第34話『被害調査……は、やめておこう?』

「――っていう噂をチラッとみたんだよね」


 何気ない真綾まあやの会話に、和昌かずあきの心臓は一気に跳ね上がった。


 午後9時。

 紆余曲折あって、連絡アプリでグループが結成され会話が始まっていた。


 しかし、平常心を保たなければならない。ここはあえて、自ら質問をして見せる。


「噂ってなに?」

「ぜーんぜん詳しいことはわからないんだけどね。探索者が無差別に襲われてるって話なの」

「そ、そうなんだ」


 自分で攻めてみたものの、まさかのドンピシャな話題が返ってくるとは思ってみもなかった。

 平常心を意識になければならないとわかってはいるものの、引きつった顔で無理やりに笑うことしかできない。


「本当に噂だけなんだけどね。もしかしたらSNS創作ってやつかもだけど」

「そうなんじゃない?」

「普通に考えたら、探索者が襲われるなんてあまり現実的な話じゃないと思うけど」

「だよね~。それか、まさかのまさか探索者が探索者を襲っているとかっ」


 天乃そらの芹那せりなから否定されている真綾まあや。そしてその内容は、2人からしたら突拍子もないことを言っているように聞こえている。

 が、和昌の心境は真逆で、それはもう動悸がドッドッドッドッと高鳴り始めていた。


「むむむ……これはきな臭い事件ですな」


 真綾は探偵風に、人差し指と親指を顎の輪郭り合わせる。


「単純に考えるなら、大体2択だよね。不意を突いた1撃――包丁でぶすり。後は探索者同士の暴力沙汰」

「天乃助手、良い目の付け所ですな。私もちょうどそう思ってたところだよ」

「その変な呼び方はやめてほしいんだけど」

「えぇ~、いいじゃんいいじゃんっ」

「あー、このグループから真綾だけキックしちゃおうかな」

「それだけはやめてー! グループを立てたからってそれはズルーい! 職権乱用だー!」

「対処法は簡単。その呼び方をやめるだけ」

「わ、わかりました!」


 映像越しに、姿勢をビシッと揃えて敬礼する真綾を見て、一同はクスクスッと笑ってしまう。


「単純に考えるならその2択だけど、例外もある。和昌のように」


 芹那の考察に、和昌はむせてしまう。


「別に和昌が犯人って言ってるんじゃないよ。レア装備を所有している人間は、地上でも装備を許可されてるでしょ、って話」

「なるほどなるほど」

「それはたしかに」


 真綾と天乃も納得する。


「でもさ、レア装備を所有している人って例外なく探索者連盟に報告しないといけないし、そのデータは登録されてるからすぐに犯人が特定されそうなものだけどね」

「そこが引っ掛かるのよね」


 芹那と天乃が鋭い考察を続け、あっという間に和昌と受付嬢が話をしていた内容に追いついてしまう。

 だから、これ以上はいけないと和昌も口を出す。


「なあ、これ以上は話を続けなくていいんじゃないか? グループ初の通話なんだし、もっと楽しい話とか、今後の話を相談するとかしない?」

「まあ、それもそっか」


 と、一番鋭い意見を述べていた芹那が納得するも。


「あ、また事件が起きたらしいよ」


 と、スマホで通話をしながらパソコンを操作していた天乃が、偶然にも開いていたSNSで情報を見つけてしまう。


「今回も具体的な話じゃなくて、全部『らしいよ』って語尾に付いているからなんとも言えないんだけど」

「でもでも、ただの噂にしては複数件あるよね」

「えーっと、『どうやら、探索者連盟支部を中心に事件が起きているような気がする』だって。根拠とか何も提示されてないけど」

「それだけ聴いちゃうと、ただの創作話にしか聴こえなくなってくるよね」

「うーん、情報が出れば出るほど本当にただの噂話にしか聴こえなくなってきちゃった」

「そうね」

(なんだかよくわからないけど、勝手に話が収束してくれた助かった……)


 和昌がどうにかこうにか介入することなく、話が終わってくれたことに胸を撫で下ろし安堵する。


(それにしても本当に無差別なんだろうか。襲われている探索者に共通点があったり……いや、俺が考えるより受付嬢から正確な情報が伝達されるのを待っていた方がいいか)


 自身もゲームの影響で考察してみるも、そもそもの情報が少なすぎるため断念。


「じゃあカズが言ってた今後の話をする?」

「ああ、そうしよう」


 完全に話題から離れられたことに安堵し、知らない内に握っていた拳を開いた。


「盾を使った戦い方で気になったことがあるのよね」

「というと? 盾の内側から剣で攻撃ってできないのかなって」

「ほほお、それは気になる」

「でしょ。外側からだったら絶対に無理だろうけど、もしも盾の中から攻撃ができたら無敵状態なんじゃないかなって」


 芹那の提案に、和昌・真綾・天乃は「おぉ~」と口を揃える。


「一番面白いのが、剣で攻撃できるけど戻そうとしたら折れちゃったりして」

「うっわ、なにそれ一番笑えないパターンじゃん」

「えーいっ。って攻撃したら、ポキッとね」

「お菓子じゃないんだからやめてよ。ダンジョン内で武器が壊れるとか最悪も良い所だよ」

「ですよね~」


 真綾と天乃はコントを繰り広げるも、そこからヒントを得る和昌。


「――もしかしたら、本当に最強無敵な感じが完成するかもしれない」


 そんなことを急に言い始めるものだから、3人は揃えて首を傾げる。


「真綾が言ってたみたいに、攻撃はできるけど戻す際に折れるかもしれない。じゃあ、俺の剣だったらどうなんだろうって」


 3人は、すぐに演習場で剣から放たれた光を思い出す。


「そして、盾は俺を中心に形成される。じゃあ、両手で剣を握って円形にシールドを展開しつつ、剣で攻撃を放ったら一方的に戦えるんじゃないかな」

「なにそれ冗談抜きで最強じゃん」

「相手からしたら完全に打つ手なしだ」

「え? なにそれ強すぎない?」


 3人の意見は一致する。

 いや、これを聞いた人は全員が口を揃えてそう言うであろう。


「でもさ、あの時みたいに剣の能力を引き出すことってできるの?」

「……どうなんだろう。そこが一番の問題かもしれない」


 和昌自身もそこが一番引っ掛かっていた。


 能力を引き出す要因が、願いを叶えること。

 だとしたら、そもそも現状は無理に近い。

 なぜなら、強敵との戦闘を行っていないし、危機的状況に陥るということも考えにくい。パーティの連携力も高まってきていて、楽勝とは言わずとも快勝を続けている。


 そんな状況で、再びあの感情を呼び起こすことはできない。だけではなく、できればそんな状況にならない方が良いに決まっている。


「まあ、装備のことは実戦経験を積んでいかないとって受付嬢も言ってたし、そこまで焦らなくてもいいんじゃないかな」

「そうだね~」

「うん。私もそう思う」

「そうだよな。なんだかちょっと焦ってたかも」


 無意識に、受付嬢からの『覚悟は決めておいた方がいい』という言葉がチラついていた。


「それじゃあそろそろ寝ますかっ」


 真綾からの進言により、グループ通話は解散となった。


「くーっ、はぁ――。ダメだな。気にしないようにすればするほど、勝手に焦ってるんだな」


 頬を力強く叩く。


「強い装備を手に入れたって、俺は俺だ。等身大で頑張らないとな」


 気合を入れ直し、寝る前に少しだけ体を動かしたくなってしまい、ジョギングをしに夜道へと繰り出して行った。

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