第16話『新しい名前で、新しいメンバーと再出発』
「あ」
そして今――芹那と合流を果たした後、とりあえずなんとかなるだろうと2人とも合流した瞬間……やはりよろしくなかったなと後悔している。
なんせ、物凄い剣幕でこちらへ視線を突き刺しているのだから。
「その人、誰?」
と、邂逅一発目に口を開いたのは、
「連絡を入れ忘れてすまない。こいつは
「なるほど」
「ふぅーん」
腕を組んだまま尚も変わらぬ目線を送り続ける
「"
「いやいやいや。実は中学1年で知り合って、なんだかんだで疎遠になってたんだ。それで、久しぶりに連絡したらって感じだから」
「そう。ならわかった」
「じゃあそれぞれ自己紹介ってことで」
芹那は和昌の隣まで半歩前に出る。
「私は
「ええ、問題ないわ。私の名前は
「
「よし、自己紹介が終わったわけだし。パーティ申請は活動後ってことで」
数分間の話し合いを経て、4人は歩き出した。
施設内を歩く最中、女性同士でいろいろと話をしていたが、和昌はどことなく話に入ることができなかった。
ダンジョン入り口前、それぞれが武器を受け取る。さあいざダンジョンに入った途端、つい後回しにしていた話題が真綾かや切り出された。
「そういえば、和昌って配信とかって興味はあったりするの?」
「んー、どうなんだろう。やってみたいって気持ちはあるけど、どうやって始めたらいいのかサッパリなもんで」
当然、嘘である。
そして、平然とそんなことを言い出すものだから、「ここに嘘つき野郎が居るぞ」という目線を芹那は送り続ける。和昌はそれに気づいてはいるが、尚も変わらず態度で振舞い続けた。
「言い忘れてたんだけど、私達って一応は配信者として活動してるの。だから、これからはダンジョン内での様子を配信したいなって思っていて」
「さすがに無許可で配信を続けるのは違うよね、って2人で話し合ったってわけ。それでそれで、じゃあだったら和昌も配信者になっちゃえば一石二鳥なんじゃないかなって」
「なるほどな。じゃあそうなると、芹那もってことになるけど。俺はいいとして、どうなんだ?」
「質問を質問で返す感じで悪いんだけど、ペアチャンネルってことにしちゃえばいいんじゃない? たぶん、そっちもそんな感じでしょ?」
「うん、そうだよ。私がチャンネル主で、ペアとして天乃がいる」
(ふむ。グループ系のチャンネルみたいにしているってことか。言われてみればそっちの方が楽だな)
和昌は「ほおほお」と、まるで初見ですと言わんばかりに表情をも寄せて話を聴く。
「じゃあ俺は真綾がチャンネル主の配信にそのまま出るってだけでいいんだな?」
「いや、そっちはそっちでこっちはこっちでもいいんじゃないかな」
「なんで?」
「どうして」
芹那の提案に、真綾と天乃は間髪入れずに疑問を投げかける。
「理由としてはせっかく人数が居るんだから、複数の視点があったら面白いと思わない? コラボみたいな感じになっちゃうけど、同じパーティっていうんだったら不思議ではない」
「……たしかに。かといって視点を増やすために4人全員で配信をしたとしても、視聴者は画面を追いきれないってわけね」
「そういうこと」
今更ながらに、和昌は「いつの間に敬称略かつ下の名前で呼び合うようになったんだ」と内心思う。
「なんだか丸め込まれているような気がしなくもないけど、それは一理ある。和昌の装備は絶対に配信映えするから、脇役じゃもったいないってのはその通り」
「配信映えっていうのがいまいちわからないが、そうなのか?」
「そうだね。映えるっていうのは、まあ調べてもらって。簡単に言ったらド派手な演出的なのが、配信や動画では注目を集めやすいって感じ。自分で使っていてそんな憶えはない?」
「あるな」
「でしょ」
天乃との、ほぼ完璧なやりとりに「俺ってもしかして役者の才能があるんじゃないか」とか思っている。当然、芹那は「後で罰が当たるぞ」と目線を送り続けていた。
「じゃあチャンネル名とかアカウント名とかを設定してみるか」
和昌と芹那は2人から少し距離を空け、背中を向けるかたちで作業を進行させる。
アカウント登録をするといっても、ダンジョン内ではスマホを持ち歩くことはできない。
ではどうやってインターネットに接続するかっていうと、ダンジョンへ入る前に装備と一緒に渡されるネックレスで可能。操作は至ってシンプル。ほぼ全てが音声入力が可能で、文字入力を必要とする動作に関しては空中にキーボードが出現する。
「さて、どうしたものか」
「今回は1人分だし、パパっとやっちゃおうよ」
「いやさ、名前系はいろいろと考えなきゃだろ」
「あー、そういえばそうだった」
「まあ手こずっている風にしながら、でもふざけた感じが出ない名前にしたいな」
「実は登録者数3万人のゲーム実況者です」なんてことは口が裂けても言えない。いや、そこまでは言っても問題ないが、『大炎上をしてアカウントがバンされた挙句に業界から追放された』人間ということがバレるのは非常にマズい。
だからこそ、大根役者を演じている。
「【
「控えめに言ってカッコいいが、長いだろ」
「じゃあ普通な感じかつ、らしさを取り入れる感じで【紅の探索者】とか?」
「お、それいいな。もしも装備を売る時はチャンネル名を変更しなくちゃだが」
「その時はその時」
初心者とは、とツッコミが入れられそうなぐらいのタイピング速度で入力を終える。
「もろもろの登録も完了させてっと。後は活動名だな」
「私はSNS用の……って思ったけど、いろんな可能性を考えたら新規に考えた方がよさそうね」
「そうしてもらえると助かる」
2人は頭をこねくり回して思考を巡らせるも、やはり名前を決めるというのは即決できるものではない。
閃き、とは言わずとも、逆に理論で芹那からの提案が出る。
「逆に考えて、本名をカタカナで呼び合えばいいんじゃない。ゲーム内とかって、そんな感じでやってる人もいるでしょ」
「ほほー、リスクを避けるとかってのを取っ払う感じか」
「そうそう。本名っぽい名前でも、感じなわけじゃないし名字がついているわけでもない。だから、変な前より呼びやすくて親しみやすい」
「芹那、お前天才か」
「ふふんっ、もっと褒めなさい」
鼻を高くする芹那を放置し、和昌は2人の元へ戻る。
「こっちのチャンネル名は【
「ほほぉ~、全然ありありだねっ。私達も活動名は本名のままなんだよ。だからこれからも気兼ねなく【マアヤ】って呼んでね」
「私も同じだから【ソラノ】って呼んで」
「わかった。てか今さらだけど、うちの女性陣は名前の響きが綺麗だよな」
「わわわぁ~っ! そんなこと初めて言われたぁっ。超嬉しいっ!」
「そう直球で言われると、恥ずかしいわね。でも、悪い気は全然しない」
「んー、そういうのって、私にも直接言ってほしいなって思うんだけどねー」
と、背後に立っている芹那は釘を刺す。
「いろいろと慣れなきゃだし、スローペースでいろいろとやっていきますかっ」
ノリノリなマアヤを先頭に、4人はダンジョンの奥へと足を進めていった。
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