第11話『ダンジョンでの異変を体感する』

 ダンジョン序層――第2階層。

 ここでもダンジョン第1階層と出現するモンスターの種類はそう変わらない。

 しかし少しだけ変わってくるのは、自らの意思で動き回るモンスターが出現すること


「ねえ思ったんだけど、カズの盾って形状変化ができるのよね?」

「ああ、こんな感じに」


 カズアキは、セリナからの問いに自らの朱護の盾ヴァーミリオン・プロテクトシールドが形状変化している様をみせる。


「無限にってわけじゃないと思うんだけど、前の方を剣みたいにできないのかなーって」

「ほほう」

「たぶん今って、盾で攻撃をするって考えだから流れ的に超近距離戦になっているわけじゃん? じゃあ、そもそものリーチを伸ばしちゃえば体力の消耗を替わってくるんじゃないかなって思って」

「――こんな感じ?」

「おお」


 ひし形の左右後ろはそのままに、前部分だけ剣が生えてきたみたいに形状を変化させる。


 しかし見た目はかなり歪なもので、盾を剣にしているというよりは、盾に剣が刺さっているような見た目になってしまっていた。


「なんだか凄い事になってるね。なんだか剣として引き抜けそう」

「それ私も思った! だけど、触ったら危なそうだから近づかいよ!」

「厄介者みたいな目で見ないでくれよ」


 マアヤとソラノはカズアキからそろりそろりと後退していく……だけではなく、セリナまでも同じく距離をとり始めていた。


「おい」

「だってさ、その盾に触れた剣がポッキりと折れてたじゃん。そんでもって、それで戦うってことはつまりはそういうことでしょ」

「……たしかにな。形状を変化させて武器みたいにしたところで、それを振り回しているようじゃ周りが危ないもんな」

「そういうことよ」


 カズアキは、シールドのような武器のような形状が少しだけ気に入っていた。

 しかし、志半ばで折れてしまった武器を思い出し、いろいろと悪い方向へと物事を考えてしまう。


「これで回転斬りとかしたら強そうなんだけどな」

「それをやるんだったら、間違いなく1人の時ね」

「私もそれやってみたい!」

「マアヤがやるのは絶対にダメだからね」

「えー、やってみたいよー」

「どうなるかわからないんだから、ダメったらダメ」


 ソラノは、地団駄を踏んでいるマアヤの願いを断固拒否している。当然、カズアキもセリナも同意見で合った。


[わちゃわちゃしてる感じで見てみたい感じはあるけど、ヤバそうでしかない]

[というか、もう1本の剣が折れちゃったのか;;]

[大回転しようぜ!]


 視聴者もそれぞれのコメントを残す中、カズアキは気になるコメントを発見した。


「な、なんだと」

「ん? どうかしたの?」

「マアヤの意見、もしかしたら別の方向に持っていけるかも」


 コメントの中にあったのは、[シールドガントレットとして使用するのもありだけど、カイトシールドって選択肢は?]というものだった。


 カイトシールド――とは、よくゲームに出てくる装備。

 形状はアーモンド形や丸みを帯びた三角形などがあり、基本的には騎兵が用いる縦長の盾だ。

 ゲームで登場する際もそのような感じになってはいるが、あえて歩兵で装備することによってカッコいいものになる。


「ロマンだ」

「気になる気になる」

「たしか、こんな感じだったな」


 カズアキは、始めに左側をアーモンド形にシールドを変形させ、上部をあえて平らにした。


「カイトシールドだ」

「なかなかいいセンスしてるね」

「ヤバい、かっこいい。ヤバい」

「記憶があれば、大きさに制限はあるけど形状変化できるってことなんだ。凄いね」

「てか、そこまできたら盾という防具っていうよりは、盾という武器って感じでしかないよね。実際に攻撃できちゃっているわけだし」

「言われてみたらそうだな」

「でも、断言できないのは両手を合わせた時にできる円形の結界よね」

「あれさ、攻撃はできなくなるけど実質的に無敵じゃない? 反動とかってないの?」


 ソラノは、ゲームのレア装備あるあるの話を持ち出す。


「強い装備には、それ相応の対価を。っていうのがゲームとかの定番だよな。まあ、今のところは全くないな」

「そうなってくると、剣もそうだよね。あんなにすっごい攻撃をしているのに、カズくんは一度も倒れたりしてないもんね」

「それもそうだ。長期で使用しないとわからないって言おうとしたけど、少なくとも能力を使用する時は高負荷ばかりだったのに、どうなんだろうな」

「もしかして寿命を削られているとか!」

「おいセリナ、冗談だったとしても言って良いことと悪いことってものがあるだろ」

「ごめんごめん」


[なんだろうなぁ~反動系じゃなかったら、不運が訪れる的な?]

