第9話『お泊り会でもやることはしっかりと』

「これがゲーム……凄い、楽しい。続きを早くやりたい」


 気が付けばあっという間に時間が経過し、みんなで晩御飯を食べている。


 真綾まあやは数時間を通し、芹那せりながゲームの補足などをしてくれていたおかげですっかり虜になってしまっていた。


「とりあえずご飯を食べてる時はダメだからね」

天乃そらのの意地悪」

「まあまあ、ご飯を食べながら進める話もあるんだし、そっちを始めよう」


 昼ご飯を作っている最中、天乃から提案があった。

「たぶんこのままだと、ご飯を食べている時以外はずっとゲームの話になると思う」、だから「タイミングを見計らって今後の方針について話をしちゃわない?」と。


 その提案通り、真綾はゲームにどっぷりとハマってしまった。

 だけどその提案があったからこそ、昼食時に少しだけ話をすることができた。


「お昼の続きだけど、彩華の紅務店で貰って来た情報通りに素材を集めるなら、第15階層まで進まなくちゃいけない」

「正直な話、このメンバーだけで15階層まで進むっていうのは難しいんじゃないかな」

「ん~、どうなんだろう? 最近は連携力も高まってきているし、何よりも和昌かずあきくんの装備があるから大丈夫じゃない?」

「私もそう思う。だけど、新しい剣を急いで手に入れる必要があるのかっていう話でもあるんじゃない? カズにはその剣と盾があるわけだし」

「そこが迷いどころなんだよな。この剣は、普通に武器としても優秀だし、あの力だってある。危険な状況になったとしても、力で解決できるとは思う」


 和昌の意見に、3人は納得する。というより、たった数日だけでも力を目の当たりにしているから納得するしかない。


「ここで俺の頭を悩ませているのが、この武器の価値」

「あ~、たしかに。それを考えると、少しでも使わない時間があると安心ではあるよね~」

「100億って値段はいつになっても実感が沸かないけど、もしも自分が和昌の立場だったら怖すぎるもん」

「それは本当にそう。絶対に『ちょっとこれを持っててよ』とか言われても絶対に持ちたくない」

「おい、言いたいことはわかるけど俺は疫病神じゃないんだぞ」


 と、和昌は疎外感を覚えて反論するものの、3人は依然として意見を変えることはない。


「まあ、本当にその気持ちは痛いほどわかるから何とも言えない」

「プラスに考えよーう! まだまだ序盤のタイミングで装備を試すことができて、しかも100億円の剣を折らなくて済んだ! ってことで」

「うっ……もしも俺がとんでのなく頭が悪かったり、タイミングが合わなかったりしていたら……今頃は100億円の剣が折れていたんだな……」


 サーッと血の気が引いていくのを感じる和昌は、それを想像してしまい恐怖心を抱いてしまう。


「どっちにしても、今の和昌には新しい戦い方も見出すことができたんだからいいんじゃない?」

「そう、それなんだよ。盾で戦うっていうのを、どうやって活用していこうかって話なんだよ」

「ほうほう。見ている感じ、武器のリーチを活かして戦えないから難しそうだったけど」

「そうなんだよなぁ。正直に言うけど、俺はモンスター相手にビビっている節がある。さすがに逃げ出すほどじゃないけど、同じモンスターと戦っているのに疲労度が雲泥の差だった」

「戦い方が全然違うだけじゃなくて、見えていた景色も一気に変わっちゃうもんね。しかも、判断を間違えば回避が間に合わないから気も張り続けるし」

「そう、本当にそれなんだよ。こればっかりはさすがに慣れていくしかないんだろうけどさ」


 和昌は武器や防具を使用して戦っている、というより、もはや拳でモンスターと戦闘している感覚を覚えていた。

 それを傍から見ていた3人も、また同じく。


「良かったよね、少しでもトレーニングを続けていて」

「ああ、そうだな」

「やっぱりそうなんだ。なんだかちょっと不思議だったんだよね。部活動とかで運動部だったのかなって勝手に予想してたの」

真綾まあやもそう思ってたの? 私も全く同じことを思ってた」

「え、俺ってそんなにひ弱そうに見えてたの?」

「そういうわけじゃないんだけど、私達が探索者になり立ての時なんて全然動けなかったんだよ。一日にダンジョンで動ける時間も午前中と午後で合わせて1時間ぐらいだったし」

「懐かしいねぇ~。天乃そらのも私も、ずーっと息が乱れちゃってたよね」


 そのエピソードを耳にして、和昌は自身のことを振り返る。


 言われてみれば、和昌は【スライム】を配布剣で普通に討伐していた。

 その時は息も上がらず、緊張感のあるゲーム感覚で【スライム】と戦っていたわけだけど……あの件があって、もはや普通の人が歩む道を進んでいないことを思い出す。


「何事も基礎が大事ってことだよなぁ」

「でも逆に考えたら基礎がないからこそ、特殊すぎる剣と盾を上手く使えるようになっていくんじゃないかな」

「それはあるかも。ゲームとかでもそうだけど、似たようなシステムとかになってくると固定観念に囚われるっていうか、最初は説明書を読んでいたけど徐々に読まなくなっていくようなあの感覚に似ているんじゃないかな」

「基本の型ができていないからこそ、特殊な型を最初から知識と経験として取り入れることでそれが基本となるってことか」

「たぶん、ね」


 和昌かずあき天乃そらの芹那せりなは、身に覚えがあり過ぎることですぐに理解してしまう。


「むぅ、私はわからない。私、今のストーリーゲームが終わったら、みんなが話している内容を少しでも理解できるようになるゲームがやりたい」

「いいけど、大変だと思うよ?」

「せっかくの機会だからやってみたい!」

「はい、わかりました」


 物凄い前のめりな真綾まあやの願望を断れるほど、和昌は心を鬼にできなかった。


「話を戻そう。じゃあ、方針的にはこのままいろいろな経験を積む。そしたら頃合いを見計らって挑戦してみる。ってことで良さそうかな?」

「うんうんっ、オッケー!」

「それでいいんじゃないかな。別にボス部屋に挑戦するってわけでもないんだし」

「私はお金に困らないような感じでいければ問題なしかな」

「じゃあ決まりで」


 話の終わりに合わせていたわけではないが、全員の皿が空になっていた。


「じゃあ、夜もゲームとかあれやこれやといきますか」

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