第19話『どこもかしこも異常事態』
「でもさ、よくよく考えてみたら私たちってモンスターと積極的に戦わなくてもいいんじゃない?」
ある程度情報を検索終えた一行は、下の階層に繋がる階段に辿り着いた。
「なるほど、それはたしかにそうかも」
「どういうことー?」
「
「大正解。私たちが無理に動いてわざわざ危険を冒すより、特典みたいな割引があるから、節約していけば数週間ぐらいは大丈夫なんじゃない? 最悪、街でアルバイトとか探してもよさそうだし」
「ほほ~、なるほどなるほど。それはたしかにそうかも」
3人が意見を交換している内容は至って正常なものである。
しかし、少し違った事情を抱えているから複雑な心境を抱く。
(本当にその通りだ。だが、俺はいつ来るかわからないモンスターに対して準備を整えなければならない。自分自身を短期間で飛躍的に成長させることは……できないから、少なくとももう1本の武器を手に入れておきたいが……)
では、その独り善がりな願望のために仲間を連れ回すような真似をしてよいのか。
否。
(いっそのこと、話の乗ってみんなと別行動をするタイミングを見計らって1人でダンジョンの先に行った方がいいんじゃないか? それか、口止めをされているのを無視してある程度のことを打ち明けてしまってもいいんじゃないか? どうせ、こんな場所で受付嬢が話を聴いているわけでもないし)
和昌は様々な葛藤が渦巻く中、芹那が話を続ける。
「でも、パーティの目標として掲げていることを達成しないで時間を浪費するのは、ちょっと違うよね」
「だね~っ。目標を探しながら、目標を達成していくんだもんねっ」
「それに、ゲーマーたるもの挑戦せずに諦めるのは気持ちが悪すぎるし。やってみてから考えたっていいからね」
「わっかるー。私、試行錯誤するの大好きなの。特に、攻略難易度が高ければ高いほど」
「同じく」
「ねえねえ、また私だけ蚊帳の外に追いやろうとしてない? 私、まだストーリーゲームとかしかやったことないよ」
「……なあ、本当にいいのか?」
「俺のわがままに付き合ってもらって」という言葉は、気を遣わせてしまうからと思い、心の中に留め。
「そりゃあ、ね。さすがにどうやっても無理そうだったら諦めるしかないけど、無理かどうかはやってみないとわからないから」
「うんうんっ。私、頑張るよー! モンスターが多いんだったら、今まで以上に頑張ればなんとかなるだろうし!」
「
「みんな……ありがとう」
みんなの想いを受け取り、和昌はつい目頭が熱くなってしまった。
そして、それと同じくして隠しごとをしているだけではなく、これから起こるであろう災害について黙っていることが罪悪感として全身に重くのしかかってきてしまう。
「まあそれにっていうか、そもそもの話。ヤバい状況を打開できる人間が居るのに、挑戦しないのはもったいないよねって話でもあるからね」
「そうそう。さっき話をした受付嬢は装備のことを知らないみたいだったけど、地上の受付嬢からはお墨付きなんだからうちの奥の手は」
「しかも2個も! 全部頼っちゃうわけじゃないけど、頼りにしてるよ~リーダー」
「お、おう。期待に応えられるよう、そしてみんなを護れるよう頑張るから」
一致団結したところで、和昌は手袋に緩みがないかを確認。
「よし、行こう」
和昌の合図の後3人は抜刀し、和昌を先頭に階段を降りて行く。
階段を降りきり、未踏の地――第13階層に足を踏み入れた。
すると。
「うげっ」
和昌は、何を気にするわけでもなく驚愕を露にする。
それにつられて、というわけではないが、3人も大体似ている反応を示した。
「こんな状況になっているなんて……」
一瞥しただけでそう呟いてしまうぐらいには、モンスターの数がいつもの風景とは異なり過ぎていた。
「ねえ、パッと見ただけでも20体ぐらい居るんじゃない?」
「モンスターがうじゃうじゃだね」
「通路付近でこれぐらいだったら、この階層を突破する頃には50体なんてあっという間だと思う」
「13階層を突破しても、まだ14階層がある。目的階層である15階層へ辿り着いたとしても、この数のモンスターをかいくぐって
「これを見た後に、それを達成条件って考えるとなんとも言えない感情になっちゃうわね」
「でもでも、モンスターの数が凄いけど
探査策者連盟支部に設置してある、パソコンで情報を検索して手に入れた情報だ。
珍しい鑛石ではあるが、丁寧に解像度の高い写真まで掲載されており、特徴まで記載されていた。
「ただ、あるかないかは運次第って話だったけどな」
ゆえに、魂紅透石は光が微かに漏れ出ているのに対し、窟蒼透石はダンジョンの生命が漏れ出しているかのように光を放っているように眩しい。
完全に解明されてはいないが、どうやら、モンスターはなんらかの感情か思惑かはわからないが窟蒼透石を破壊してしまう。
だから、人知れずに生成されていても、人知れずに粉々になってしまっていることが珍しくない。
「あっ、あそこで戦っている人たちが居るね」
「本当だ。なら、俺たちも便乗させてもらって戦ってみるか」
「片側だけ気にすればいいから、試すなら今がベストかもね」
「私も賛成。ちなみに、どうせなら配信でもしちゃう?」
「んー……面白い絵にはなるだろうけど、やめておこう。今は戦いだけに集中ってことで」
幸いにも、見渡す限りは初見のモンスターの姿は確認できない。
「よし、行くぞ」
標的定め、4人は走り出した。
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