第26話『力を知れば知るほど、肌から離せない件』

 ダンジョンで一狩りを終えた一行は、目的地である探索者連盟支部へ向かい歩いている最中。各々がプラスチック容器に入っているジュースを飲んだりしている。


 決められた休みがない探索者という職業だからこそ、今のように平日かつ人が少ない状況でこういったことができるのだ。


「弱音みたいに聞こえると思うけど、正直この装備が怖くて仕方がない」


 和昌は、枷が外れたかのように叶化の剣エテレイン・ソード朱護の盾ヴァーミリオン・プロテクトシールドを使用した。

 結果、視聴者の盛り上がりと同じく自身も気分が高揚した。と同じく、この装備の能力を思い知り、そして値段を考えると一気に現実へ戻されてしまう。


「基本的にレア装備って、どういった存在の装備は知ることができるけど、使用方法とかは知ることができないんだよね?」

「私は調べたことすらなかったから、そこら辺は全然」

「だよね~」

「俺もこうして使っているからこそ思うけど、どこの誰かも知らない人に手の内を知られたくはないからな」

「それもそうだよね」


 実際にレア装備を手に持っている人間はそこまで少なくはない。

 中には和昌のように複数個所持している人間も居たりするが、それは稀である。


 そもそもレア装備を手に入れられることすら稀であるから、普通の生活をしている人間はほとんどの人間が知らないし、探索者であっても自ら調べる人間は少ない。


「でもさ、こうしてパーティメンバーにそういう人間が居ると自然と目に入って来ちゃうよね」

「すっごいわかる」


 真綾と天乃が話をしているのは、特例の話。

 探索者は基本的に地上で武器を装備できない。例外もあったりするが、それはまた別の話。

 2人が話をしているのは、レア装備をしている人間についてだ。


 高頻度で視界に飛び込んでくるわけではないが、地上で装備を許可されている特例がレア装備を手に入れた人間。

 情報としては知っていても、以前よりは少しだけ身近に感じてしまうようだ。


(てか今更だけど、芹那には装備の値段を伝えたのに2人にはまだだったな)


 芹那の時を参考に考えると……いや、どんな人間が相手だろうと驚かせることはもはや確定している。

 ならば今か、と言われると、飲み物を手に持っているし外だから避けた方がいい。

 じゃあいつならいいのか、と言われるとなんとも言えない。互いが自宅に居る時、通話で伝えるのが最善なのかもしれないが……とも考えるが、逆に好機という結論に至る。


(どうせこれから装備の性能を確かめられるのなら、全部一緒に知ってもらえばいいじゃないか)


 どういった場所で能力テストが行われるかはわからない。しかし、逆に考えたらこの機を活かした方がいい。


 しかしそれと同時に、あからさまに嫌な顔をしている受付嬢を容易に想像的でしまう。


「受付嬢の人は、外では危険性が増すっていう話をしていたけど全然そんなことないよね」

「うん。私達と同じく、ちょっとだけ気になっているような目線はチラホラと感じることはあるけど」


 和昌も真綾と天乃が言っていることを理解できた。

 まるで自身が人気者にでもなってしまったのか、と錯覚してしまう時があるものの、実際のところ一般人は見向きもしていない。


「改めて剣の方を見たけど、神秘的で綺麗だよね~」

「俺からしたら、いつ折れてしまうかわからないから怖いけどな」

「ふとした時にパリンッていっちゃいそうだよね」

「もしもそんなことになれば、カズは顔面蒼白だろうけど」

「やめてくれ」


 芹那が会話に割って入ってくるものの、その内容は和昌にとって心臓が止まりそうなものだった。


「まあ、私も正式にパーティ加入の申請ができるし一石二鳥だから、どんな結果でも構わないけどねー」

「そういえばまだだったな」


 和昌に続いて、真綾と天乃も「そういえばそうだった」と口に出す。


「でもちょっと緊張してきたかも」

「ビビっちゃった?」

「んな馬鹿な。と意地を張りたいところだけど、まあその通りだな。テストだの試験だのって言われると、緊張はする」

「私もネットで調べただけだから、どんなことをするかまではわからないからなんとも言えない」

「んむー。怖い人達に囲まれたり、人体実験のサンプルとして扱われるとかってないよな」

「そんなことあるわけ……ない、とは言い切れないわね」

「マジでやめてくれ」


 和昌は全身に悪寒が走る。

 まさか、本当に非人道的なことをされるわけがない。と、信じたいものの、特例を検査するという事は、もしかしたらそのようなことがあるのかもしれない。


「まあまあ、今から身構えても仕方がないしリラックスリラックス。私が飲んでる、このサクランボ味が美味しいから飲んでみてよっ」

「いいや、私が飲んでいるスターフルーツ味の方が美味しいから飲んで」

「どうしたの急に」


 真綾と天乃がそんなことを言い出すものだから、和昌は動揺を隠せない。


「ほら、それはさすがに、さ」

「いいよ、気にしないから」

「私も気にしない。後、よかったら和昌が飲んでいるやつも飲ませて」

「それはダメ。私が先だよー!」

「決めるのは和昌だから」


 間接キスになってしまうから、という理由で断りを入れたというのに、真綾と天乃はお構いなしに話を進めようとしてくる。


「ねえ、人通りが少ないからって周りの目線を気にしなさいよ」


 と、芹那が注意を入れる。


 が。


「別に迷惑ってわけじゃないでしょ。これぐらいのこと、気にすることでもないって」

「うんうんっ」

「――はぁ……」


 なんとかは盲目、という言葉を頭に思い浮かべてため息を吐く芹那。


「カズ、私が飲み物を持っていてあげるから。お姫様達のご期待に応えてあげなよ」


 返答や同意など待たずして、芹那は和昌の手から飲み物を取り上げる。


「気が利くわね」

「ありがと芹那っ」


 しかし2人はこの瞬間、全く気が付いていなかった。

 芹那がとったその行動を、たった数秒後に後悔する羽目になる。


「カズ、このチョコシェイク美味しいわね」

「んあ? そうだろ、俺の好物だ……から、な……?」

「んあーっ!」

「抜け駆け泥棒猫!」

「そこまで言われる筋合いはないけど」


 なんと、芹那は和昌が飲んでいたものを口に運んでいたのだ。

 しかもコップ口ではなく、ストローで。


「でもこれで、そこまで気にならないでしょ」

「まあそれはそうだけど……」

「そうじゃなーいっ!」

「えい」


 真綾は事全てにリアクションをとっていた。

 だが、天乃はその隙を逃すことなく、和昌の口へ自身の飲み物を差し出した。当然、ストローが口の中へ入るように。


「あーっ! 天乃までええええええ」

「もはやこうなれば早い者勝ち」

(驚きたいのはこっちの方なんですけどぉおおおおおおおおおお!)


 リアクションを取りたいが、今口の中へ挿入されたストローのせいで何もできない。


 ――と、こんな感じにワチャワチャと目的地まで向かう一行で合った。

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