第4話『ダンジョン災害の恐ろしさが脳裏を過る』
「とっても今更なんだけど、ダンジョンの中にも安全地帯があるって知ってる?」
「初耳」
「あれよ、ゲームとかで観るあれよ」
「あーなるほど」
「もうっ! 私が事細かく説明しようと思ってたのにー。どうしてそんなに物分かりが良すぎるわけ? ゲームって凄すぎない?」
「それこそ、今更ながらに今の活動ってゲームの知識が存分に生かされてるよな」
「ずーるーいー」
不貞腐れた真綾は、大きなパンケーキをパンパンに膨れるぐらいまで頬張る。
「本当にそのままだよ。普通に家が建ってるし、そこで生活している人も居る」
「いろいろな場所があるんだよ。上下だけじゃなく、横にも別れたりしてる」
「ほえー。それだけの情報でワクワクしてくるな」
「レア装備が活用されているおかげで、物資の移動が楽にできるらしいのよ」
「すげえ、俺の装備みたいなものだけじゃないんだな」
「私は見た事ないけどね」
「ちなみに、私もダンジョンの街っていうのは直接見たことないよ」
「わはひも」
「同じく」
「その街って、ダンジョンでいうところの何階層にあるの?」
「どうだったかな。そこら辺は受付嬢に聴いた方が良いかもね」
若干、和昌は受付嬢との会話を避けたい気分になってしまった。
特に嫌っているというわけではないが、彼女と話をする時は何かしらの悪い事が起きそうな気分になってしまうからだ。
もはや、こうして普通の生活を送っていてる今でさえ、連日の受付嬢から寄せられる連絡を警戒するようになっていた。
「じゃあさ、そこまで便利になっているなら『転送』とかってないの? エレベーターとかそういうやつとか」
「どうなんだろうね。もしかしたらあるかもしれないけど、私は知らないかな」
「たしかにね。わからないけど、だったらもう見つけてそうだけど」
「それもそうか」
和昌は、一瞬だけ心が躍った。
ゲームの世界では、逆にエレベーターなどはないにしても、転送や転移といったファンタジー要素溢れるものを期待していたからだ。
誰もが一度は思う、もしもこれが現実の世界で使えたのならシリーズの1つとして。
「それにしてもロマン溢れるよね、レア装備って」
「俺も当事者ながらにそう思うよだって――ん?」
「揺れた?」
そこまで大きいものではない。
現に、店内ではこれといって揺れに対して騒ぎが起きているわけでもないし、従業員もいつも通りに料理を各テーブルへ運んでいる。
自身があった事を気が付く人間の方が少ないようなもの。
「いやぁ、地震だけはいつになっても慣れないよねぇ」
「ね」
真綾と天乃はため息を零している。
しかし和昌は、手に持つスプーンの手が止まってしまう。
なぜなら、誰もが不定期に訪れる地震に対してそこまで重要視していないのに対し、つい少し前に受付嬢からの連絡があったから。
これが、忠告を受けていた"ダンジョン災害"というものに関係しているのかは判断がつかない。
でも、背中に嫌な汗が流れるには十分すぎた。
つい数日前に、初めて成し遂げた【モータル・インデックス】に載った人間の任務が鮮明に蘇ってくる。
初めて迫られた、人を殺めてしまう可能性。仲間の命が標的になってしまった恐怖。それらが、今の平和なやりとりのせいで、余計に意識してしまう。
「カズ、どうかしたの?」
「いや……甘い物って、体を動かした後にはちょうどいいよなーって思ってさ」
「何それ」
「前までは考えたことがなかったけど、俺って実は甘い物が好きなのかも」
「なななんとっ! 和昌くんも仲間ということ!?」
(あ、咄嗟に誤魔化そうと言ったのに。選択肢をミスったな)
後悔しても既に遅し。
同類を見つけた真綾の目は既にキラッキラに輝いていた。
「じゃあじゃあ、パンケーキにかけるのは蜂蜜が定番なんだけど――」
真綾は、初めて自分の話題で話が盛り上がると思い、これでもかと知識を全開に披露して弾丸トークを始めてしまう。
和昌はもういろいろと諦め、ニコニコしながら相槌を打って話を聴くことにした。
と、同時に内心思う。
(さっきの地震がもしも受付嬢から聞かされた話だったとしたら、これから徐々に大きくなっていくってことなのかな)
大災害――この言葉がどうしても脳裏を過ってしまう。
実際に、和昌は地上でそういった事に巻き込まれたことはない。
しかし、歴史は繰り返されるという言葉があるように、歴史などの勉強をした際に必ず地震はあった。
それだけではない。
地上での災害は常に悲惨なものばかりだが、それがダンジョン内で起きるという事はどういうことなのか。
つい先ほどの話では、ダンジョンの中でも生活している人が居る。そんな人達は、地上よりも逃げ場のない場所でどうするのか。被害はどれぐらいになってしまうのか。
たった今、ちょっとだけでも想像したらその惨劇がわかってしまう。
しかも、モンスターの大量発生も付随するというのなら尚更。
(俺の使命は、俺が思っている以上に壮大で
甘い物を食べ、体が休まっている状況だというのに、胃がキュッと締め付けられるような気がした。
「それでねそれでね!」
常に言葉が耳に届くおかげで、それ以上の最悪な出来事を想像しなくて済むから。
(準備を整える……か。もっと、自分の装備をしっかりと把握しておかないとな)
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