第32話『効率化されたダンジョンでの戦い方』

「……という感じで、受付嬢の人と装備について話をしてきたんだ」


 和昌かずあきは【モータル・インデックス】とそれに付随する話を隠し、真綾まあや天乃そらの芹那せりなへ怪しまれないように情報共有をした。


 相談もなしにこういった行動をしたものだから、さすがに何か言われると覚悟していたが、予想は大きく外れ、「なるほど」と簡単な返事だけで終わったのだ。


 言い訳を用意していたが、残念ながらそれが活躍する場面はなかった。


「それじゃあ今日の予定だけど――」


 今日の予定は、SNSのグループで前もって和昌から提案されていた。

 こういったことは初めてであったことから、メッセージを送信する時は心臓がドキドキだったが、満場一致で了承を得られた。


 内容は至ってシンプルで、今まで率先して使用していなかった剣と盾をできる限り有効活用しようというもの。


「連携力を高めるには、私達も能力とかを体感しておいた方がいいもんねっ」

「でも大丈夫なの?」


 芹那が懸念しているのは、和昌が最前線で戦う事について。


「正直に言ったら、戦う前からドキドキしてる。でも、こんな装備を持っていて引き腰っていう方が情けないって思ってね」

「それもそっか」


 和昌は、受付嬢の話を聴いてから悩んで、悩んだ。

 リーダーであり強すぎる剣と盾の所有者でありながら、肝心な時に行動できないなんて、あまりにも情けない。

 それが自分だけならまだしも、パーティメンバーの危機に動けなかった結果――取り返しのつかないことになってしまったら死ぬまで公開し続ける。


 だからこそ、いつまでも「自分は初心者だから」と言い訳し続けることをやめなければならない。


「じゃあ行こう」


 和昌達が移動するのは第2階層。

 モンスターは能力を発揮するには物足りないものの、モンスターの数が多く出現し、第2階層の一角に行き止まりの部屋がある。

 そこで戦えば、避難するのは簡単であり、もしも通りかかる探索者への被害を考えなくて済む、という考えからそう結論付けた。


 第1階層を駆け抜けた先、目的地にたどり着いた一行は目の前に沢山いるモンスターを前に、戦闘する前に入り口付近で足を止める。


「確かに多いな」

「でしょ。でも、今回は適所ということで」

「それもそうだな」


[よしよしっ始まるぞおおおおおおお]

[モンスターの数が多いね。大丈夫そう?]

[やったれやったれ!]


 配信開始したばかりだというのに、視聴者がすぐに集まり始めた。


「よし、始めよう」


 カズアキはみんなと目線を合わせた後、すぐに駆け出す。


 視界内にうろうろしているモンスター――20体。

 全てが同じ種類ではないが、序盤の階層ということから強力なモンスターはおらず、それら全て身長は膝ぐらいしかない。


「こっちだっ!」


 カズアキはあえて大声を出し、自身に注目を集める。

 その作戦は上手くいき、部屋中に広がった声へ反応したモンスター達はジリジリとカズアキへ向かってくる。


 4足歩行の犬型、スライム型、2足歩行の鼠型などバラバラな速度で近づいてくるが、和昌がとる行動は回避ではない。


「みんな、頼んだ!」


 左手を前に、全身を覆うほどのシールドを展開。モンスター達は警戒することなく、真っ直ぐに前進し続ける。

 カズアキからしたらモンスターがシールドに触れたところで何も感じないが、モンスター側からすると接触して初めてその存在を把握。しかしサルイのような勢いがあるわけでもないため、違和感がある、程度にしか思わず何度もタックルを繰り返す。


 モンスター達がカズアキに集中している最中、マアヤ・ソラノ・セリナがモンスター達の隙を突いて攻撃を仕掛ける。

 不意を突いた攻撃だから、モンスター達はほとんど1撃で消滅していき魂紅透石ソールスフィアを地面にポトポトと落としていく。

 しかし、20体ものモンスターを一気に討伐することはできない。

 すぐに3人へ対して臨戦態勢に入るものの、今度は退避し、カズアキの背後まで駆け戻る。


[ははぁ、なるほど]

[ヒットアンドアウェイってやつか]

[これ強すぎて草]


 いわば、要塞を用いてモンスターを討伐する。

 そして陣形の要であるカズアキは、ただ待機しているだけだから疲労が貯まることもない。

 前回の装備を活かした戦い方より、かなり効率化されている。


[こうなったらイージーモードやな]

[勝ち確演出きたああああああああ]


 そして背後は通路になっており、カズアキが蓋をしているようなかたちになっているため、戦力となっている3人が休憩することもできるというわけだ。


「次、行くよーっ」


 マアヤの合図で、3人は再び攻撃を加え――20体のモンスターは見事に討伐された。


「これ、かなりいいね」

「場所を選ぶ戦い方ではあるけど――いや、別の場所だったら両手で盾を作ったら同じことができる、か」

「なるほど。完全に囲まれたら、盾を解除すると同時にカズアキの剣で薙ぎ切る感じで」

「それ、ありよりのあり」


 ソラノとセリナが次々に戦略を練っていく。


「でもでも、カズくんが盾を展開できる時間ってどれぐらいなの?」


 と、マアヤが疑問を述べる。


「言われてみれば、どれぐらいなんだろう」


 カズアキは、自分でも想像したことがなかったことからそう答える他ない。


[練習しときなよ(笑)]

[おーい、所有者なのに把握してないんかーい]

[大草原不可避]


 視聴者からツッコミが入っているのを視界の端で確認。

 カズアキ本人もそう思ったことから、


「ですよねー」


 コメントをそのまま受け止める。


「まあまあ、このまま実戦経験を積んでいけばそのうちわかるって」

「だな」


 体力を温存しながら戦えるのは、ダンジョンで狩りを続けるためには必要な事。

 ただでさえ移動は走る、以外の選択肢がないのだからこそ。


「今日はまだまだ戦えるし、じゃんじゃん稼いでいきましょ~っ!」


 第2階層で集めた魂紅透石ソールスフィアなんて、金額に換算したらかなりの小額。

 だから数は多く見える、たった今討伐した20体も、金額に換算したら雀の涙程度でしかない。みんなでご飯を食べに行けたとしても、最低金額を狙った品しか注文できない感じだ。


 だからこそ、効率的な戦い方が確立した今こそ稼ぎ時となる。


(やっと俺でもやれることができたんだ。しっかり頑張らないとな)

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