[知らず知らずのうちにモンスターを引き寄せいている、とか?]

[絶対にスケベな展開にならない呪いとか!]

[実はお金がこっそりとなくなっているとか]

[誰かから告白されそうになったら、絶対聴こえなかったり邪魔が入る呪いとかいいんじゃない?]


「おいおい、さすがはこの配信を観ている視聴者達だ。考察するターンになった瞬間、コメントの量がいつもより圧倒的に多くなっている」


[どう考えてもハーレム展開なのに、ハーレムな要素が阻害される呪い]

[パーティに男が入ってほしいのに、かわいい女の子しか入ってこない呪い]

[能力を最大限発揮するためには女の子が居ないとダメとか]

[能力を使用していくと、徐々にその能力が減少していくとか]

[剣は刃こぼれしていったら能力が低下していって、盾の方は手袋がボロボロになっていくと能力が低下していくとか?]


「中にはいい感じの考察があるのに、どうして半数以上が女の子関連なんだ」


 カズアキは、視聴者へ冷たい目線を送る。


[まあまあ、かわいい子達がパーティに居るんだからしょうがないって]

[英雄色を好むって言うでしょ? それだよそれ]

[セクハラ発言が続くと、怒られるぞ! 気を付けろ!]


「視聴者の皆さん、そう言ったコメントが続く場合――すぐに配信を辞めますので」


[ごめんなさい]

[すみませんでした]

[ほらw]


 カズアキは鼻から短く息を漏らし、話題を戻す。


「この感じで盾を使えるんだったら、左手に盾、右手に剣って感じで戦うのもありだな。大分恐怖心が薄れる」

「何それかっこよ。じゃあ私に右の手袋を貸してよ」

「セリナ、欲張るな。この中では俺が一番の初心者なんだぞ」

「ケチ」


 セリナは不貞腐れてそっぽを向いてしまう。


「でもさ、私もそれ憧れてたやつ。自分でやりたいって思わないけど、1度だけでも近くで見てみたいって思ってた」

「だよなだよな、俺もそうだったんだけどさ、いざやってみるとワクワクが止まらないんだよ」

「わかるわかる。私も今、同じ感情を抱いているから」


 カズアキとセリナは興奮のあまり、互いに前のめりで話が盛り上がる。


「もーう! ゲームやったから、やっとみんなと共通の話題に入れると思ったのにーっ! 全然わからなーい!」


 それもそう、マアヤがやっていたゲームは恋愛趣味レーション。と、少しだけ別のアドベンチャーゲーム。

 あれやこれやといろいろな種類の装備が出てくるようなゲームは未プレイだった。


「そういうのが出てくるゲームをやってみたい!」

「また今度ね」

「むぅー!」


[悔しそうに頬っぺた膨らませているのかわいい]

[優勝]

[マアヤちゃんはあんまりゲームとかやってないんだね]


「じゃあ今度は――」


 ダンジョンが、わずかに揺れた。


[ん? 今、揺れた?]

[どうしたどうした]

[え? どこも揺れてなくない?]


 たしかに、ダンジョンは揺れた。


 とある視聴者が気が付いたのは、カズアキ達が少しだけ揃ってフラッと体が揺れたから。

 とある視聴者が気が付かなかったのは、地上では速報などはなく、自身も体感していないから。


「揺れた……気がするけど、気のせい?」

「どうなんだろ」

「あんまり気にしなくていいんじゃなーい?」

「そうだな。別に何があるってわけじゃないし」


 と、カズアキは平静を装う。

 しかし、受付嬢の言葉を揺れるたびに思い出してしまう。


(そういえば、どことなくだけどモンスターの数が多いような気がする。普段だったら何も気にすることはないけど、あの話を聴いちゃうと意識しないわけにはいかないよな)


 この揺れが、今度とも起きる。そして、モンスターの数が増えていく。そして、いつの日にか来る命令によって討伐しなければならないボスモンスターの出現。


(今回は他の人も居るって話だから、そこまで緊張して身構えている必要はないらしいけど……少なくとも1体は俺が倒さないといけないかもしれないんだよな。本当にできるのかよ。ボスって存在すら、たったの1度もお目にかかったことがないっていうのに)


 だけどそればかりを考えてはいられない。


「よし。まだまだ改良の余地はありそうだから、やれるだけやってみよう。お金も稼ぎたいし」


 カズアキは3人の返事を待たず、不安を払拭するかのように、あれだけ使用することを悩みに悩んでいた叶化の剣エテレイン・ソードを抜刀した。

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