには14歳のわたしがいる。

 父親譲りの艶やかな黒髪と紫紺の目、母親譲りの端整な顔立ちのドリス・エーレンベルク伯爵令嬢。


 ――――!

 ドリス・エーレンベルクですって!?

 

 動揺のあまり上半身がグラっと傾いだ。そのまま椅子から滑り落ち、膝をついて絨毯にうずくまる。

「ドリスお嬢様! 大丈夫ですか!?」

 ハンナが驚いて大声をあげる。

 

 やめて……その名前で呼ばないで……!

 両手で耳を塞いで首を横に振った。


 黒髪で紫紺の目を持つドリス・エーレンベルク。

 それは、前世で遊んでいた乙女ゲーム『遥かなる茜空』に登場する悪役令嬢キャラの名前だ。


 この日わたしは前世の記憶を思い出すとともに、ここがゲームの世界であることを知った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る